空區地車の力学17.子供会の綱さばき➀
ここから2回に分けて子供会の綱さばきについて解説します。
そもそも曳き手は、地車を触っているだけで満足する種族で、子供会の綱を持とうとはしません。ましてや綱の中に入って子供たちを誘導しようなど考えもしません。
恥ずかしながら私もそうでした。ただ、2人の娘が子供会に入ったことと、先代・子供会の綱担当「一二三さん(ひふみさん)」への感化と感謝もあり、自称・子供会の綱2代目として現在も続けているのです。
下記は昭和53年の写真ですが、この頃は地車の曳き手が不足して地車を出せないという地区もあったと聞きます。今では曳き手が増え、子供会の綱も出せるようになりました。
(1)子供会とは
若中は年代層により大若、中若、子若、幼若などに細かく分かれ、それぞれ組織されていました。
現在、空區では子供会があります。小学1~6年生が対象で、ほとんどが空區に住む子供たちで、地元の住吉小学校に通っています。
毎年30~50名の小学生が空區の法被を着て参加し、中学生になると空區若中として鳴り物や曳き手、屋根方へと成長していきます。
祭り当日は、下写真のように地車の前に綱を出して曳いています。付き添いの親御さんも一緒になって楽しんでいます。
(2)子供会の作法と綱さばき
❶子供会のポテンシャルなめんなよ!
子供会には特別な役者がいるわけではありませんが、前に進む圧力はハンパねー。しかも掛け声ひとつで覇気が連鎖するのでシビレます。しかし、一人の子供の力はたいしたものではなく、連動して始めて大きなエンジンになります。この大きな力を地車にいかに効率よく伝達させるか、悩み所です。
一方で、子供会の曳く綱のパワーを理解している若中は意外に少ないものです。地車は一人では動きません。皆が力を一つにして初めて動くのです。子供会も地車のれっきとした構成員です。その力をけっして侮ってはなりません。
❷子供会の掛け声
子供会には小学1~6年生が参加しています。特に低学年では、若中の「さ~」「押した、押した、押した」の掛け声では合わせにくいだろうということで、初代世話役の一二三さんが「せ~の」と掛け声を掛けたのが始まりで、それを受けて子供会が「おした、おした、おした」と合わせています。
若中とは違う掛け声なので、全体としてはズレていますが、近い将来、「若中と同じ掛け声ができればいいなぁ」と二代目の私は考えています。
❸動き出し2~3分間と上り坂では掛け声を連呼
地車は動き出しと、上り坂で最も力が必要です。ですから綱の世話役は動き出し1~2分間と、上り坂では意識的に「せ~の」を連呼して子供会の士気を高めます。
「せ~の」に続いて、子供会は「おした~、おした~、おした~」と声を出し、気合を入れて綱を曳きます。
時には、上り坂を走行中に「とばせ、とばせ」と綱の世話役が子供たちに指示を出すこともあります。なぜなら上り坂で「どばせ」をしても、たいしたスピードは出ず、子供が転ぶことはないので、気合のためだけに「とばせ」という掛け声をかけます。不思議なのですが、祭りバカは大人も子供も、付き添いのお母さんまでもが「とばせ」の掛け声を聞くと一瞬で気合が入り、臨戦態勢に入ります。
したがって、綱の世話役は平道では「とばせ」の掛け声は厳禁です。
❹下り坂では綱が緩まない程度で早歩き
下り坂では、ほおっておいても地車は進みます。掛け声を掛けると、どうしても綱に力が入ってしまうので、下り坂では「せ~の」の掛け声は不要です。ただし、綱が緩まない程度に張っておかないと地車前の曳き手の邪魔になります。
子供会も早歩きで綱が緩まないようにしますが、地車の曳き手も綱が緩まない程度に体でブレーキを掛けて子供会の安全確保に務めます。
❺下り坂で赤信号に引っかかったら
綱を出している時は赤信号でも進む場合があります。すべては指揮者の指示に従います。指揮者は、帯同してくれている警察官と信号や交通量を見ながら指示を出しています。
綱を出していて、もし下り坂の信号機が赤信号になり指揮者が「止まれ」を指示したら、地車の四隅責任者は早めに地車を停止させます。できれば綱がピンと張る程度の距離を保って停止させます。地車に勢いがある場合は、前の責任者が身を挺して地車を停止させます。
停止したら安全のため素早く前テコを入れます。ただし、下り坂で前テコを入れると再始動時に地車の重みでテコが抜けません。その時は一旦地車をバックさせて前テコを抜きます。
子供会の綱を担当する世話役は、下り坂では前テコが入った場合は子供会の綱を緩めて待機させます。綱が張ったり、綱に力が入っていると、地車が前テコを外す時にバックできないからです。
前テコが抜けたことを確認してから子供会の世話役は子供会に「進め」の指示を出します。
このように下り坂で前テコを入れると始動時に面倒なので、前テコを入れないで停止することの方が多いくなります。そうなるとブレーキはかかっていないので曳き手がブレーキになるしかありません。気を抜かず、停止に注力します。
再始動時は下り坂ですので子供たちが転ばないようにゆっくりと歩かせ、綱が張ったらブレーキとなっている曳き手は力を加減してゆっくりとスタートします。それまでは体でブレーキをかけた状態で待機です。下り坂での再始動時は、子供会の安全を最優先してください。(次章へ続く)