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【感想】舞台・狐晴明九尾狩

劇団新感線の「狐晴明九尾狩」を見てきました。同規模の舞台芸術全般まで広げても今まで見たことあるもの、歌舞伎・能・狂言・クラシックバレエ・劇団四季だったのでだいぶ毛色の違う方向に舵切った感じがある、客席からくすくす笑う声があがる場面に居合わせたの初めてだったかも……。

東京公演2日目と大阪公演2日目を見てまいりました。
もうなんか一番わかりやすい感想は1回目直後の殴り書きにありますね、

私は弱いんですよこういう志を共にした良きライバル同士の片方がロストしたところから始まる物語!!

……そうだね! 違いないわ!
というわけで、以下はネタバレです。




・孤独な悪役と、絆につなぎ止められる主人公

 誰も信じず、1人で何もかもを征服しようとした悪役・パイフーシェンに対し、主人公・安倍晴明はとにかく"1人じゃない"。永遠の約束を託してある意味戦い続けていた利風は言うに及ばず、色々言いながらも手を貸してくれる道満さん(彼に対する晴明の頼り方というか、ある種の“甘え”も魅力的ですよね)、信念ある検非違使であり友人である渦雅さん、アウトロー的ではあるものの熱い正義感を持った悪兵太たち虹川党、そしてパイの独り善がりを否定し利風の遺志も携え海を渡ってやってきた人妖共存論者のタオ。
 銅銭の用意とか、まあ色々な部分で色々な相手と物理的に連携・共闘してるんですけど、顔面・向井理の呪い兼しるし……もとい、晴明と利風の知恵比べという名の絆に敗北し、最期の足掻きで感情を奪っても「大丈夫」「僕にはあなた方がいる」と言う晴明。パイが最期まで”わからなかった”人と人(あるいはあやかし)の絆に、彼は二度も敗北するのですね。
 わりと話せばわかる相手だった元方院さまや、人との関わりの中ですっかり爽やか系に変貌した師師さまなどの存在もあって、余計に徹頭徹尾1人だったパイの孤独が際立ちます。そしてパイと同じく人との繋がりを軽んじた将監や近頼は利用されて死んでいて。誰もが人との繋がりが希薄になり、人が信じにくくなった世の中だからこそ送りたい物語、というのはこのあたりなのでしょうかね。

・伏線:顔面 向井理

 いや、もうちょっとマシな表現出来なかったのか? でもそう書き殴ってたのでもういいや。伏線というか、利風本人の言うところの”しるし”であったわけですが、晴明にとっては幼馴染みの盟友の顔した敵であったと同時に、タオにとっては恩人の顔した因縁の相手だったわけですよね。ただ利風をパイが乗っ取って化けていたからではなく、利風の意思が劇中ずっと通して生きていたからこそ向井理が演じていたことになるの、なるほどなあと感心しました。
 利風と救出されたタオの関係も地味に気になるのですが、利風から”日本に狐の陰陽師がいる”ということは聞きながらも、”本当は狐ではない”ということは知らなかったの、一体どういう伝え方をしたのだろうなあというのを少し考えていて。利風は”狐晴明”が晴明の騙りであることは知っていると思うので、自分たち姉弟以外が喰われてしまって衝撃を受けているタオに優しく近づくためのトピックとして選んだんでしょうか? 私にも狐と噂される友人が居てな……みたいな。人妖共存論者(?)の晴明とタオの気が合うのは道理ではあると思うんですが、一族の生き残りのタオと救出に当たった留学生陰陽師の利風の交流もどっかで見てみたい気持ちになる。

・晴明の涙はただただ利風に流される

 ……ということなのかなあ? と思いつつ完全な自信はないのですが(何分しょっちゅう記憶違いをしているので)、「そうか、泣いたのか、僕が……」と彼が涙を流す瞬間、一度目は利風がパイに乗っ取られたことを確信した後で、二度目は「ゆっくり眠れ」と友を労りながらパイを完全に倒した後なんですよね。2回目見る直前にとりあえず戯曲に目を通してから見て立てた推論はこうなのですが、どうなんだろうな。利風、とんだ策士だと思うんですけど、文字通り一世一代でやっちゃったから晴明泣かせだよな……。
 完全な正真正銘のハッピーエンド!とはいかず、盟友・利風の死のある種道連れになる形で感情が消えるというほろ苦い後味、特に利風の死を悲しむ気持ちを許されないことになるというあんまりな代償が個人的には好きなのですが、友の死の痛みを奪われながらも、一筋流れてしまった涙から「そうか」と得心するの、ズルいでしょ、ほんとにパイが浮かばれない。

