
太平洋岸自転車道を走ってみた話。 #9
9日目
今日は朝起きた時点でドン引きするくらいの土砂降り。天気予報を見ても、この度1番の雨予報。今日は一日中雨。
なんか一気にやる気を無くしてしまった。今日はもうこのままどこにも行かんともう一泊泊まろうかな。本当は朝市に行こうと思って早起きしたのだけれど、あまりにも心が折れ過ぎて、しばらく悩む。
とりあえず天気、と思って窓の外を見ると、少し止んできている。このくらいならいけるかな。
もう一度外に出て、雨の降り具合を確かめてみる。
やっぱり起きた直後よりはましやし、このくらいなら行くか。
ただいつどのくらい雨が降るか読めない。昨日は雨の中走って寒気を感じていた。
無理して雨の中走って、風邪をひいたら余計に走れなくなってしまう。それは嫌なので、天気の様子をみながら走れるだけ走ってみよう。
少し手前の富士、いけたら静岡市までかな。

出発することにしたので、まずは沼津港の市場のセリを見学しに行く。
本当ならばもっと早く出て船から魚が揚がるところを見たかったが、仕方ないね。

セリの2階に見学できる廊下があって、上からどうやってセリをしているか俯瞰的に見ることができてすごく良かった。
本当ならば職場の人たちも一緒に来れたら良かったのだが。
代わりに写真と動画をいっぱい撮っておこう。
やっぱり、インターネットで調べたり、本で読んだりするだけじゃ、本当の雰囲気は掴めないし、生で見ることで新たな気づきや疑問が浮かぶ。
とにかく足を動かし、目で見て、肌で感じることが大切。
それを思うと、今回の旅はめっちゃくちゃ色んなところを回ることができたのは、いい経験だった。
見たことあるな、聞いたことあるな、くらいのものが、詳しく見ることができると、より身近に感じられる。
しかも、道を連なって旅しているので、「昨日見たあれと繋がってる!!」ということが沢山あった。小田原城の北条氏の話が土肥金山でも出てきたり、菱川師宣と葛飾北斎、歌川広重が繋がっていたり…。
これまであまり歴史や地理に興味が無かったけれど、大人になって知識も少しずつついてきたことと、北海道まで旅したり、今回のこともそうだが、本や人の話だけではあまり興味が湧かなかったことも、自分の目で生の景色や実物を見て、感じる体験をたくさん積み重ねてきた。
そのおかげで、興味を持つことができた。
また、点と点が繋がる感覚を楽しめるようになった。
これも成長。
1時間強ほどでセリが終わる。そのまま朝ごはんを食べられる店を探す。
外に出ると、またざざぶり。
その度にテンションが下がってしまう。
山の中で雨が降り出したら、行くしかないから諦めがつくが、こうも半端に街中で振られると、出る気を無くす。
なんとか店を見つけて入る。
濡れて寒い。

朝から豪華に魚を食べる。
この数日でエンゲル係数がバカみたいに上がっている。
帰ったら質素に暮らさねば。
美味しく食べ終わった。
今回は、反省を生かしてご飯を少なめにしたので、気持ちよく食べられた。やはりこれが正解。
外に出ると、少し止んできている。
どうせなら静岡市までは行こうかな。まだ時間はあるし。
静岡市で見たいもの…。少し調べると、(スマホの調子がかなり良くなって、本当に良かった!)広重美術館と登呂遺跡というのが面白そう。行ってみよう。

道の駅富士では、サイクルスタンドが富士山で可愛かった。
ここら辺では富士山がアイデンティティみたいなものなのかな。
まだ天気が悪くて、この旅では富士山を見られていない。
おそらくあれかな?というのは何度も見たが。
できれば見てから静岡を去りたい。

