現場から見た国内UXデザインの景色とUXデザイナーの生きる道
UXデザイン界隈のみなさま、今年1年お疲れ様でした!
プレーリーカードを作ったけど人と会う機会が無いUXデザイナー15年生の五ヶ市です。近年はデザインマネージャーもやってます。
今回は私の観測範囲で、国内UXデザインの景色を現場から主観全開でお届けします。
UXデザイナー風前の灯火説が浮上中
IDEO事業縮小
IDEOが事業縮小をするというニュース、みなさまもご覧になりましたよね。公式発表だとこちら。
UX業界の成熟と飽和?
ヤスヒサさんのツイートで触れられているThe State of UX の2024年度版では冒頭にこんなことが書かれています。
超ざっくりいうと「 UX界隈は成熟業界で飽和してるし、より明確な費用対効果が求められてるよね」とのこと。まあそういう批判的に書くレポートだとしても、一定の成熟や飽和に近い感覚は私もあります。
※The State of UX 2024はヤスヒサさんが要約してくれています
https://twitter.com/yhassy/status/1730256589230379511?s=20
Hello, AI
ソースを持ってくる必要が無いぐらい現場のみなさまはAI関連ツールを仕事で使ってますよね。この記事もChatGPTさんに添削してもらってます。体験設計はともかく、特にリサーチ分野ではAIの進出によりリサーチ専門家の経済的説得力が減少する可能性があります。
AIを用いたUXリサーチに関する懸念はAlertboxに書いてあるので割愛
UXという考え方は依然として重要
日本特有の職種「企画職」
日本には企画職として知られる独特の職種があります。大企業においては、これを「企画部門」と呼びますが、外資系企業では見受けられません。
この部署はプロダクトやサービスの企画をする組織です。企画からカスタマーサクセスまで何でもやります。2000年代前半にUXという言葉が日本の現場に入ってきてから約20年、プロダクトやサービスの現場でUXの大切さを語っていたUXer達の戦いが実を結び、今は「UXが大事?当たり前じゃん」と常識扱いされるようになりました。やったぜ。俺たちは本当に頑張った。
UXの大切さが企画職に浸透したことで、一部の現場では「おれたちに必要だったのはUXデザインだったのでは?」と気づき、当然のようにUXデザインアプローチを自ら推進する企業も増えています。
私はGoodpatchというデジタルデザインエージェンシーに所属しているのですが、そこでいただくRFPにペルソナやカスタマージャーニーマップが入っていることも増えてきました。
私も企画職の基本スキルにUXデザインはぴったりだと思っており、この流れは大歓迎すべきものだと考えています。
今後、UXデザインはUXデザイナーのものではなくなるはずです。AIもあるし参入障壁もスキルの障壁もどんどん下がります。UXデザインの民主化は今後も止められないでしょう (そもそもコトラー大先生だって90年代後半には「顧客を観察せよ」って言ってるし多少のやっとかよ感はありますよね)。
資源配分の転換はまだ続く
ということでUXデザイナーは風前の灯火かもしれないけどUXデザイン自体は重宝され続ける話をしました。
こちらはちょうど1年前ぐらいの電通報です。インターネット広告費はやはり成長し続けています。
サブスクモデル転換も進んでいて、ロイヤルカスタマー育成が鍵だという話は現在も当然のこととして言われ続けています。データもあちこちにありますね。
サブスクモデルで大事な「継続」はデジタルマーケティングだけでは達成できず、むしろUXデザイン領域のアクションが必要になります。
合わせてUXデザインの手法はデジタルマーケティングと違ってサービスやプロダクト開発プロセスの起点となる手法だからです。
デジタル領域で顧客が獲得できること、サブスクモデル転換によりデジタルシフトを止められないことを考えると、企業は開発費用と広告費用のうちデジタル領域の割合を増やさざるをえないわけですよね。
なのでもうしばらくUXデザインのお仕事は残るんじゃないかなと思います。
UXデザイン成果物の多様化
UXデザインのお仕事は何をすることだと思われているか
ペルソナとカスタマージャーニーを作る
そのためにリサーチする
できあがったプロトタイプを検証する
上記一連のプロセスおよびスケジュールを計画する
私の観測範囲だとこんなイメージです。かつUXデザインだけで正解を導き出せると思われることも多い気がします。
乱暴に言っちゃうと、一定の訓練でこれらの成果は出せるようになります。みんな今すぐ訓練すればいい。
UXデザイナーが実際にやっていること
