ナナシスとスリップビート

挨拶

はじめまして。みつおです。
ずっと書こうと思ってたこと書きます。いい機会なんでね。
ナナシスとスリップビート、つまりはドラムのお話です。

そしてこれは野暮でこじつけなお話です。
かつて、総監督茂木氏がメロポケのスタッフ制作座談会で何某かの質問に対して「野暮なことは言いません」みたいな回答で濁してた記憶があったりなかったりするので、
制作の方々は見ないでください。さようなら。


スリップビートについて

私はドラムを少々嗜んでおりまして、ナナシスの楽曲群もコピーして楽しんだり自己満足な動画を作ってみたりしています。
そうなるとやはり茂木氏のことだから、ドラムの譜面にも”もちろん”何らかの意図を込めているだろうと都合良く考えてしまうものです。

そこで今回取り上げるのは”スリップビート”
楽器や作曲活動をされてない方は聞き馴染みがない言葉かと存じます。
エイトビートは聞いたことないですか?これの仲間です。

具体的に言うと、
“エイトビートの2,4拍の表にあるスネアドラムを、裏にズラす”ということです。

ですよね。
音で見るとこんな感じです。



タンッの音が「うっ…」ってつっかかった感じがしますよね。これを”スリップしてる” ”滑った感じがする”と昔の人は表現したんですねえ。
あえて不安定にすることで緊張感を生み、曲のアクセントになります。
2回目のAメロで変化つけたいなあとか、曲全体を通して一捻りほしいなあとかで、曲の組み立てに使いがちです。

有名な曲だと『完全感覚Dreamer』のイントロとか『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』のAメロとかが該当します。

ナナシス楽曲では、
僕らは青空になる/777☆SISTERS
CHECK' MATE/NI+CORA
Clover x Clover/サンボンリボン
ひまわりのストーリー/Le☆S☆CA
KID BULE~裸の王様~/The QUEEN of PURPLE
Purple Raze/The QUEEN of PURPLE
WORLD'S END/セブンスシスターズ
など…

意外にありましたね。
皆さん気がついてましたか?
私はドラムしか聴いてない瞬間が多々あるんで浮き彫りになって見えてくるのですが、
何も知らない人にはどう聴こえているのでしょうか。知らなくないのでもうわかりません。
「お?なんかやってんな」と思うようになってくれると嬉しいです。

本題

では、このビートがナナシス楽曲に使われているからなんなんだよって話です。

そこで注目していくのは777☆SISTERS
言うまでもなくこのIPのメインユニット。いかにも意味がありそうなユニットです。
初期デジタルサウンドからいわゆるバンドサウンドと呼ばれる曲調に移行する頃に、スリップビートの使用が目立ちはじめます。
茂木氏のやりたいことが、客である我々に浸透し始めた時と合致する気がします。

それでは見ていきましょう。
(歌詞中の***がスリップビートの差し込まれている箇所)

