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【L'Essentiel】〈前編〉 料理に必要不可欠なものとは?

ノルマンディーは食材のキャラが立っている。
フランス有数の牛肉の産地。
モン・サン・ミシェルに行けば仔羊とオムレツが名産だ。
シードルやカルヴァドスなどのリンゴ酒があり、ガレットも有名。
もちろん海に面しているので魚介も豊富だ。
期待も増す。

ドーヴィルの初日はL'Essentielへ。
https://lessentieldeauville.com/
ミシュラン1つ星だ。

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モダンなインテリア。
厨房には料理人が7人もいる。
サービススタッフは3名でまわしている。
50席もある店内に、今宵は12名ほど。
1つ星にしてはちょっと寂しい。

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アミューズに運ばれてきたのがこれ。
人参に柚子の香り。
ああ、また柚子ね。
フランス人は本当に柚子が好きだ。どこもかしこも柚子ユズゆず。
口に入れてみる。
うん、まあ、ふつう。
アミューズ(楽しみ)とまではいかない。

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前菜には白身魚のカルバッチョ。
カルパッチョはもともとはイタリアの料理で、牛肉で作るもの。
これをもとにラ・ベットラのシェフ落合務が考案したのが魚のカルパッチョだ、というのが教科書的な説。
それをいまではフランスでもやっているのだね。

魚はメーグと言っていた。
Maigreか。スズキの仲間のようだ。
魚自体はとてもいい状態だと思った。
これにピスタチオ、ピクルス、ライム、レモンがかかっているとのこと。
食べてみると、薄切りの大根、ネギ、胡麻、海苔、青海苔、そして生姜の甘く煮たもの(日本の寿司屋で出てくるやつ)が載せてあるのがわかる。
ふりかけだな、要するに。
刺身にふりかけをパラパラとまぶしてみましたという程度のもの。

一口目にわかりやすい旨味が来るが、なぜだろう、おいしいとは思えない。
おいしさに届かない旨味。
この語義矛盾に自分でも戸惑う。

それっぽいものをごた混ぜにしたという感じ。
全体として、おいしさに届いていない。

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メインには帆立を。
りんごのチップスと、アーティチョーク。
緑の葉っぱはコリアンダーのような味。
グラノーラと説明された穀物は味噌のような味。
はあ。ひい。ふう。
ここでもアジアンテイストなのね。

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デザートはチョコレートムースのうえにマッシュルームの薄切りが乗っているもの。
アイスクリームもマッシュルーム。
「森の散歩」という料理らしい。
深い森で道に迷ってしまったのかしら。

前菜、メイン、デザートを貫く特徴が見えた。
なんとなくそれっぽい食材を、いまどきだからというだけの理由でとりあえず組み合わせてみました、おいしいかどうかは、それぞれがお考えください、という料理。

ならばお答えしよう。
おいしくないです。

よくわかりもしない流行りの概念を組み合わせて書かれた論文みたいで、結局何を主張したいのかよくわかりません、というときの、あの感じがして、なんとも切なくなる。

辛口で知られた料理評論家のフランソワ・シモンは、気に入らなかった料理を「死んだ美女と接吻するかのようだ」と評した。
せっかくの料理に対して、なんてひどいコメントをするのだろうかと、若かりし僕は思ったものだった。
あの言葉を、今日の食事で久しぶりに思い出してしまった。

決して安くないぞ。
3皿で69ユーロ。10,000円弱。飲み物代は別。
これが冷たい唇の値段か。

この店は、おそらく高い技術を誇り、豊富な知識を蓄え、最高の食材を集め、名声を謳歌しているのだろう。
しかし、料理において一番大切な何か、つまりエッセンシャルなものが欠けている気がする。

で、なんていう名前の店なんだっけ?

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