かわいそうなふわとろの話
マクドの濃厚ふわとろ月見バーガーがずっと食べたくて、でもなかなか食べる機会がなかった。
今日はちょうど駅前の大型商業施設に行きたかったので、買い物ついでに駅の反対側のマクドへ寄って、濃厚ふわとろ月見バーガーを食べて、ちょっと作業でもして帰ろうかなと出かけた。これは実は前日から考えていたことなのである。
もうだいぶ濃厚ふわとろ月見に脳内を侵されながら大型商業施設へ一歩足を踏み入れると、ハンバーガーの匂いで鼻腔が満たされる。「濃厚ふわとろ月見で頭がいっぱいのあまり、鼻までやられっちまったか?!」と思ったが、どうやら今日から新しくハンバーガーの店がオープンしたらしい。
この前までタピオカドリンクの店舗があったところに新しく入ったようだった。去年の夏、タピオカが一世風靡していたころに鳴り物入りでオープンしたお店だったのに、コロナの煽りを受けてしまったのだろうか。タピオカどもが夢の跡。
あまりにおいしそうな匂いに思わず気を取られそうになるが、「いやいや今日こそは濃厚ふわとろ月見を食べるんだ」と自分に言い聞かせ、目的の買い物を済ませるため、エスカレーターで上階に上がる。横の広告にふと目をやると、件のハンバーガー店は開店記念として今週末は半額セールをやっているらしい。神戸牛を使ったハンバーガーが半額で食べられるとはなんと魅力的な……と、ここでグッと心をつかまれる。
その後次々と買い物を済ませるが、頭の中はもう神戸牛でいっぱいだ。すべての用事を終えた私は、「ちょっと見るだけ見てみようか…...ほんとにちょっと見るだけ…...」とこの時点ではまだ濃厚ふわとろ月見に後ろ髪を引かれながら、ハンバーガー店の前まで行ってみることに。
店の前の看板には、多種多様なハンバーガーが並んでいる。どれも神戸牛を使っているそうで、肉肉しいパティのシズル感がハンパない。ゴリゴリにアメリカンな本格派のやつだ。ポテトもシャキシャキにまっすぐのやつではなくて、クルックルでカリッカリの、なんか特別感があるアレだ!「単品ひとつ1,000円前後するハンバーガーが半額で食べられるとはなかなかお得だな…...オーソドックスなハンバーガーにしようか、アボカドバーガーにしようか、チーズバーガーにしようか…...いやチーズバーガーだけでも4種類ぐらいあるぞ…...」と、このときすでに濃厚ふわとろはすっかり頭から追いやられていた。
どれにしようかとしばらく悩んだ挙げ句、ウッキウキでレジへ行き、注文する。お店の方が「ちょっと時間かかりますけど、大丈夫ですか?」と尋ねてきたが、「大丈夫ですよ!」と爽やかに答える。なにしろわたしはウッキウキなのだから。
しかし、続けて「今からだとお渡しまで1時間ぐらいかかるんですけど……」とお店の方。思わず「あぁ……」と落胆の声が漏れる私。もう買い物はすべて済ませてしまっていたし、ハンバーガーを待つためにスタバで1時間潰すとかも意味わからん。さっき「大丈夫ですよ!」とかイキってたのまじでなんやってんと思いながら、私は「じゃあ、いいです……」とだけ言って店を後にした。
結局、予定通りマクドへ行って濃厚ふわとろ月見バーガーセットを食べ、ちょっと作業してから帰宅した。
ここで私が何を言いたかったかというと、この件でのいちばんの被害者は「濃厚ふわとろ月見バーガー」だということだ。
販売開始から数週間、ずっと楽しみにしていたチャンスがめぐってきて、本来なら一点の曇りもなくハッピーな気持ちで食べられるはずだった濃厚ふわとろ月見バーガー。
それが、私がちょっと本格派神戸牛バーガーに気移りしたばかりに、念願叶って食べられたはずの濃厚ふわとろに対して、「パティ、薄いな……」と思ってしまったし、ふわふわのバンズにも「何をふわふわしとんじゃ!」と、存在そのものを根本から否定するような苛立ちを少しばかり覚えてしまった。ポテトもクルックルのやつが食べたかったのに……めちゃくちゃまっすぐやんけ……
ほんとに理不尽。かわいそすぎ。
これはもうすべて、私の心の弱さが招いてしまった悲劇である。
神戸牛バーガーは神戸牛バーガー!濃厚ふわとろ月見は濃厚ふわとろ月見!みんな違ってみんないいはずなのに、どうしてすぐに比べようとするのか。勝負してる土俵が違うねんから、ゴリゴリの肉が食べたかったのになとか、クルックルの方がよかったなとか、そんなんちゃうねん!
この教訓を胸に、私は改めて“個性“を重視する大切さを感じたとか感じなかったとか。
これはね、寓話ですよ。
いやでも神戸牛バーガー食べたかったな。
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