【短編推理小説】五十部警部の事件簿
事件その45
宿直の晩に火鉢の前に陣取った、
五十部警部と坂木刑事は寛いでいた。
五徳に掛けた鋳物の薬缶が湯気を噴き、
五十部警部は紅茶を淹れたポットから、
白い艶で光る磁器の紅茶碗へと、
香り立つ紅い液体を沃いだ。
坂木刑事の細君が焼いた、
砕いた胡桃や赤いジャムの載った、
厚いきつね色のビスケットが皿に盛られてあった。
それを齧りながら、ゆっくりと紅茶を啜り、
解決した事件のあれこれや、
世相についての寸評を取り交わすのが、
こうした晩の二人の愉しみだった。
最近になって摘発し全員を逮捕できた、
ヒロポンの密売団についての報告書をめくりながら、
五十部警部は、
来月の犯罪学講義の問題にでもしようと考えていた。
密売団の主要なメンバーは次の四人。
多田栄一、加田冬吉、太田平助、富沢周平である。
一団の頭目と副長、
富沢周平は密売の儲けの分配を巡って、
意見が対立していた。
頭目は多田栄一の妹が警察に、
何か漏らしているのではないかと疑っていた。
太田平助と副長、
そしてもう一人は最近になって、
自動車事故を起こしていた。
富沢周平は密売団の隠れ家で逮捕された。
頭目と副長そして加田冬吉はいずれも小指を欠損している。
さて、誰が頭目で誰が副長か分かるかな?
解決の結果。
頭目は太田平助。副長は多田栄一。