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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その2

 「犯人は花山男爵の寝室の出窓から、
侵入したんですよ」
左門豊吉刑事は、
五十部警部に向かってまくしたてた。
「知っての通り、玄関の扉、
その他の扉は全部内側から閉まっていた。
 窓も問題の出窓を含め全部閉まっている。
それに花壇の足跡も視て下さい」
花壇は邸宅の壁からやや離れた場所にあり、
季節の花々が色とりどりに芳香を放っていた。
警官が興奮した様子で、
五十部警部の腕をつかんだ時、
この二人はちょうど花山男爵の、
寝室の真下に立っていた。
警官は得意げに花山男爵の邸宅の古い壁に、
絡んだツタを指さしていった。
「地上から10Mばかりの花山男爵の三階の部屋の窓へ、
延びるツタの葉がハギ取られ落ちています」
「どうです、
犯人がどうやって外部から侵入したか、
分かったでしょ。
さぁお宅の内部も見ておきましょうかね」
 
花山男爵は寝台の端から、
腕を垂らし横たわっていた。
その喉首を掻き切られており、
枕や敷布は血に染まっていた。
終夜灯はそのままであった。
出窓へと歩み寄ると、
左門は出窓の下枠に引っ掻き傷を見つけた。
左門刑事は皮肉な笑みを五十部警部へ向けた。
「ここにしがみついていたんだな。
警部、弘法にも筆の誤りですか。
警部は確か犯行は内部から行われていて、
犯人は窓から侵入した訳ではないと仰っていましたが…
さて、花山男爵の死で得するのは、
やっぱり甥のなんといったっけ、
ああ、花山勝彦でしょうかね。
驚いたな。大それた事などできそうもない、
奴だったけどなぁ」
「表面に囚われていると謀られるよ。
それを警察学校で学んだはずだがね。
私が驚いているのは、
君がこんな重大な点を見落としている事だよ。
分からないかね?」
五十部警部は出窓の下枠を注意深く調べながらいった。
 
さて、左門刑事が見落としていた重大な点とは何かな?

ツタの葉が落ちていたのは地面から、
10Mの場所だけである。
もし、地上からよじ登っていったのなら、
地面に近い点のツタの葉も落ちるなり、
むしり取られていなくてはならない。
また、壁を下からよじ登ったのであれば、
壁からやや離れた花壇に足跡があるのはどうしてか?
犯人は逃げる際にある程度の高さまでツタを使って降り、
その後花壇に飛び降りて逃げていたのだ。

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