極楽直通軌道エレベータの殺人
慈悲に重量制限を設けるなクソッタレ。釈迦の野郎を罵り、神田の頭蓋骨を凹ませる。ヤクでラリって集団下校に突っ込み事故死。生前の刑は当然死刑、こっちの刑は針山・人呑・釜茹でのフルセット五百年。おありがたい御仏の慈悲とやらがどういう決まりで亡者を選んでいるのかは知らないが、こんなクズを極楽に連れてゆく必要がどこにある。そりゃあ俺だって強姦殺人かまして死んだクズだ。だが、神田のクソよりはマシだし、何より挽回の機会がある。
「殺しちゃったの、おじさん」
震えながらミキちゃんが言う。釈迦がクソなら閻魔もクソだ。ミキちゃんは母親を殺され自殺して、その時確かに大勢を巻き込んだ。だが、悪いのは母親を殺したクズだろう。俺だろう。なんでミキちゃんが百年も鉄板で焼かれなきゃならない。
ケツを焼かれながら「お慈悲」の当選通知をもらった時、俺がまず考えたのはミキちゃんに権利を譲ることだった。だがそれは認められなかった。だったら密航しかない。極楽なんちゃらエレベータだか、蜘蛛の糸だか、大層な名前のついたこの施設は、鬼の刑吏だけでなく、刑の一環として亡者の手でも管理されている。隙はそこにあった。
ミキちゃんの密航がバレたのは乗り込んで二日目の夜だ。食料の減りが早いと外人の亡者が指摘したのだ。鬼の刑吏が慌てて機械をいじくり、重量制限がどうたらと騒ぎ出した。捜索には俺たちも駆り出され、神田の野郎がミキちゃんを見つけてしまった。だから口を封じた。
今後、気を付けるべきは三人。まずは鬼の刑吏。血も涙もない奴らは間違いなくミキちゃんを地獄に叩き落とす躊躇をしない。もう一人は詐欺罪で針山百年食らったサイコなガキ。絶対に頭がいい。最後の一人はさっきも言った外人の亡者。汚ぇコートをきた風采の上がらない親父で、極楽にいるカミサンの話ばかりしていた。他の二人と比べると、あのおっさんはまあ、大したことはないだろう。
【続く】