【短編推理小説】五十部警部の事件簿
事件その10
五十部警部は久方ぶりに、翁倶楽部という好事家の集まりに顔を出し、出前で取った松花堂の弁当や会員が持ち寄った地方の銘酒で会食した。
寒い晩のことで四、五人は暖炉の火の側に集まり、食後のブランデーなどを舐めながら、あれこれと四方山話に花を咲かせていた。
すると、金融業をしている田沼光という男が警部にある地方新聞記事の切り抜きを渡してきた。
「警部、この記事の事件についてどう思います?何か不審な点がありますか?」
記事には見出し以下次のように書かれていた。
停車中の乗用車の男女銃撃される。
XX運河沿いの小広場に停車中の乗用車に二人でいた、男女、友永光弘氏とその友人の木本雅子さんが何者かに銃撃され、友永氏は重傷を負い現在も入院中である。
木本雅子さんによれば、知らない男が近づいて来て閉じていた自動車の窓を叩くので友永氏は窓の操作レバーを回し上げた。
すると男は窓の隙間からいきなりピストルを突き出し一言も発せず銃撃しそのまま逃げたという。
警察は男の行方を追っているが、未だに手がかりはなく捜査は難航している模様。
五十部警部は一読するなり、「あるね。簡単な事だが」とだけいった。
それは何かな?
閉まっている自動車の窓の操作レバーは回し上げても窓は開かない。
回して下げなければならない。