人工言語を作るには 序論
僕は言語に興味があります。この世界を記述するうえで言語は必要不可欠です。なぜならヒトは世界を言語によって認識し、解釈するからです。世界を理解するためには言語の理解は避けて通れません。僕は世界を理解したいという欲求があります。したがって言語も理解したいのです。
僕は言語学について、ずぶの素人ですが、人工言語を作ってみるという無謀な試みをすることで僕たちが普段当たり前のように駆使している言語がどういうものかを詳らかにしていきたいと思います。かの大哲学者ライプニッツは「アルス・コンビナトリア」という世界を記述する普遍言語体系の構築を試みました。僕も僕なりにアルスをコンビナトリアしてみます。なお、ここで言う言語とは自然言語のことを指します。
言語の構成要素
一言に言語といっても、それは複雑な系であることは直感的にわかります。品詞や時制などの概念や命題や論理といったものも言語は内包しています。これらをひっくるめて"言語"と呼ぶわけですね。そこで言語というものを理解する第一歩として言語を要素分解してみましょう。
まず言語の構成要素を2つに大別します。「エンティティ」と「リレーション」です。日本語で言えば、「実体」と「関係」です。実体とは主に名詞にあたるものだと考えていただければ今はいいでしょう。関係とは実体同士の関わりかたです。例えば「机のうえにリンゴがある」という言及は「机」「リンゴ」が実体で「うえにある」が関係です。
実体を構成するもの
実体はさらに分解できます。ではその構成要素は何か。面白いことにそれは、実体と関係です。あれ?さっき言語を実体と関係で分けたよね?と思われるでしょう。そうなんです。つまり、言語は無限通りに実体と関係が絡み合った複雑な構造体なのです。実体は入れ子構造をしていると考えます。これだけだとなんだか話が抽象的なので具体例を出して考えてみましょう。
水分子はH2O、つまり水素原子が2つと酸素原子が1つで構成されています。これは「酸素原子の左右にそれぞれ水素原子が1つずつ繋がっている実体」と言えます。水分子という実体は酸素原子という実体、水素原子という実体、「繋がっている」という関係で構成されています。
このように実体は別の実体とそれらの関係によって決まります。この決定を「定義」と呼びましょう。水分子の定義は、酸素原子と水素原子が左右に繋がったものということです。さらにこの分解を押し進めてみます。水素原子は原子核を中心に1つの電子が周囲にある実体と定義されます。水素原子という実体は原子核という実体、電子という実体、周囲にあるという関係で構成されています。さらに原子核は…という具合に実体をさらなる細かな実体と関係に分解することができます。まさに入れ子構造ですね。
関係とは何か
実体はさらに実体と関係とに分解できます。なので実体とは、実体と関係で構成されるものという定義になります。一方で「関係」とは何でしょうか?これが実にむずかしい代物で僕も完全に頭のなかで整理が付いていないのですが現段階での自分なりの考えを書いてみたいと思います。
関係は実体と実体を結びつける糊のようなものだと考えています。ただ、単純に結合させるだけではなくそこに空間的な意味合いを付与します。ここはなんとも説明がむずかしいのですが、数直線とそのうえにある点のアナロジーで説明したいと思います。今、水平に線が引かれているところを想像してください。原点Oに点が1つあります。もう1つ点を水平線上に打つとしたら次の3通りになります。
① 原点より右
② 原点より左
③ 原点と同じ
原点との位置関係がさまざまな関係を表す最も単純化されたものでしょう。ここで1つ批判があるかもしれません。右と左が定義されていない、と。しかし、左右という概念はヒトにとってア・プリオリ、つまり生得的な概念で直示的定義以外の方法で説明することは不可能です。直示的定義とは、言葉を使って定義できず「そのもの」を指し示すことでしかできない定義のことです。例えば「赤」という色は「これが赤だよ」と指し示すことでしか赤というものを教えられません。赤という色覚と同様、左右も身体感覚に基づくプリミティブな概念なのです。
話が長くなりましたが、右か左か重なるのかという区別が関係の最小単位です。この考えを外挿すれば原点Oから右に1点、左に1点を打ち、前者の左かつ後者の右に位置すれば、言い換えれば2点の間にあればそれは「内側にある」と言えます。そうではない、かつ2点のいずれかに重なっていなければ「外側にある」、2点のいずれかに重なっていれば「接している」となります。水平の数直線だけでなく垂直の数直線も考えれば同様に「上下」の概念が作れます。奥行方向の数直線も考えれば「前後」の概念が生まれます。
こうして空間的位置関係によって素朴な関係性が構成できます。これらは原点から見た位置から導出しました。左右の概念は原点の位置との比較で成り立っています。これをさらに抽象化したものが「大小」の関係です。大小関係までくれば関係の汎用性が高まり、空間的なもの以外の表現にも適用できるようになります。例えば「あのラーメン屋のラーメンは地元のラーメン屋のよりも美味しい」という言及は美味しいという感覚の大小を比較した関係を表しています。味覚の大小は空間的ではありませんが、空間的位置関係を抽象化した大小関係によって比較が可能になるのです。
まとめ
さて、だいぶ長文になったのでここでいったんまとめましょう。言語を理解するために要素に分解することを試みたのでした。そして、言語を実体と関係に大別しました。実体はさらに細かい実体と関係で構成されているという入れ子構造をしています。一方、関係は最も素朴な位置関係として空間的位置関係があります。これを抽象化して大小関係に昇華させることによってあらゆるものについて関係性を主張できるようになります。
さあ、これ以上、書くと読むほうもしんどいと思うので今回はこのへんにしておきます。次回は言語を用いる目的から「主張」の種類を導き、事象を記述するには何が必要か考察したいと思います。
それでは。
(終)
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