実際の現場では作られる成果物が多様化しています。ペルソナはユーザーのペインやゲインを明確にする成果物ですが、ユーザーを整理するにはJTBDやフォッグ式消費者行動モデルもあります。ユーザーストーリーは4コマの簡易なものからアクティビティシナリオをすべて網羅するマイクロストーリーまで様々な粒度があります。
以下は私が個人的に作ったUXデザイン計画で必要になる成果物を説明するためのチートシートです。成果物をざっくりと以下の5つに分けています。
想い
事業
ユーザー
企画
サービス/プロダクト
このようにUXに関わる成果物は多様であり、かつ実際の現場ではそれぞれの成果物を目的や制約に応じてプロセスを捻じ曲げたり成果物を魔改造や合成してアウトプットすることが多いです。
現場のUXデザインはプロジェクトの状況に応じた柔軟性を求められており、難易度は日々高くなっていくばかりです。
また、チートシートに挙げていた成果物を丹念に作っていくとプロダクト開発の現場からは「遅い」という声が聞こえてくるのは必至です。でも体験価値を首尾一貫してユーザーへ届けるためにはそれぞれ必要な成果物はアウトプットしなければなりません。投資対効果はサービスのマイルストーンによって一概に言えず、いつだって悩ましいです。
また、このように成果物が多様であるがゆえに出したアウトプットに対し「あれ、ペルソナは?」「カスタマージャーニーは無いの?」と疑問を持たれ、場合によっては真っ当なことをやっているはずなのに不信感を持たれることもあります。
イメージと現場のギャップ
ということでUXデザインが浸透したからこそUXデザイナーのイメージと現場のギャップは大きくなっている気がします。インハウスも含めUXデザイナーへの期待値はどこも違うなあという印象です。UXデザイナーってなんなんだ?
UXデザイナーの生きる道
UXデザイナーだからできること
それはやはり良いサービスを作ることだと思います。
世の中まだ課題いっぱいのプロダクトだらけです。課題いっぱいのプロダクトが良くなると世の中も良くなります。シンプルにこれ。これだけ。UXデザイナーが貢献できることはこれだけです。
だけどUXデザイナーじゃなくても良いサービスを作ることができる時代は近づいています。
UXデザイナーというジョブにこだわるのをやめよう
最初に述べたとおりUXデザイン、というかユーザーを観察して価値を提供し良いサービスを運営できる人材が増えたことは本当に望ましいことです。
UXデザイナーはそんな人材を引っ張る存在になる必要があります。顧客とっての価値やその価値を届けるやり方を一番知ってるのがUXデザイナーだからです。
コストとクオリティのバランスを見ながら、どんな価値をどのタイミングで提供するかをマネジメントしつつ、最終的にユーザーを第一にするポジションがUXデザイナー、そんなイメージでしょうか。
UXデザイナーもビジネスにコミットせよという話かもしれないし、組織のビジョンを見つめ直すことかもしれないし、チームビルディングかもしれないし、ユーザーのためのなんでも屋かもしれません。「UXデザイナーなのに◯◯もやってるんだよね〜」というあなたの愚痴は多分すごく良いことです。
UXデザイナーというジョブやUXデザインというフレームをとっぱらい視界を広げて、自分たちができることを整理し、その専門性を組織の中でどう活用するとユーザーに価値を届けられるのかを考えると変化や越境のポイントが見えてくるかなと思ってます。
ユーザーのためなら喜んでUXデザイナーを卒業しましょう。
結びに持論: UXデザイナーだからやるべきこと
UXデザイナーはチームを鼓舞し奮い立たせることができる
UXデザイナーの役割はもっと内側に向いてよいかなと思います。UXデザイナーの打ち立てるコンセプトやユーザーストーリーは「いける!」「これを作りたい!」と思わせたり、決済者がGOを出す勇気を奮い立たせるものだったりします。
価値と体験とプロダクトのロジックをつなげるのは当然として、チームを奮い立たせられるようなふるまい、アウトプット、プレゼンテーションもまた重要です。
UXデザイナーの醸し出すチームのテンションが首尾一貫とした体験を作り、プロダクトへのプライドをチームを持たせることにつながります。だってさ、やりたいことやりたいでしょ。作りたいものを作りたいでしょ。
UXデザイナーのみなさま、2024年はユーザーに価値を届けることだけではなく、チームを鼓舞し奮い立たせるようなアウトプットを出し続ける、そんなUXデザイナーを目指すのはいかがでしょう。
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