コビトとトビト

むかしむかし、
地上には背丈が露草くらい小さな人たちが暮らしていて、
空には大きな人が翼を広く伸ばして寝たり起きたりしていました。

小さな人はあまりに小さかったので
空にいるのが大きな人なのだとは思いもよらず
そこには白や灰色や黒い色の雲が浮かんでいるものだとばかり思っていて
「きょうはふしぎなかたちの雲が浮かんでいるなあ」などと話し合ったりしながら、ときどきぽかんとそれに見とれたり、あんまり空を見つめるものでくしゃみが出たりしていました。

大きな人は、
小さな人があまりに小さかったので
地上にいるのが小さな人とは思いもよらず、
「なんだか細かいいきものが、駆け回ったりこっちを見たりくしゃみをしたりしているなあ」などと考えていました。

ある日、小さな人のなかに
ぼくたちもあの雲みたいに空を飛べないものかしら?
と願うひとがあらわれました。

みなから「発明家」と呼ばれたその小さい人はいろいろとくふうをして
木の葉をつらねて背負ったり、
焚き火のけむりを袋へつめこんだり、
海辺でカモメにとびのろうとしてみましたが、
どうもうまくいきませんでした。

そこで小さな人たちは会議を開くと
みなで力を合わせ、くさっぱらをかけまわり、
ある種を集めることにしました。

春に生えてきた芽に水をやり、
夏に赤い花が咲くとみなで手を叩いて踊り、
涼しい風が吹く頃には、実が熟すのを
いまかいまかと楽しみにしていました。

秋、小さなひとたちはみなで
熟したホウセンカの果実にしがみつき
じっ、と時を待ちました。

その日、大きい人たちは
「きょうは下のほうがしずかだなあ」と、地上をのぞきこみました。

そのとき、草のざわめきのなかから、
熱くなったポップコーンみたいに
無数の小さい人たちがぽぽぽぽぽん!!
と勢いよく飛び出しました。

飛び出していったたくさんの小さな人々は、
大きな人々が広げたままの翼を突き抜けて
たくさんの穴ぼこを空けてしまいました。

穴ぼこだらけの翼では空は飛べません。
大きい人たちは
まったく何が起こったのかわからないまま
めをぐるぐるまわし
破れた翼をひらひらまとって
落下していったのです。

うちあげそこねられた人工衛星みたいに

こうして、地上には飛べない大きな人だけが暮らすようになり、
空は、飛べない人が見上げるだけの場所になったのです。

飛び出していった小さな人たちがどうなったのかは、
空の星しか知りません。

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