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航空相撲殺人事件

【航空相撲殺人事件】

航空相撲は装備するジェットパックの本数に応じた階級分けが行われており、上限2本で低推力の夏場所は軽量級力士に、名古屋場所は5本で重量級力士に有利な傾向があるが、人気は伝統の無制限ルール(バーリ・トゥード)の初場所だ。

場所ごとのレギュレーション変更は比較的最近になって導入された。外資系力士による重装化が進む中、超大型新人の亜破斗(あはと)が国民的英雄の大横綱・鷹乃羽(たかのはね)に88連装ブースターぶちかましで重傷を負わせ、以降も自身の事故死まで90連勝を達成した「角界の冬」の後だ。

異常な長身と長腕を広げて、立ち合いの軌道変化に対応し、生への執着があれば真似できないほどの大推力で突撃する。EUマネーをバックにした亜破斗陣営の戦術は、各種不文律によって守られてきた航空相撲の秩序を破壊した。過熱する重装化と正面衝突の増加で力士の負傷はいや増し、国連人権理からの遺憾表明を招くに至り、航空相撲は存続の危機に立たされた。

「ルールの明文化はかえって、その穴を突く卑劣な戦術を横行させる」という日本航空相撲協会(JASA)の懸念を嘲笑うかのように、亜破斗の連勝は止まらず、単調化する試合にファンも離れ始めていた。

その中で起きた亜破斗の稽古中の事故死は様々な憶測を呼んだのだが、マスコミ各社の報道は及び腰であり、亜破斗への憤懣を溜めていた多くの好角家も、表向きは哀しみこそすれ、内心では「これで航空相撲は元に戻る」と胸を撫で下ろしていた。亜破斗を失った宝瑠卦(ぽるしぇ)部屋も萎れるようにひっそりと解散した。

「……と、ここまでが表向きのことだ」「真実だ」
全身をサイバネティクスで鎧った巨漢は、わざとらしいハンチング帽を被った記者風の男に言い捨てた。その表情は鋼の仮面に覆われ伺えない。
「君がやったんだろう羽田三佐。いや、あえてこう呼ばせてもらおう、鷹乃羽」 ◆

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