【2018忍殺再読】「アイアン・アトラス・ブラックアウト!」
あのおっぱいに触りもせずに……死ぬのか……!
アイアン・アトラス・シリーズ第三話。第三話にして、アイアンアトラスのヒーロー強度は一層高まり、暴力の連鎖はニンジャ同士の戦闘(レート最底辺)まで拡大し、そしてコミタの知能の低下がヤバい。あの……あまり言いたくはないんですけど……コミタくん……きみ……アイアンアトラスより頭悪くない……? アイアンアトラスさんはきみのように詐欺電話にひっかかることなく助けにきてましたよ……? 登場人物の中で「相対的に」頭がいいという立ち位置すら失いつつあるコミタくんに未来はあるのか? UNIXマンのヒーローネームを失えば彼はただの腐れ大学生だ!
目の前の出来事で頭がいっぱいになってしまう容量の小ささと、先のことを考えられない想像力の欠如。数年先に頭を抱えることになるとわかっているのに大学の単位をとらず遊び呆けるということ。ギャングに拉致されているのについおっぱいに気がそれてしまうということ。しかし、そんなコミタだからこそ示しうる善性があるんですよね。ニンジャを前にして/死を前にして、己に及ぶ危機を想像し切れないために、「あいつを助けなきゃ」で頭をいっぱいにすることができる(よく言うなら、「あいつを助けなきゃ」で頭がいっぱいになると、己の危機を考える余裕がなくなる)。コミタは勇気も覚悟もない腰抜けなので、もし十分な想像力を持っていたらたぶんこの行動はとれなかったと思うんですよ。「頭の悪さ」がもたらす、行動の上だけに現れる善性。それは、聖性を帯びた覚悟ある行動ではないけども、現れた行動としては変わりない。そして『ニンジャスレイヤー』という作人において、「外に見える形」が同じならば、その境界線は充分に溶けうることでしょう。
がんばれタランテラ
コミタが「頭の悪さ」がもたらす善性を示すのならば、タランテラは「頭の悪さ」がもたらす邪悪を示しているわけですな。金属バットで思いっきり人の頭の殴れる人間とは! 金属バットで思いっきり人の頭を殴るとどうなるか想像ができないアホなのである! とはいえ、タランテラはニンジャ特有の共感性の欠如もあるわけで、正確に言うならば「頭の悪い邪悪」を担うのはツチグモ・ギャングでしょうか。いや、タランテラが頭が悪くないとは言いませんがね……。明らかに格の違うアイアンアトラスに、特に策をねらないままリベンジしようとしていたその愚行よ。己の破滅が想像できない頭の悪さが、ある種の「可能性」として描かれる本シリーズですが、その可能性の大半は当然破滅なんですよね。当たり前だ。人の心を動かしうる奇跡とは、偶然の連鎖であり、偶然の連鎖である以上、その道筋以外の全ては失敗で埋まっている。
しかしタランテラ弱いっすな! クレイジーナックルと並び、忍殺最弱と言ってもいいのでは? カタナで人間を一刀両断できる時点で、我々読者から観れば充分超人なわけなんですけども、忍殺世界の強モータルならそれくらいできそうなんですよね(ノボセさんとか)。アイアンアトラスがそんなタランテラを爆発四散し切れないのは、タランテラのニンジャタフネスが優れているからなのか、あるいはアイアンアトラスもあんまり強くないニンジャだからなのか。我々は普段、忍殺世界でも最上ランクの戦士同士のイクサを見ているので、コミタ周辺の世界のみを切り抜かれたこのシリーズが、どの程度の領域のイクサを描いているのかが測れないんですよね。タランテラたちと比べたら圧倒的に戦闘慣れしてるであろうスカラムーシュを指標に考えると、我々が思っているよりもニンジャの平均値は低いのかもしれませんね。ニンジャ同士の戦闘経験があるニンジャって実は少ないのかも。いやでも、松田家の次男と三男はソウカイヤのスカウトを爆発四散させたんだよな。うーん……。
■noteで再読
■12月7日