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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その4


「あなた、誰?」
新進女優として名を上げていた映画スター、緑川良子は口をパクパクさせながらやっとそれだけをいった。
突然、泊まっていた中央ホテルの部屋のドアが開けられ、覆面の男が押し入って来たのだった。
「アンタの大事な顔を傷つけたくない。宝石箱のカギを渡せ。」
ピストルを突き付けるなり男はいった。
緑川良子は撮影の為に借りてきていた宝石を入れてある箱のカギをおずおずと渡した。
「浴室へ行け」
男は冷たくそれだけをいった。
「それですから、鍵を渡したら、浴室へ押し込まれて、ドアを閉められる前に、チラと他の二人の男の姿が見えました。なんですか、外国のギャングみたいに顔をハンカチで覆面にして、鳥打帽をかむっていました。それで浴室の外から鍵を閉められてしまい、一時間もしてからメイドの人に助けられたのです。」
「盗られた宝石は借り物なんです。なんとか犯人を捕まえて、宝石を取り戻して下さい。」
駆け付けた五十部警部に緑川良子は泣きながら訴えた。
警部たちがホテルの名簿と雇用人を洗ったところ、疑わしい三人が浮かび上がった。
真田小助。山川勉。飯山一郎の三人である。
調査の結果次の事が判明した。
ピストルを突き付けた男ともう一人は宝石泥棒の前科があり、服役後釈放されていた。
一人はホテルの雇用人である。 
飯山一郎はマレー島から東京へ来ていた。
真田小助とピストルの男は、東京で起こした宝石泥棒として前科があった。
ホテルの雇用者が犯罪に絡んだのはこれが最初である。

五十部警部は直ちに捜査を開始し、犯人のうち二人を逮捕したが、一人はすでに国外へ逃亡していた。
さて、誰がピストルの男で誰が雇用人だったか分かるかな?



ピストルを突きつけたのは飯山一郎。
ホテルの雇用人は山川勉。
前科のある者をホテルでは雇わないはずである。
外国から来ていた飯山一郎と、
前科のある真田小助はホテルの雇用人ではない。


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