今週のよかったこと ディレイ版ナウシカ歌舞伎を見た編
ごたぶんにもれずO(おうちにいる)L(レディ)ことOLです。note放置しすぎじゃない?放置しすぎです。
先がかすんでいる日々にちょっとずつ調子が狂いながら早数か月たちましたね。おうちにいながらじっとゲームばっかりしてるけど、黙ってるわけじゃないんだぞ……と、怒りながら、泣きながら、しかしそれはそれとして日々の楽しいことはしっかり享受しつつ暮らしておりますが、みなさまいかがおすごしですか。OLの情緒はちょっと油断をするとおしまい一歩手前をぐるぐるしそうになるけど、概ね元気です。
3,4か月前の出来事だったとは思えないんだけど、ちょっと前にナウシカ歌舞伎の映画版を見に行ってきたのでその感想をまとめます。サムネ画像はこないだ散歩したときに見かけたやつで全然関係ないです。
本当は生で見られたら一番よかったんだけど、映画として限定上映してくれたことで菊之助の姫ねえさまを拝むことができて風の谷の民は心の中で泣いた。また、最近は映画館でジブリの名作を見ることができるので、歌舞伎版を思いながらアニメ映画版の姫ねえさまに会いに行くこともできてうれしいですね。
私は歌舞伎を長年ずっと見ているわけじゃない俄かなのでたしかなこととしては言えないんだけど、菊之助さんがこの風の谷のナウシカを将来的には現在の古典歌舞伎みたいに、特定のある一幕だけを上演するようになればいいなあという構想が(あるいは野望が)あるのではないかと思った。
そう思うくらい一幕事の場面がナウシカの世界で、かつ歌舞伎的な絵としてできあがっていて、めちゃくちゃかっこよかったのです。
特に印象的だったところだけ先に言わせてもらうと、後編に含まれていた連獅子です。
歌舞伎版風の谷のナウシカの連獅子、世界で一番胸が熱くなる連獅子と言っても全く過言ではないと思う。
予告で既に連獅子の演出は出ていたんだけど、本編を見ると「まさかその流れで」という場面(墓の主VSオーマ)だったので私にとってはすごくサプライズだったし、「ナウシカでも連獅子やるんだなあ」というぼんやりとした期待を大きく上回るかっこよさだったのです。
あまり知識のないぺーぺーの印象として、連獅子って何か、喜ばしくめでたい演目のような印象があるんですが(親子襲名披露とかの印象かも)、ナウシカでは白い獅子の墓の主と赤い獅子のオーマがお互いを潰しあうように激しく頭を振りあって、闘牛のように荒々しく、これはまさに戦いの場面なんだと手を握り締めてじっと固唾をのんで見守ってしまった。結構長い尺の場面だったはずなんだけど、歌舞伎版ナウシカの中でグワッと集中したシーンの一つだった。
赤獅子のオーマがほかの赤獅子(宝塚とかでいうところの黒天使とかなんとかの影、みたいなやつよねあれは)を引き連れて花道へ躍り出た時に感じたぶわっと心が震えた気持ち、あれはたぶんナウシカの気持ちをちょっと追体験してたと思う。「オーマ…!」てなったもんな……。
あと白い獅子の扮装の墓の主、お衣装の柄が墓の壁の文字柄でかっこよかった。
以下、前編・後編あわせて面白かったところを箇条書きにします。
■前編・アスベルとユパ様の生水殺陣&飛び六法
飛び六法ってさ……なんであんなにかっこよくみえるの……?