・本家の秀才と分家の天才

 この関係自体はこれまた結構王道だとは思うんですけど、設定に対して利風はめちゃくちゃ人間出来てるし、晴明はめちゃくちゃ素直に利風に懐いてますよね。利風-晴明ラインの結束が固すぎる、この物語の核だからね? ではありますが。利風の器を率直に認めている晴明と、晴明の才能を率直に認めている利風の関係がとても眩しい。「突然キレるのはやめろ」と助言(?)しつつも、晴明の判断を受け入れる、術士としては晴明をしっかり尊重している利風と、舌戦や交渉ごとは利風に任せて一歩引いてる晴明の関係が、彼らの信頼と立場を表していて魅力的でした。まあ、向き不向きという点もあるとは思うんですが……。 あの! 蘆屋道満氏も敵に回したくない名コンビ!
 回想部分の晴明と利風の絡み、なんか初期の東京2日目から中盤の大阪2日目でだいぶ増えてましたよね? 基本きっちり丁寧な人物造形の利風が道満に矢ぶっささっても悪びれた様子がないの面白かったし(道満さん晴明にはだいぶ甘えられてますけど、利風もある程度そうだったのかなあ)、そのくだりで2人で何か話してうんうんしている場面、東京のときあったっけ? って感じでしたし、あと大阪公演の大陸行きを表明した利風を止める晴明、完全に拗ねた弟分のそれでびっくりしました。そして「及ばずながら」の意味をわかった上で見る2回目、一度目の「及ばずながら」から受ける絶望が半端ない。大阪観劇時、最期とどめを刺すシーンの晴明の顔がめちゃくちゃよく見える席だったんですが、とにかくしんどそうで見応えありましたね……。

・そのほか

・悪兵太さんのキックに見惚れた。お悩み相談もトラブルも晴明にアウトソーシングする悪兵太さん、素直で良い。鉱山ライブおかわりください。 (中の方が昨年メロンの君にスマホ爆破されていた)吉田メタルさんをナマで見れることに感動してめちゃくちゃ注視してたんですが、虹川党みたいな連中に為政者が居場所を与えられるか、という点はなんだか考えさせられるところですね。
・将監さん相手に”いい加減な陰陽師”ムーヴかましてる晴明が面白すぎる。
・大阪からパイがランにおあげさんあげるネタが増えたせいで、パイが大事な話をしているはずの場面でずーっとランがもぐもぐしてて大変シュール、仲間それで大丈夫なのか? ランのバカの噂はパイは交際中にタオから聞いたんだろうか……。パイタオの交際バレしたときのランが壁に向かっていじけててもう………。ランが素直でアホかわいすぎて初回観劇時(ランの命だけは!!! ランだけは助けてください!!!! あとは諦めます!!!!!!)みたいな必死な心境で展開見守ってましたからね。
・帯刀さんなにげに美味しいポジションじゃないですか?
・東京から大阪でみんなパワーアップ(物理)したのか、色んな場面で「イッタ」みたいな顔していて笑った。突然キレた晴明に叩かれた利風もなかなか痛そうなリアクションを……。
・晴明ものでこんなうさんくさいが頼りになるおじさん、みたいなところに収まってる蘆屋道満初めて見ましたが、安定感あって安心して見られるし、利風と晴明の若さも際立ちますね。
・同じ一族でありながら一尾のタオラン姉弟と、九尾のパイといるの、どういう種族なのか気になるし、合意のもとみんなパイに取り込まれるほどの切迫感、大陸で人間との間に何があったんでしょうか。

 また何か思い出すことありそうですが、文章に起こせないまま気づけば大千秋楽直前になっていましたので、取り急ぎ。寝かしに寝かしたくせにまとまってないしむしろ記憶が薄れていく弊害の方が大きかった感は否めませんが………

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