ウイグル問題―米中戦争の視点から

中国がウイグルで人権弾圧をしているという報道が最近多くなった。『強制労働』や『ジェノサイド』があるという。この問題を考えてみたい。

ウイグル族の「強制労働」問題を最初に取り上げたのはBBCだという。しかし、その報道がどこまで事実なのかわれわれには分からないし、ましてその西側メディアの報道をそのまま流している日本のメディアの報道も信頼できるものではない。
確かに「強制労働」に近いものがあるらしくは感じるが、一方でBBCの報道には意図がある可能性もあって、それをそのまま信じることはできない。たとえば、「100万人の強制収容所施設」があるというのだが、本当に中国は100万人に食事を提供し監視しているのか。

新疆ウイグル自治区は中国の六分の一の面積を占め、人口は約2600万人である。宗教はイスラムだという。ウイグル族がイスラム国家を打ち立てようとする動きは、古くからあるが、近年では991年、ソ連崩壊後に中央アジア5カ国のトルコ系民族が独立を果たしたことに刺激を受け再燃したとされている。
独立を勝ち取ろうとする国内勢力があれば、どの国であっても徹底して取り締まる。独立派勢力は、地下に潜って活動し、激しい対立になる。中国政府は「一部の過激派」といい「テロの防止」という口実で「再教育」を行っていることが想定される。中国の治安当局が、テロ対策といいながら、明らかに「人権侵害」にまで踏み込んでいる可能性は高い。

中国は、東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)や世界ウイグル青年代表大会(WUC)をテロ組織に認定している。ETIMは、国連もテロ組織として認定しており、オサマ・ビンラディンからの資金援助や『アルカイダ』キャンプで訓練を受けているとされる。
アメリカは2010年には中国にこうしたテロ組織に強く対処することを求めている。
そうしたアメリカの要請で中国当局が現地での取り締まりを加速させ、ウイグル自治区での衝突が激しさを増したとされている。

実際にテロ事件が起きている。2009年7月新疆ウイグル自治区ウルムチでは197人が死亡する騒乱、2013年10月北京の天安門前で、ウイグル人が運転する車が観光客の列に突っ込んで炎上、翌14年雲南省で96人が死亡する無差別テロ、同年ウルムチで130人以上が死傷する爆発事件がおきた。これらは氷山の一角で、1990年から2016年までに、数千件のテロ事件が発生したといわれている。

もちろん、テロに走るのは一部の人達に違いないが、中国当局が現地でテロ対策を理由に締め付けを強めることを頭から否定はできない。

2021年4月の定例会見で、中国外交部スポークスマンはBBCの報道に反論した。
BBCの放送は、ドイツの学者であるエイドリアン・ゼンツ(Adrian Zenz、共産主義犠牲者記念基金、ウイグル族に対する強制不妊手術や綿花畑での強制労働を指摘した)のデータが基になっているが、それは「役者」を使った偽証である。

また、BBCが2020年7月に報道したZumrat Dawutという女性に関しては次のように言う。
Zumrat Dawutは以前『再教育キャンプ』に監禁されたと言っていたが、実際には職業訓練センターで訓練を受けたことはない。彼女の子宮摘出による不妊手術を強制されたと言っていたが、実際には2013年3月にウルムチ市内の産婦人科病院で第3子を出産した際、分娩同意書に署名して帝王切開と卵管結紮に同意しており、その後、病院で帝王切開と卵管結紮手術を行った。不妊手術をさせられたのではまったくないし、ましてや子宮を摘出されたのではない。
 彼女はまた、高齢の父親が新疆当局に数回拘束され、取り調べられ、少し前に死因不明のまま死んだと主張している。だが実際には、彼女の父親はずっと子供とちと普通に生活し、取り調べられたり拘束されたりしたことはなく、2019年10月に心臓病で死亡した。こうした状況は彼女の3番目と5番目の兄がきちんと説明している。

中国当局、BBCどちらの言い分が正しいのか、私には判断のしようがないが、中国当局の反論は詳細で具体的であり、捏造とは思いにくい。
父ブッシュ時代の湾岸戦争の際に、「イラクの兵士に赤ん坊を地面に叩きつけられて殺された」と泣きながら証言したイラク人女性が駐米クエート大使の娘だった事例を思い出す。

BBCと同様、ウイグル問題を追求しているのが、オーストラリアのシンクタンクASPIである。一例をあげれば、彼らは再教育キャンプの疑いがあるとして380の施設をあげている。
中国はウイグル自治区内に職業技能教育訓練センターを設置していて、そこに一部の犯罪者を送っていることは認めている。だが、大量のウイグル族が再教育キャンプなる施設に入れられていることは否定している。
そして、ASPI(オーストラリア戦略政策研究所)が写真つきでキャンプの疑いを指摘した380の施設のうち、90%にあたる343施設は、実は学校や政府機関や研究所、病院、商店などであることを、自治区政府は一つひとつ突き止めて否定している。

中国側の反論に対し、BBCやASPIは何ら反批判をしていない。BBCは番組内容が虚報とされているにもかかわらずである。

ウイグル問題をめぐってはカナダ、イギリス、アメリカ、オランダ、リトアニアなどが「ジェノサイド」と認定した。確かな証拠が乏しいにもかかわらずである。

こうなると頭をよぎるのは「ウイグル問題は政治化され、利用されているのではないか」という疑問だ。つまり、ウイグル族にスポットを当てることは、彼らの問題を解決することを目標にしているのではなく、この問題を通じて中国に揺さぶりをかけることこそが真の目的だということだ。

オーストラリアの雑誌(Financial ReView)によれば、じつは、ASPIはアメリカ国務省から45万ドルの資金が流れていて、中国と研究協力しているオーストラリアの大学を調査し、そうした研究者と彼らの研究成果を「しつこく誹謗中傷している」という。
またASPIは、オーストラリア国防省、アメリカなどの外国政府、そして軍需産業から資金提供を受けており、その金主が望む「研究成果」を次々と発表し、「反中ヒステリー」を煽っているという。

中国の駐オランダ大使館のHPに掲載された記事(2021/4/29)によれば、「2004年以来、NED(全米民主主義基金)はウイグルの在外組織を通じて876万ドルを新疆ウイグル自治区の反政府運動に提供した」という。

YouTubeの動画に、ローレンス・ウィルカーソル元米陸軍大佐の講演があり、その中で彼は「CIAが、中国の新疆にいる2000万人のウイグル族を使って政情不安を掻き立て、中国政府を刺激し続ければ、外部の力を必要とせずに内部から中国を崩壊させられるだろう。これがアメリカの目論見だ」と述べている。

こうした理解は国際政治を見る上で当たり前の理解である。ウイグル族の不満は、古くは旧ソ連が中国に揺さぶりをかけ、中央アジアでの支配を確立するために利用されてきた。さらに、トルコが中国との取引を有利にするための材料とされてきた。
そして今、米中戦争に突入しようとしている。アメリカとしては、中国バッシングの世界世論を形成していく材料としてウイグル問題を利用しているという側面があるのではないかという視点を持っておくことも必要なことのように思われる。

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