
静物画の世界を学びたい理由
スペインの美術館を巡っていた際、強く心に残ったのは静物画の美しさだった。
特にプラド美術館で『Still Life with four Bunches of Grapes』と題された葡萄の絵と対峙した際はあまりの美しさにしばらく動けなかった。

フアン・フェルナンデス・エル・ラブラドール作
衝撃的だった。
透明感と言えば形容できるのか、
瑞々しさでは不十分か、
どう表せばいいのだろうかこの美しさを。
衝撃のままに、ミュージアムショップで絵葉書を買い求めた。
ホテルに帰ると絵葉書にその日の日記を書いた。
「静物画は鮮やかで、情熱的だと思った。もっと観たい。」
翌朝、ホテル近くのポストからその葉書を自宅宛に出した。この葉書は、2ヶ月ほどしてから日本の自宅に届いた。
絵葉書が自宅に届いた頃。
神保町で毎年開催されている古本まつりに赴いたのだが、そこでとある本を見つけた。
『スペイン・リアリズムの美ー静物画の世界ー』
思いもよらないタイミングで自分の好きな本が歩み寄ってきてくれた。迷わず購入した。
この本の中に、フアン・フェルナンデスについての記載があった。あの葡萄の画家だ。
胸を躍らせながら読んだ。
……こうした静物画家の中では、一種謎めいた評判と名声に包まれたまま今だ知られざる人物、フアン・フェルナンデスー通称〈農夫〉ーを取り上げねばならない。この画家については、パロミーノですら1600年頃歿していたということ以外はほとんど何も知らず、いくらかの知識を与えてくれるのは、署名の記された唯一の作品、概ね確かな裏付けのあるイギリス王室コレクション所蔵の作品が何点か、さらに1620年代から40年代にかけての史料にあるわずかな記録にすぎない。……
夢中になっている画家は、謎多き人物だった。
そんなの、もっと気になってしまう。
もっともっと知りたい。彼がいったいどんな作品を残したのかは勿論、彼の生い立ち、一生を知りたい。何故あんな美しい絵を描けたのか。
何故あんなにも美しかったのか。
そういった理由で、この本を筆頭として静物画関連の本を好んで読むようになった。
あの日感じた美の理由を知るために、学びたいことがたくさんあるのだ。
自分の専攻している研究もまた別にあるためなかなか多くの時間を割けてはいないが、今後もゆっくりと静物画の世界を堪能していきたい。
そしてまたもう一度スペインに行ってあの絵と再会したいと強く願っている。