空區地車の力学52.腹帯(さらし)は祭りの必需品
腹帯(さらし)は祭りの必需品です。
最近では、面倒くさいのか「腹巻」で済ます若中もいますが、腹帯でお腹と腰・背中をしっかり支えることで、負担を軽減してくれます。
腰痛防止、下半身への負担軽減など重い地車を担ぐ上で大きな役割を果たします。
木綿素材なので素肌に優しく、通気性、保湿にも優れています。
大汗をかく地車の若中にはとても快適で、なくてはならないものです。
腹帯のルーツには諸説ありますが、私は神功皇后説を立場上、支持しています。というのも、私の曳く空區地車は本住吉神社の例大祭で巡行しますが、本住吉神社は神功皇后を祭っているからです。
では、神功皇后と腹帯とはどう結びついているのか?
神功皇后は息長帯日売命(オキナガタラシヒメノミコト)と呼ばれる女帝で、「オキナガ」とは地名(近江国坂田郡息長)とも長寿の意味とも言われ、「タラシ」は尊称です。
神功皇后はお腹に子供を宿しながら、仲哀9年(200年)三韓討伐を行なったことが『古事記』『日本書記』に書かれています。新羅遠征中に産気づいた神功皇后は、お腹に鎮懐石(ちんかいせき)と呼ばれる卵型の石をさらしで巻いて冷やし、出産を遅らせるようにまじないをかけたそうです。その後、三韓遠征から無事に帰還するや、出産(腹帯=安産)したことから、安産の神様になりました。「息長帯日売命」という名前からくるイメージと、鎮懐石(ちんかいせき)をさらしで巻いて冷やしたことなどから、腹帯のルーツが神功皇后となったようです。
神功皇后は、安産、子育て守護の神様であり、鎌倉時代には聖母大菩薩とも呼ばれます。
こういったことから海外では珍しい、妊娠5か月の戌の日を目安に安産祈願をする、帯祝いという慣習が生まれたようです。
ではなぜ腹帯が祭りの必需品なのでしょうか?
重量挙げの三宅宏実選手。小さな女性選手ながら、2012年ロンドン48kg級銀メダリスト、2016年リオデジャネイロ48kg級銅メダリストです。
小さな体の腰に巻かれたリフティングベルトがはち切れんばかりにお腹を締めあげ、その圧力が胸や腕、下半身に送り込まれる様が思い浮かびます。
物を持ち上げるときに、多くの人が腹(腹筋)に力を入れると割と軽く持ち上げることが出来たことを経験していると思います。
これは、腹に力を入れることで腹腔が硬く締まり、脊柱の前方の胸と骨盤の間に突っ張り棒を入れたと同じ効果を生み、脊柱も真っ直ぐに伸びるので、背筋と脊柱にかかる力が大きく軽減します。
腹帯(さらし)もこのリフティングベルトと全く同じ働きをします。
では腹帯(さらし)をただ巻けばよいかというとそうではありません。もちろん最も効果のある巻き方でないとダメなのですが、祭りである限りイキでなければなりません。むしろ効果よりもイキが勝つ!と言っても過言ではありません。
「さらし」とは、不純物が取り除かれていて純白となった織物のことで、綿や麻の織物を言います。つまりイキを具現化する基本要素として、神事を構成する「素材」と「白」、この2つをクリアーしてこそ、次のイキな巻き方に入れるのです。
腹帯は、緩んだりはずれるたびに巻き直しをしなければならず面倒だと思われがちですが、正しい巻き方をマスターすれば、大丈夫です。
二人で巻き合いすると、きつく縛れるのですが、私は一人で巻いています。
できるだけ締まるように、朝起きてトイレで用を足した後、空腹の状態で腹帯を巻きます。
満腹時に腹帯を巻くと、お腹がすくに合わせて緩んでくるからです。
また、空腹時に巻くと少し食べるだけで腹帯が締まり、それ以上欲しくなくなります。通常の3食以上の回数で、少しずつ食事を取ることになるので、いつも元気な状態を維持できるのです。
まず下記のように2つ折りにして幅を半分に、端のほうから巻いていきます。
さらしは、祭りのたびに新調するのが基本でしょうが(?)、給与据え置き、円高から巻き起こる小遣い据え置きにより(!)、洗濯して使いまわすしかありません。しかし、長いために、洗濯が少々大変です。そこで洗濯ネットが威力を発揮します。
男子たるもの厨房に入らずなんて言葉がありますが、祭りの衣装の洗濯は着た人、つまり若中自身がすべきであると私は思っています。それこそが神事に使える者の「みぞぎ」なのです。