『僕らは青空になる』
まずは、

1A
叶わないだけの夢もあると
キミはちょっと悲しく笑うけど

2A
届かない壁にぶち当たると
もうダメなんだってキミは言うけど

と、静かな曲調で1番2番共にマイナスの表現から入ります。
そして、次の小節にスリップビートを1回差し込みます。

1A
あの日か***ら履いて傷んだシューズは
そんなことじゃキミを裏切らないから

2A
あの日見***た空に誓った言葉
忘れてもキミは捨てられないから

と、1番2番共にプラスの表現へ転換するきっかけとしていますね。

また、

1B
高すぎて諦めた青空に
今日は届***きそうな気がするんだ

2B
眩しくて目を細めた光
今はもう***怖くはないんだ

サビ前で、青空に向かって大きく飛ぶ前の踏ん張りかのようにもう1度。
あまりにも綺麗ですね。

『STAY☆GOLD』
この曲では、”ずっとそこにあった本当に大切なものにようやく気がついた”時に、気づきとしてのスリップビートが使われます。

1A
かすれてしぼんだ想いは
最初***からそこにはあって…

のところで1回、

1B
雨の日だって水溜りの虹は
***綺麗だってやっと気付けたね

で、2回目

2A
かっこ悪***いのが本当の君だよって
この空が教えてくれたね
2B
優しさとかまごころが
萎れて***しまう日だって きっと自分次第

3,4回目、

この様に、気づきを視聴者にもたらしてくれてますね。見落としてしまう大事なことにふと目を向けてみよう、という余裕です。

筋が2曲ともとても明確です。

ちなみに、『僕らは青空になる』と『STAY☆GOLD』のそれぞれ対となっている、『FUNBARE☆RUNNER』と『スタートライン』にスリップビートは使われていません。
これらにはきっと、行きたい所へは迷わず行きなさい、という願いが込められているんでしょう。
だから”立ち止まったり思い直す”曲とは別なんだと思います。
どちらが良いとか、テーマ性が強いとかではありません。込めた願いの方向が違うのです。
高飛びとマラソン、どちらにも違った良さがあるように。



そして
『MELODY IN THE POCKET』
この曲にも当の然、使われています。

それもたった1ヶ所。

2A
隠し切れない悔しさもあるんだ
思い出したいことばかりじゃないだろ
それで***もここに自分の足できたんだ
誰も知らない君だけの場所

この1ヶ所だけです。

1番2番共に、歌詞をマイナスからプラスに展開、また気づきの箇所となっていますが
使用されているのは2番のAメロだけ。
不思議ですね。これまでのセオリーから外れていて、また違った意味がありそうな気がします。


ところで皆さん、この曲は本当に完成されている曲だと思いませんか?
曲調や歌詞もさることながら、集大成と言われた武道館ライブのアンサーソングという位置づけ、現状の制作活動のあり方に限界を覚えた茂木氏自身のケジメを表現したであろうDメロの歌詞と、その現実とのメタ的なリンク性、キャラクターとキャストの成長からくる自信と達成感に満ちた透き通るような歌声…

私はこの曲を4thライブで聴いた時に、
舞台演出と相まって、あまりの清々しさに「あぁ、今日でナナシス終わるわ…」って真っ白になりました。
5thライブでも思いました。

しかしです。しかしですよ。ナナシスは終わらなかった。
この曲は完璧に見えて実はそうではなかった。そうしなかった。
たった1ヶ所だけ意図的に不完全なところを残してあるんです。


お気づきですね、そう”スリップビート”です。

これほどまでに完璧な1曲になぜ、あえて不完全性を取り入れたのかと言えば、

“フック”にしたかったんでしょう。
「まだ完成してねえぞ、勝手に終わってんなよ、まだまだ見届けろよ」とね。

さながら、日光東照宮「陽明門」の”魔除けの逆さ柱”のように。
(「完成したものは壊れ、完璧なものは魔を寄せ付ける。であるなら完成させず不完全なものにしよう」という願掛けから、門の柱のうちひとつだけ模様を逆さにしたっていうあれ)


武道館ライブと『MELODY IN THE POCKET』で「青空」というひとつの臨界点に到達したナナスタシスターズですが、
彼女たちの限界はこんなものじゃないぞ、青空だって越えて行けちゃうんだからついて来てよね!と差し伸べられた”手”の様にも受け取れます。

仮にこの曲がセブンスシスターズのものだとしたら、
スリップビートは使われず、我々はその手を掴むことができず、完璧な彼女たちはその大きな翼で飛び去っていたかもしれませんね。



さいごに

特筆して言わなくて良い野暮なことをこじつけてみました。
筋が通ったものにはいくらでもこじつけられます。

茂木氏の指示で明確な意図を持ってビートがそうなったのか、はたまたドラマーの手癖で単にそうなったのかはわかりませんが、いいように解釈するんです。
ただし、そう思っていいだけの”こだわり”を全身で浴びてきたことは間違いないです。だからこそそう考えてしまうのです。


ところで、
先日公開された『Across the Rainbow』の2Aでも使われてますよね。トレイラーの最後の方をよく聴いてみてください。

この曲については、紹介するだけで特に語ることはしません。
このnoteを読んで、これまで聴こえていなかった音が聴こえるようになった皆さんが、それぞれのカタチで受け取ったら良いと思います。
そんなお節介な記事でした。


おわり。

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