【短編推理小説】五十部警部の事件簿
事件その8
五十部警部の深夜の書斎に電話の音が鳴り響いた。
妻の淹れたせっかくの珈琲を一口も啜らず、
彼は中央署に向かって自家用車を疾らせた。
都会の暗黒面に潜む深海魚たちは、
ついに仕掛けていた網に収まったのだ。
署の前に群がる事件記者には特ダネは与えず、
ただ以下の概要が発表されたに過ぎない。
逮捕されたのは7人。
頭目と殺人鬼がこの中にいる。
1. 金田仁と太田寛太と殺人鬼は、
この七人の中でもっとも冷酷であり、
警部はこの三人が過去七ヶ月間に起こった、
四件の未解決殺人事件に関
わりがあると見ている。
2. 永井八十吉と頭目、
そして大村一平は、
横浜のある親分の殺しで取り調べを受けたが、
嫌疑不十分として釈放されていた。
3. 山森長治と殺人鬼は念友であるが、
最近、二人を警察に売ろうとしたという疑いを、
永井と大村にかけており、不仲となっていた。
4. 殺人鬼と富森は長年組んで強盗を働いていた。
富森は眼鏡を掛けてい る。
殺人鬼は香港の地下銀行に、
多額の金を持っていると噂されている。
5. 頭目と太田は共に新橋の芸者を妾にしている。
6. 頭目と須田大吉は最近、上海へ視察旅行へ行った。
7. 金田仁と頭目は最近まで一緒に〇X刑務所へ服役していた。
さて、殺人鬼は誰かな?
富森庄太郎が頭目。須田大吉が殺人鬼である。