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【SaQuaNa】立ち寄っただけの街で受ける衝撃

ドーヴィルからバスに揺られて30分。
オンフルールにやって来た。
画家ウジェーヌ・ブーダンや作曲家エリック・サティが生まれた街だ。

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港を囲むように並ぶ家並みが美しい。
アムステルダムを思い出す。

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中心部のサント・カトリーヌ教会は15世紀の建造で、フランス最古の木造教会とのことだ。
ブーダンもモネもこの教会を描いている。
教会は閉まっていて、併設された公衆トイレだけがにぎわっていた。

街に着いたのは12時少し前。とりあえずランチを食べよう。
あまりガツンとした店に入るつもりもなかったのだけど、歩きながらたまたま見つけてしまう。

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Saquana。サカナ?
https://www.alexandre-bourdas.com/
『地球の歩き方』に載っていた店だ。
確かミシュラン2つ星の高級店と書いてあったはずだ。
今日はこの街に泊まるわけではない。
これからもう一度バスに乗ってル・アーヴルまで行かなければいけない。
まだ緊張を解くわけにはいかないのだ。
こんな店に入ってしまって、うっかりワインでも飲もうものなら・・・。
自分に厳しく言い聞かせる。今日はダメだぞ。

とはいえせっかくなので、メニューだけでも見てみるか。
ん?
何だかすごく安い。
ランチコースは18ユーロから。2,000円くらい。あれま。
一席くらいなら空いていそうだ。
まっ、いいんじゃない?

後から調べて分かったこと。
シェフのアレクサンドル・ブルダは、ミシェル・ブラスの弟子で、ザ・ウインザーホテル洞爺湖の3つ星レストランのシェフを務めていた人物とのこと。
かつて2つ星だった店は、最近になってがくっと価格帯を下げたようで、現在はビブグルマン(安くて値打ちのある店に与えられる称号)の評価。
ちなみにパリにも似たような出店したようだ。こちらにも行ってみなければ。

というわけで、軽く食べるつもりだったのになんだか油断ならぬ店に入ってしまったようだ。
前菜、メイン、デザートのランチコースを注文する。

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前菜から問題作。
白いものはカリフラワー。どのように調理しているのかはわからないけど、さくさくとポップコーンみたいになっている。
下には、米粒サイズのパスタが敷き詰めてある。
最初は米なのかなと思ったけど違う。クスクスなのかな。
その下にはカリフラワーがムース状になったもの。
茶色い塊はアーモンドをキャラメリゼしている。
緑色は、チャラモーラというそうで、北アフリカの料理らしい。
かなり酸っぱい。
茶色い粉は、ルアス・ル・ハーヌートというスパイス。

これを混ぜて食べる。
おいしくは、ない。
思ったよりも量がある。
薄味。というか全体として味がしないので食べ疲れる。
チャラモーラの酸味を頼りにしないと、とても食が進まない、そんな料理。
しかし嫌な味もしない。
吸い込まれるような魅力もないけれど、何かが残る、そんな料理。
こんな謎の料理を、地元のご老人らしき方々も文句も言わずに食べているのを見て、なんだか可笑しくなってきた。

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メインはPascade。
シェフの故郷Aveyronの郷土料理らしい。
土台になっているのはスフレ。心地よい甘さ。とっても上品。
上にサーモンが載っていて、とっても上級。
その上に焼きそばみたいなものが載っている。
ナンプラーで味付けしているのか、ややチープなテイスト。
チョリソーの小さなブロックが辛みを加えている。

ほとんど塩味のない、悪く言えば無味乾燥だった前菜からの落差がすごい。
今度は、甘くて、辛くて、ややどぎつい味。
水墨画のあとに村上隆の絵を見せられているような感じだ。

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(そういえばフランスで売られているペリエには村上隆の絵が印刷されている。すっかりスタンダードになったようだ。)

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素直に「おいしい!」とはならない。
でも考えさせられる。
自分の味覚がいったん用なしになって、もう一度この料理を味わうために組み立て直されるような感じと言えばいいだろうか。

基本的に創作料理の類はほとんど食べないし好きではない。
ちっぽけな創造性にせっかくの食事を台無しにされたくないと思う。

しかし、分子ガストロノミーで知られるフェラン・アドリアの言葉が蘇る。
「料理の決め手は斬新かどうかだ。味はあとから決める。」
おいしいかどうかだけで判断してはいけない料理というのもあるのだろう。
それは、自分の「おいしい」そのものを疑い、再編成することを要求する。
アレクサンドル・ブルダか。
この人の創造性にならつきあってみたいと思えた皿だった。

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デザートはいくつか選べるなかから、りんごのケーキにした。
これは、普通においしいデザートだ。
なんだよ、普通もできるんじゃないか。

オンフルールを再訪する理由ができてしまった。
今回はワインをぐっと堪えた。
次は味わいたい。

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