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【短編推理小説】五十部警部の事件簿

事件その7

  茶谷はそのタクシーの運転手だった。
彼は車の後部座席に座った姿勢のまま死んでいた男について五十部警部の質問に答えていた。
「その人はあたしが山の峰ホテルへ停車して乗っけてきたお客さんを降ろして、車を出そうとした時に、ホテルの前で年配の金持ちらしい女の人と話していたが、急に呼び止めてきたんです。それで東町の交差路のところまで行けというんです。
あたしは近道を知っていたんで、その道を行こうとすると、そのお客さんは、回り道をしてくれといって、まだ舗装の無いでこぼこ道の旧街道を進みました。それで、交差路についたからと後ろを振り返ったら、その人の胸になんか金属のようなものが刺さっているのが見えましてね、もうびっくりして、急いで警察に連絡したわけです。
それを自分で刺したのかどうかは分かりませんでした。なにしろ運転に気を取られていたんです」
警部は質問した。
「ホテルの前にいた年配の女は背が高かった?それとも低かった?」
「低くて痩せてましたね。お洒落な服装でしたよ」
「乗せてきたお客は女だった?」
「ええ、これも金持ち風の中年の女でしたけどね」
「君はどうも嘘をいっているようだ。署まで来てもらうよ」
 
五十部警部はどうして茶谷の言葉を嘘だと思ったのかな?

茶谷の云う通りにでこぼこ道を運転していたなら、死体はまっすぐに座席の中央に座っているわけは無い。そのまま左右どちらかに倒れてしまっていただろう。

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