Xに見る右傾化と陰謀論の交差点:独自性という名の麻薬
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はじめに
「X(旧Twitter)のギスギス具合が増してるなぁ…」。多くの方がそう感じているのではないでしょうか?
最近、タイムラインを眺めていると、超攻撃的な言論や、真偽不明の情報、果ては「〇〇の陰謀!」なんていうにわかには信じられないような過激な主張を目にする機会が圧倒的に増えました。
特に、右傾化した言論と陰謀論は、まるでセット販売されているかのように目に飛び込んできます。
XがまだTwitterだった頃はこうでもなかった気がして、いったいどうして?と疑問に感じたことがこの記事を作成しようと思ったきっかけです。
そこで、最近SNSで目立つ右傾化した言論や陰謀論の蔓延について、以下の3つのポイントから考えて記事にしてみました。
なぜ人々は右傾化し、陰謀論に惹かれるのか?その心理的な背景と社会的な要因を考える。
Xを舞台に、堀〇貴〇氏に代表されるインフルエンサーが独自性欲求を刺激し、課金コンテンツへ誘導する手法を分析してみる。
イーロン・マスクのX買収がもたらした影響と、その背後にあるかもしれない思惑とは?
できるだけ読みやすく分かりやすくを心がけて書いたつもりです。どうか肩の力を抜いて付き合っていただければ幸いです!!
なぜ人は右傾化し、陰謀論に魅せられるのか?
心の隙間を埋める物語
まず、なぜ人々は右傾化し、陰謀論に魅せられてしまうのでしょうか?これには、複雑な要因が絡み合っていると考えられます。
現状への不満と不安
現代社会は、変化のスピードが速く、将来に対する不安を感じやすい時代 です。
「このままでいいんだろうか…」という漠然とした不安は、現状を維持したい、あるいは過去の安定を取り戻したいという保守的な考え方、すなわち右傾化に繋がりやすいと言えるのではないでしょうか。
社会心理学者のエイブラハム・マズローが提唱した「欲求段階説」では、人間の欲求は五段階のピラミッド状になっており、一番下の階層は生理的欲求(食事、睡眠など)、その上が安全の欲求(安全な生活、安定した収入など)となっています。
人は低次の欲求が満たされると順に高次の欲求を満たすための行動をとるとされているところ、現代社会では、終身雇用制度の崩壊や非正規雇用の増加など、雇用の不安定化が進んでいます。
これは、より低次な欲求である安全欲求すら満たされていないと感じる人を増加させ、それが現状への不満や不安を高めることに繋がっていると考えられます。
権威への不信感
政府やマスメディア(オールドメディア)、科学界といった既存の権威に対する不信感も、人々の心を陰謀論へと駆り立てる要因の一つです。
「マスコミは嘘ばかり」「政府は何かを隠している」といった考えは、陰謀論が入り込むための格好の土壌となります。「ディープステート」(政府の表舞台に出てこない、秘密裏に国を操っているとされる勢力)という言葉に代表されるように、既存の権威への不信感はやがて陰謀論的な思考に結びついていくことがあります。
これは、 社会学者のマックス・ウェーバーが論じた「官僚制の脱魔術化」という概念と関連しています。
近代化が進むにつれて、伝統的な権威は失墜し、合理的な官僚制が社会を支配するようになりました。
しかし、官僚制は非人間的で冷たい側面を持ち、人々の不信感を招くことがあります。この不信感が既存の権威への不信感へとつながっていったと考えられます。
二項対立思考
物事を単純な善悪二元論で捉えがちな人も、陰謀論にハマりやすい傾向があると思います。
「敵」と「味方」を明確に分け、敵に対して強い敵意を抱く。これは、陰謀論が提供する「分かりやすい敵役」と見事に合致します。
例えば、「グローバリストの陰謀」「〇〇人の陰謀」といった言説は、まさにこの二項対立思考を利用しています。 認知心理学には「スキーマ」という概念があり、私たちは、過去の経験に基づいて世界を理解するための枠組み(スキーマ)を持っているそうです。
人は複雑な思考より分かりやすい思考に惹かれるといった性質があり、二項対立思考は、その性質によりスキーマが単純化された結果と言えるでしょう。
善と悪、味方と敵といった二つの極端なカテゴリーで物事を捉えたほうがより分かりやすいからです。
コントロール欲求
