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【小説】開幕でいきなり人が死なない
皆さまならば当然、既に先日発売された『碆霊の如き祀るもの』を読み終えたことだと思います。私は恥ずかしながら今朝ようやく読み始めることができました。いや~それにしても相変わらず全然人が死なねえな「のきもの」シリーズは! 単行本で150頁読んでも殺人事件が起きない!なんか主人公がのんびり山歩きをしている……。 そもそも、冒頭120頁で、シリーズキャラクターを一切出さず、四つの怪談をしっとりゆったり語るという構成が凄い。私が憧れる逆噴射先生の金言に「開幕で一人殺せ」というものがありますが、このシリーズはその真逆の方法論で読者を掴んでいる気がします。twitter小説や賞応募作品とは異なる、単刊小説だか成せる技とでも言いましょうか。「脳に刺激はじける快感」ではなく、「脳に刺激がはじける快感の下準備」で読ませるんですよね。遠足の前日のワクワク感は、時に遠足よりも強烈な刺激を脳に与えうるんですね。
TIPS:碆霊の如き祀るもの
「ホラーとミステリの融合」を題材にした、三津田信三の「のきもの」シリーズ長編第七作。正式なシリーズ名は探偵名からとって「刀城言耶シリーズ」のようですが、私は友人の考案したこの呼び方の方がライトさとカワイイがあり、好き。私も読んでいる途中なのですが、今のところなんか海辺の村で色々昔から変なのが出てて怖い……今もなんか出ていて怖い……。主人公の刀城さんとヒロインの祖父江さんが怖いの調べにいくぜいくぜ~って山に登っている話ですね。たぶんこの後殺人事件とか起きると思う。果たしてこれをTIPSと読んでもいいのか?
改めて振り返るとこのシリーズ、そういった即興性のおもしろさにプイと顔をそらしたような作りの作品が多く、なんかこう捻くれ根性がくすぐられるんですよね。明確な計算と確かな筆力を持って構成された本シリーズ作品を指してそんな中学生的欲望を語るのは大変失礼で申し訳ないんですけども……。「殺人事件」や「シリーズキャラクター」というわかりやすい刺激が、どの作品もなかなかやってこない。特に後者は顕著で、怪異に夢中になると暴走する怪奇幻想作家兼探偵役の刀城、才色兼備でお調子者なヒロイン編集者祖父江、ワガママで身勝手な刀城の兄貴分阿武隈と、魅力的なキャラを揃えておきながらこいつら全然登場しないんですよ。シリーズキャラクターなのにシリーズ中で出番が少ないってどういうこったよ! めちゃくちゃ浅はかなこと言いますけど、その作品の構造とテーマに不要ならばキャラクターは出さない、充分に準備が整わない限り殺人事件は起こさないという職人っぽさがかっこいいな~と思っちゃうのです。渋いぜ。