広重美術館へ向かう。
ここからはそれほど遠くないが、行き方が分かりにくい。
ぐるぐるさまよって、なんとか辿り着いた。

浮世絵って、どれも綺麗で引き込まれるからすごく好き。
千葉の菱川師宣記念館も見てみたかった。時間が早過ぎてまだ営業していなかったので、また行ってみたい。
広重美術館では、浮世絵とは?ということから、版の刷り方や広重の人生についてなど、深く解説がなされていた。
入ってすぐのところに、タブレットで解説が読めるというコーナーがあった。
この旅でいくつか展示を回っていて感じたのは、現物を見るだけよりも、解説のビデオを見たり、聞いたりした方がその中身をより深く知ることができて、より展示を楽しめるのだ。
これまではビデオなどの展示は時間もかかるためスルーすることが多かったが、そのことに気づいてからは積極的に解説を活用するようにしている。
やはり予想通り、タブレットの解説では浮世絵についての解説もあって興味深かった。何より子供向けのクイズと絵本があったのだが、その内容がかなり高難易度であったことに驚いた。これは本当に子ども向けに作られているのだろうか。
大人が見ていても間違えまくりだ。
「この背中に天狗を背負っている人は、どこに向かっているの?」「青い着物をきたこの人は何者?」など、本当に子どもに答えさせる気あるのか?というような、でも大人がやっているとすごく面白かった。
そのクイズをやったことで、展示の内容も詳しくなり、興味を持って見ることができた。
このクイズ、持って帰りたいな。
そして展示に回る。
まず初めは、浮世絵とは何かという展示からだった。
浮世絵とは、当時のメディアとして、ありとあらゆるジャンルのものがあったそうだ。
可愛い女の子の絵を見てニヤニヤしたり、バラエティや風刺など、その当時の人々が楽しんでいたということがよく分かる。
朝の漁港の方たちを見ていても同じことを感じたが、本の中でしか知らなかった人たちは、本当に実在していて、そこで彼らの生活が営まれているということを改めて感じた。
当たり前のことではあるが、魚屋のおっちゃんたちのコミュニティ感は強く、親しげに肩を組んだり、小突きあったりしている姿も見られた。
仲良いんだろうなぁ、と感じた。
そこには、当然のことながら、生きた人間がいるのだ。笑い、怒り、泣き、悩み、働いている私たちと何も変わらない人たちなのだ。
どこか遠い世界の知らない話、みたいに思っ
ていたことが、身近に感じられた。
それは浮世絵でも同じ。
江戸時代の人たちだって、今みたいにスマホやパソコンは無いが、芸能や小説などの娯楽もあった。
魚屋のおっちゃんと同じように、生きた時代が違うだけで、ただそこにいたのだ。
それぞれの事情を抱え、楽しみを見出し、必死に生きていた人たちが。
そのことが浮世絵から感じられた。
そう考えると、歴史を知るということはすごいものだな。
また、広重の絵はとても美しかった。海外の人たちも、その素晴らしさに驚き、モネやゴッホも参考にしたらしい。
すごいなニッポン。
その感動もそのはず。
とても精緻な線やタッチ、こんな風にするか、という表現がたくさん見られた。
大谷翔平や羽生結弦、藤井聡太のように、この時代にも天才がいたのだ。
また、期間限定で北斎と広重の展示も興味深かった。
北斎は、ダイナミックで、パキッとした絵が多いのに対し、広重は表現が独特で、ぼやっとしているようでいて完成されている。
どちらも素晴らしいが、敢えていうな言うならば広重の絵は素朴で落ち着く感じがして好きだ。
あっという間に展示を見終わってしまった。
520円だったが、とても価値のあるいい展示だった。全部の絵を持ち帰りたいくらい、どの絵も美しかった。
帰りに、お土産にまたポストカードを購入。
ふふん。

絵を見ていい時間になったので、昼ごはんを食べる。
大きな店がないけれど、目に入った店に入ろう、と思っているうちにどんどん店が少なくなってしまった。
まずい、と思った矢先、営業中の看板を見つけて止まる。
この地域では桜エビが有名らしい。
桜エビのかき揚げと、釜ご飯のセットを注文。
わくわく。
あ、ご飯減らすの忘れた。
ご飯もりもり、かき揚げドーンで、またしてもお腹がいっぱいになってしまった。
そして登呂遺跡へ、と思ったところで、また大雨。駅前の屋根でしばし待つ。
すぐ止むだろう、と踏んでいたが、なかなか止まない。
となりではパンクしたらしいおじさんが、シコシコ空気を入れている。
少し気になるが、わたしには助ける技量もないので話しかけずにそっとしておく。
ちっとも止まないので嫌になって、遺跡は却下。
もう宿に入ろう。
静岡に入ってから、天気が悪くてなかなか抜け出せないでいる。
だんだん焦ってきた。
明日は浜松辺りまで行けるといいな。