あの動きって絶対に非日常的・非一般的な動きでもうまったく誇張された動きであって、ちょっと間違えるとコミカルに見えてしまうかもしれないのに、ユパ様とアスベルが花道をおおきく前後して飛び跳ねながらはけていくあの一連の動きのダイナミックさのかっこよさに打ちのめされてしまった。『ナウシカ』のユパ様とアスベルが「飛び六法」をするという演出なのにあまりの違和感のなさもすごい。完全に歌舞伎の文法にのっとったかっこよさを、キャラクターとしてバッチリ説得力のあるものになってました。
生水演出のためらいのなさもすごい。
歌舞伎って、一つの画面や一つの動きをいかにかっこよく作って、観客に対して「はいここ!ここがかっこいいところですからよく見てくださいね!!!」といかに示すか、という点に全然ためらいがないなと思います。
その間の取り方は(現代劇とかだったら)ダサさとか、テンポの悪さにつながりかねないけど)歌舞伎はしっかりたっぷり間をとる。とったうえで、客に「ウワーッかっこいい!」って狙った感情をもりあげてしまうのほんとうにすごいな。
■子役を使ったダイナミック遠近法
そんなのありかよと一番衝撃を受けた演出。遠景でメーヴェを駆る姫姉さまの距離感を演出するためその場面だけ子役がナウシカを演じていたんですが、最初は「あ、人形を使ってるんだな」と思ってよくよく見たら人間だったのでほんとうにたまげた……。休憩中一緒に見た友達にまっさきにこの話をもちかけるくらい衝撃だった。なんでもありで潔くてかっこいいな歌舞伎。
■ケチャ役のひと
「ふーんナウシカ歌舞伎には女の人も出てくるんだなあ」と思っていたら普通に歌舞伎役者の中村米吉さんという方で女優さんではなくてびっくりしたという話です。同年代の女の子が舞台に立っているのかと思ったんだよ……。
普段宝塚を見ている人間の感覚とは思えないくらい私がチョロかったんですが、でも本当にリアルなおんなのひとだった。なお後編では庭の主がナウシカの母の姿になる場面があるのですが、そこでもナウシカのお母さんやってるときだけ女の人の声で吹き替えてるのかと思いました。歌舞伎の芸が性の表象の垣根を行き来するフットワークがめちゃくちゃ軽い。
■クシャナ殿下@七之助
ほ ほんものの殿下だ(ほんものってなんだ)と思わずにいられないほど存在の輝きと御声に民草として跪かざるを得ないくらいクシャナというひとの作りこみが段違いだった。アニメそのまんまか?と聞きまごうお声に原作版の孤独の影が付きまとっていて美しかったです。ほんとうに白い魔女だった。
■ナウシカ@菊之助
正直クシャナ殿下より難しそうだなあと思っていました。作品のトーンを決めてしまうのはナウシカの存在だと思っていたので、どうなるんだろうと思っていたのですが、幕が開くとそこには最後まで気高くまっすぐに強い姫ねえさまがいて、心が完全に風の谷の民になりました。手を血で染めながら心を痛めたり、自分のために犠牲になった兵士のことを思う姫ねえさまの心のうごきや蟲との交流が歌舞伎の台詞や踊りやうたで丁寧に表現されて、しかもそれが「ナウシカ」として破綻していない。墓の主相手に啖呵をきっても凛としている姫ねえさまかっこよかったですね……。
NHK?かなにかでやっていた歌舞伎版ナウシカのドキュメンタリー番組では、ナウシカの衣装やお化粧、髪型に苦心されている様子を事前に見ていたけど、その苦心あって姫ねえさまの凛々しさとやさしさが歌舞伎の文脈で表現されててすごくよかったな……。トルメキア、風の谷、土鬼といろんな集団に対して歌舞伎の衣装で表現する幅が広くて柔軟で面白かったです。
超余談ですが私は何年か前の某宝塚歌劇団雪組トップスターの退団公演を見た女なので、トリウマが出てきたとき「前田慶次でお世話になったお馬さんかしら……」と思いをはせたりした。
通し狂言としてぜひ今度は生の舞台で歌舞伎版の風の谷へ行ってみたいと思ったし、なにか一つの場面でも歌舞伎の興行でやってくれたらうれしいなあと思ってました、が、このコロナの騒ぎでそんなどころじゃなくなりましたね本当に悲しいゆるさんぞコロナ。