複雑な世界を理解し、コントロールしたいという欲求は、人間誰しもが持っているものです。
しかし、複雑化する現代社会において、全てを理解し、コントロールすることは不可能です。
そこで、複雑な出来事を単純な「陰謀」という形で説明する陰謀論は、ある種の安心感を与えるのです。
「全ては〇〇のせいだったんだ!」というシンプルな結論は、複雑な現実に向き合うことの苦痛から一時的に解放してくれる麻薬のようなものです。
これは、心理学者のジュリアン・ロッターが提唱した「統制の所在」という概念と関連しています。
人は、自分の人生をコントロールできると感じるか(内的統制)、運や他人の力によって左右されると感じるか(外的統制)によって行動が異なります。
外的統制を感じやすい人は、陰謀論に惹かれやすい傾向があると考えられます。
独自性欲求
「自分は他の人とは違う真実を知っている」という感覚は、人々に優越感や特別感を与えます。
これは、SNSで「いいね!」やリツイートを求める心理と似ています。
周りの人が知らない「真実」を知っていることで、自分が特別な存在であると感じたい。
陰謀論は、まさにこの独自性欲求を刺激するのです。
心理学者のレオ・フェスティンガーは、社会比較理論を提唱し、人は自分の意見や能力を客観的に評価するために、他人と比較するという考え方を提示しました。
この考え方は、自分が他人と異なる点を持つことを意識し、自己肯定感を得ようとするという、独自性欲求の基礎を築いており、この欲求が、人が他者と違うことで自分を際立たせたい、特別な存在だと思いたいという気持ちにつながるのではないでしょうか。
上記で述べたこれらの要因は、単独で作用するのではなく、複合的に影響し合っています。
例えば、現状への不満が高まっている状況で、権威への不信感が重なると、陰謀論に傾倒しやすくなります。
さらに、そこで独自性欲求が刺激されると、より深く陰謀論にハマってしまう、といった構造が考えられます。
これらがXの持つエコーチェンバーな性質とあいまって、まるでパズルのピースのように組み合わさり、人々を右傾化や陰謀論へと引き込んでいくのです。
(エコーチェンバー:自分と似た考えを持つ人々だけで情報交換を繰り返すことで、特定の意見や情報が過度に増幅され、異なる意見や情報が入ってこない状態)
Xという名の劇場:堀〇貴〇氏らが演じる「独自性ビジネス」
Xは、こうした人間の心理を巧みに利用するインフルエンサーたちの格好の舞台となっています。
特に、堀〇貴〇氏に代表される一部のインフルエンサーは、右傾化や陰謀論のエッセンスをビジネスに活用する手腕に長けていると言えるでしょう。
彼らの戦略は明確です。「他の人が知らない真実」「マスコミが報じない裏情報」といったキャッチコピーで、フォロワーの好奇心を刺激します。
そして、「この情報を知っているあなたは特別なのだ」というメッセージを暗に伝えることで、フォロワーの心を鷲掴みにするのです。これは、前述の独自性欲求を巧みに刺激する手法です。
堀〇氏の過去の発言や最近の投稿を振り返ってみると、この傾向が顕著に見られます。
例えば、特定の政治問題に対して、既存の権威や主流メディアとは異なる視点を提示することで、フォロワーの注目を集めています。
その中には、事実に基づかない情報や、根拠の薄弱な陰謀論的な言説も含まれていることがあります。
彼らはさらに、オンラインサロン、有料メルマガ、限定コミュニティといった「特別な居場所」を用意します。
「真実を共有する選ばれた仲間たち」「最先端の情報や学びにアクセスできる特別な場所」といったステージにフォロワーを誘導し、課金コンテンツに囲い込んで利益を極大化させるのです。
サロン内では、同じような考えを持つ人たちが集まり、排他的な連帯感を高め、インフルエンサーへの忠誠心を育みます。
「堀〇さんのサロンに入っている自分って、カッコイイ」「他の凡人とは違う情報にアクセスしている自分って、スゴイ」といった感情は、まさに独自性欲求の表れです。
インフルエンサーは、こうしたフォロワーの心理を巧みに操り、自身のビジネスを拡大し利益の極大化を狙っているのです。
これは、経済学者のソースティン・ヴェブレンが提唱した「誇示的消費」という概念にも通じる部分があります。
人々は、単に実用的な価値だけでなく、他者に見せびらかすための象徴的な価値を求めて商品やサービスを購入します。
