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音楽への愛が伝播するドキュメンタリー『くるりのえいが』

ミュージシャンがレコーディングを終えてアルバムを完成させることは、音楽ファンにとって喜ばしいことに他ならない。だけど、彼らがレコーディングをする姿を覗かせてもらったら、私は「ああ、永遠にこの時間が終わらなければいいのに」と思ってしまった。

『くるりのえいが』を観てきた。1996年に結成されたロックバンド、くるり。2002年にドラムの森さんが脱退して以降、ボーカルギターの岸田さんとベースの佐藤さんを中心に、様々なミュージシャンをメンバーに迎えて音楽活動を続けてきた。

2022年、アルバムの制作のために2人が声をかけたのは森さんだった。この映画は、くるり結成当時の3人が20年ぶりに集まり、アルバム「感覚は道標」を制作をする様子を追ったドキュメンタリー。

ナレーションは一切なく、3人が楽器を演奏し、話し合い、笑い合う様子が淡々と描かれている。このアルバムにおける「3人以外の音は入れない」というポリシーに応えるように、映画も3人のインタビューと制作風景のみで進んでいく。

レコーディングをしている様子だけで、どうしてこんなに見ごたえがあるのだろう、と言うべきか。はたまた、日本のロックシーンを引っ張ってきたこのバンドがレコーディングする様子を、ナレーションもなくこれだけたっぷり見させてもらって、なんと贅沢な時間だろうと言うべきか。

音楽を通してコミュニケーションする3人の、無理なく自然体で、お互いに委ね合っているような空気が、とても心地よかった。「ずっと見ていたい、終わらないで欲しい」と思う自分がいた。

これはノンフィクションのドキュメンタリーだ。アルバムが完成しなければ、リスナーとしての私はくるりのアルバムを聴くことができない。でも、アルバムが完成したとき、映画を見ている私はこの心地よい空間とお別れしなければならない。

その矛盾というか違和感というか、それこそ「ミュージシャンの制作風景という”裏側”を、ありのままに丁寧に、贅沢な形で見せてもらえている」、その実感に他ならない。

くるりのファンかどうかに関わらず、全ての音楽好きにこの映画を心からおすすめしたい。

世界最高級の紅茶を作るドキュメンタリー映画があったとして、それが紅茶の中でもアッサムを扱う話だとする。普段紅茶はダージリンしか飲まない人でも、紅茶マニアならその映画は見に行きたいと思うんじゃないだろうか。

くるりのことをあまり知らなくても、もっと言ってしまえば、たとえ万に一つこの映画でくるりのことを好きにならなくても、あなたが好きな音楽を今よりもっと好きになれる映画だと思う。いや、あんな雰囲気のいい音楽制作の現場を見たら、誰でもくるりのことが大好きになっちゃうと思うけどね。

映画館では10月13日から3週間限定で、11月2日まで上映されています。各種配信サイトでの配信もあります。

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