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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その27

ごく短い距離での発射が、
菊池幸三の頭部の右半部を、
消失させていた。
森の奥深く狩猟の為の、
丸木小屋のテーブルの上に、
凶器となった12口径の猟銃が、
その銃口を菊池が座っていた側に向け、
銃床を米を詰めた麻の袋で、
重しにして置いてあった。
引き金に糸が巻いてあり、
その糸の端がテーブルから、
垂れ下がっていた。
菊池幸三の遺体は、
座っていた椅子ごと横倒しになっていた。
「この小屋へくる道すがら、
大きな猟銃の音を聞いたので、
慌てて来てみたら、
あなたもご覧の通りだったんです」
趣味の狩猟仲間の一人だった岩尾正は、
五十部警部に説明した。
「菊池君は猟銃の引き金に糸を巻き付け、
あそこに座ってから、
それを引いたのでしょう」
「彼の自殺の原因に、
お心当たりはありますか?」
「最近の市況の暴落で、
かなり損をしていたようですが…
よく分かりません」
「あなたは彼と何か取引関係がありましたか?」
「ええ、少しばかり金を借りていたのですが」
「あなたも猟銃をお持ちですね」
「ええ、今朝早くに少し山鳥など撃ちましたが」
五十部警部は岩尾の猟銃を検めた。
「しかし、菊池君と違って、
僕はからきし駄目な方なんです」
五十部警部は皮肉な笑みを浮かべて言った。
「しかし、人には命中させましたね。
ごく近い距離からのようですが」
 
なぜ、五十部警部は菊池氏が、
自殺ではなく他殺だと考えたのかな?




位置関係を考えると銃口の前に菊池氏はいたはずだ。
その状態では引き金のヒモは手前に引くことになる。
だが、それでは銃の発射は不可能である。
この場合、引き金は押されなければ発射できない。
銃に関しては素人だった岩尾の偽装工作は稚拙に過ぎた。

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