太平洋岸自転車道を走ってみた話。 #14
14日目
朝起きる。
起きた瞬間に、生理が始まっていた。
少し慌てながら、身支度をする。
とりあえず下着と生理用品を買いにコンビニへ急ぐ。
まだ外は真っ暗。
雨はぽつぽつと降り出している。
コンビニで必要なものを買い、少しほっとする。
ぎり耐えたらいいなぁと思っていたんだが、残念。
雨も降っているし、まだ真っ暗だし、正直ブルーな気持ちだが、泣いても笑っても最終日。
後ろには台風7号が迫っている。もう逃げらんねぇ。行くしか無いのだ。頑張れ俺。
またしても道がわからない。
青い矢印を辿っていくだけのはずなのに、青い矢印がすぐどこかに消えてしまうので、その度に慌てる。
しかも今日のルート、正規の道で行くとかなり迂回させられるな。
特に寄りたいところもなく、急いで最終地点まで向かいたいだけに、どういう行き方をするか迷う。
時間を取るか、正しいルートをやり切ったという気持ちの方を取るか。
あとは、正規ルートを離れると、毎回お馴染みの、激坂ルートや自転車NGルートにかち合うというリスクもある。
悩ましいところ。
基本的には青矢印で行くことにする。
まだ暗い中青いラインに沿って走って行く。
走って行くと、やはり女性ホルモンの精神と身体に及ぼす強い影響を感じる。
体調はすこぶる悪いし、鬱の権化のような、真っ黒でツノと尻尾が生えていて、しかし目とかはきゅるんとしていてなんだか憎めないようなそんなやつが、壁の向こうからチラチラこちらを見ているような、そんな感じがする。いつものやつだ。
まだ、今日は勘弁してくれ。
帰ったらいくらでも落ち込んでいいから、今日だけは頑張らせてほしい。
じゃないとやってもやり切れない。
昨日までは、ゆっくり休憩を挟みながら進んでいたが、体調の劇的悪化のため、休むともう動けなくなるような、そんな気持ちになる。
今日はできるだけ休憩は最小限でいこう。
帰りが遅くなっても良くないしね。
女ホルの影響というのはこれだけきついのだから、りゅうちぇるが耐えられなかったのもよく分かる。
不謹慎だということは分かっているが、こんな風に体調も精神も絶望的になることを、毎月繰り返しているのだからそれは死にたくもなるだろう。
女は強い。
真面目に青ラインを追っていたのだが、あまり忠実に追っても距離が嵩み過ぎるので、ショートカットできそうなところは削っていく。
ヨシヨシ、順調。
半分ほど行ったところで、また青ラインと合流する。
せっかくなのでそろそろ正規ルートに従うか。
正規ルートに進んだ途端、これだ。
ものすごいきつい坂道に連れていかれる。
休憩できそうな場所(コンビニ、道の駅など)もなく、坂は終わったか?と思えばまた続いていく。
もうだめだ。心がボキボキに折れていく。
真剣に道にブチギレながら進む。
なぜこの道チョイス?