オンラインサロンへの加入は、「私は他の人とは違う情報を持っている」「私は成功者と繋がっている」というメッセージを他者に伝えるための手段となり得るのです。
ヴェブレンは、著書の中で、富裕層が自身の富を誇示するために行う消費行動について詳細に分析しています。
現代のオンラインサロン加入は、かつての富裕層の社交クラブへの参加と、ある意味で類似していると言えるかもしれません。
(堀〇氏が否定的な印象で批評されていると感じる方がいるかと思いますが、筆者は氏の行動を否定するものではありません。むしろ、利用できるもの、使用できるものをフル活用して利益を追及し、自己の目的を達成しようとする行為は、ある意味合理的な選択だと思っています。)
イーロン・マスク氏とX:自由の名の元に解き放たれたパンドラの箱
この状況に大きな影響を与えたのが、イーロン・マスク氏によるXの買収です。
「言論の自由」を重視する彼のポリシーは、以前よりもコンテンツの規制を緩和する方向に働きました。
確かに、過度な規制は言論の自由を侵害する可能性があります。
しかし、規制が緩くなったことで、これまで表に出にくかった過激な言論や虚偽情報、陰謀論などが一気に拡散するようになりました。
これは、まるでパンドラの箱が開けられたような状況と言えるかもしれません。
マスク氏自身も、この状況をある程度認識していると考えられます。
彼自身、頻繁にXで情報発信を行い、時には物議を醸すような発言も行っています。
彼の言動が、Xの言論空間に大きな影響を与えていることは間違いありません。
例えば、特定の陰謀論的な情報に対して、以前より寛容な態度を示すことで、そうした言説の拡散を助長している、という指摘もあります。
さらに、マスク氏がトランプ前大統領を支持していることも、この状況に拍車をかけている可能性があります。
トランプ氏は、大統領在任中から選挙不正を主張するなど、陰謀論的な言説と親和性が高い人物です。
マスク氏の支持が、トランプ氏を支持する層、すなわち右傾化した陰謀論者層をXに引き寄せている可能性は否定できません。
ひょっとして、実はイーロンマスク氏も前述したXの構造にいち早く気づいて、それを利用したのかもしれません。
自らがXの運営に携わることでアルゴリズムを操作し、大衆の心理を利用して自身の影響力を拡大し、その影響力を行使して、右傾化した陰謀論者を支持者に持つトランプを支持することによってトランプを次期大統領として当選させたのです。
その結果、マスク氏自身が次期政権に加入することとなり、ますます影響力を増加させました。
あくまで推察ですが、イーロンマスク氏の究極の目標は、Xを駆使してトランプを集客装置として利用し、自らのフォロワーを増加させ、政権内で権力を行使して自身が思い描くテクノロジーが反映された未来を創造することにあるのではないでしょうか。
(前述した堀〇貴〇氏もこれを真似て、立〇孝〇氏を集客装置として利用しているのではと思います。)
マスク氏の真の目的は定かでなく、本人のみぞ知るところです。
しかし、彼がXを通じて影響力を拡大しようとしていることは明らかでしょう。
Xを単なるSNSプラットフォームとしてではなく、自身の政治的・経済的な影響力を拡大するためのツールとして利用している可能性は否定できないところだと思います。
最後に
Xに見られる右傾化と陰謀論の蔓延は、現代社会における情報環境の課題を浮き彫りにしています。
大切なのは、このような仕組みを理解した上で、どのように対処していくかを考えることです。
右傾化と陰謀論にひたるのが心地よく、そこに幸せを感じるのならそれを否定するものではないかもしれません。
しかし、もしそんな構造に載せられたくないと感じるのなら、ひたすら情報リテラシーを磨くことが重要になります。
情報リテラシーとは、情報を批判的に読み解き、その真偽を見極める力です。
複数の情報源を参照する、情報の出所や背景を疑う、感情的な言論に流されない、といった心がけが大切になります。
また、自分がどのような情報に触れているのかを意識し、偏った情報ばかりに触れないようにすることも重要です。
この記事が、Xの言論空間を読み解くための一つの視点となり、ひいては、複雑怪奇な現代社会をサバイブする一助となれば幸いです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。