運営側は何を考えているんや。
確かに車通りは少なめだし、みかん畑を眺められていい道かもしれないが、1200km走って来た人間に対して、この仕打ちは無いぜ。
嫌になって、正規ルートを無視して最短ルートで向かう。
とりあえずお腹が空いたし、全然休憩も出来ていないので昼を食べる。
ファミレスはお盆でファミリー客で溢れていた。
店員さんもわたわたしていて忙しそうだ。
チーハンを頼む。
途中で喉が渇いて、ドリンクバーを入れに行った隙に、ほとんど手をつけていないハンバーグを下げられかかっていた。これで食べ終わってるわけないやん。
忙しいのは分かるけど、流石に悲しい。
まだ食べれる状態だったから返してもらえて良かった。
早く席を空けて客を捌きたいんだろうな。
それは分かる、分かるけど、ちょっと待ってくれや。
いそいそと食べて店を出る。
雨は止んでいる。よっしゃ。
青ラインが分からないので、スマホルートで進もうとする。
行こうとしたところで、青ラインを見つける。どっちに行くか迷う。
あと少しだし、青ラインを追うか。
少し行くと、海沿いの綺麗な自転車道に出た。まさか、最後はこんな綺麗な気持ちいい道を走れるのか。
ウキウキした気持ちで景色を堪能しながら走っていたら、無惨にも道は終わってしまった。
普通の自動車の道に出た。
期待するんじゃなかった。がーん。
仕方ないのでクソみたいな普通の道を進む。
なんかもう、疲れているし、和歌山の良さを全然楽しめていない(台風が接近していて焦っている)。イライラもしているし、何かにつけて腹が立ってしまう。
それでも辞めるわけに行かないので無理やり進む。
上の方から高いマンションが幾つも見えた。あれが和歌山市かな。近づいて来たのかな。わくわく。
海南市のエリアは、とても綺麗なホテルが立ち並んでいた。
ここだけリッチな空間だった。リゾート地みたい。
金かかってる。
さっき上から見えたのはここやったな。残念。和歌山市はまだか。
もう終わることしか考えてないからだめや。
一生懸命走る。
和歌山市駅に着いた。
駅はびっくり大きくてきれい。
コミックカフェを発見したので、シャワーを浴びる。
加太駅付近にはシャワーを浴びることができそうなところは見当たらなかった。
汗だくのまま電車に乗るのは気が引ける。
ここで汗を流しておけば、まだマシだろう。
気分もスッキリする。
ラスト10kmとなったところで、今日一番の大雨が降って来た。
せっかくシャワーして、きれいな服に着替えたのに、全部びしょ濡れ。
ほんまありえへん。
ブチギレかましながら、それでも足を止めない。
止めたって仕方ない。
あと少し、と思うとなかなか着かないのが人間の心理。
にしても、なぜ加太港が終点なのだろうか。
周りに何も無いし、失礼だが、そこを目的にしても全然ワクワクしない。おまけにモニュメントに向かう道は、何にも楽しみも趣もない、普通の道。
最後の最後がこれかよ。
散々、道を逸れさせて、山やら海やら走ってたくせに。
もう機嫌がマックス悪いので、そんなことばっかり考えてしまう。
それでも、やっと、大雨の中モニュメントに着いた。
見事に誰もいない。
もっとこう、いや、分からんけど、なんかこう「すごいですねー」ってチヤホヤされたり、他のサイクリストさんがいたり、そういうのは無いんやな。しょぼん。
あっさり写真を撮って、すぐに離れる。
もうやり切った。
くたくたやし、とにかく雨風がすごい。
ほんで駅はどこやねん。
最後キレてばっかしやな。
なんとか駅に着く。
絵がいっぱい書いてあったり、めでたい電車のヒラヒラがあったりするけれど、もうそれどころじゃ無い。
早く帰ろう。台風にこれ以上晒される前に。
今日も輪行袋にはすんなり入った。よしよし。
電車が来る。これであってるのかな。
駅員さんに何度も確かめる。不安になるが、よく考えたら加太駅は終点だから、これしか電車はないのだな。
恥ずかし。
だから終点なのかな。
合っているのか不安になりながら乗り込む。
合っていそうだな、と安心。
人もそれほど多くない。
というか、ほとんどいない。
この車両、私ともう1組夫婦が乗っているだけ。
自転車を輪行していると、場所を取るので混んでいるととても気を使う。
空いていて良かった。
座席に荷物を置く。周りを見回すと、これまでに見たことがないくらい可愛い電車!!
お魚さんが至る所にいる。
床、扉、吊り革、シート。
こだわりがすごい。全部が可愛い。
持って帰りたいレベル。
これはすごい。
なるほど、加太駅に来るところまでいいことなんてひとっつも無かったが、このための終点だったのかな。
これまでしんどかったことが、全て報われた気がする。
ぼんやり電車を見ていたら、カバンを一つ忘れていたらしい。
駅員さんが届けてくれた。
優しいが過ぎる。
それほどに、かわいい電車には人の心を癒すパワーがある。
自転車に乗り出してから、バイクや車にも興味を持ったが、電車にも目を向けるようになった。
ラッピング列車って、なんであんなにテンションが上がるんだろうな。
作っている人はすごいな。