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FOOL という名のBAR

第18夜(追の夜) I'm A Fool To Want You

#創作大賞2023 #恋愛小説部門

 FOOLという名のBAR
 ここは、愚か者が静かに酔い潰れるための店

 “FOOLという名のBAR ”と名を変えてどのくらいの時間が過ぎたのだろうか・・・
 この店を守る・・・いや、冬木はあたしを守るために戦い、無期懲役となった・・・
 その愚か者が帰れる日があるのかなど考えてもどうにもならない・・・とあたしは言い分けをしているが・・・

 “FOOLという名のBAR ”と言う名が冬木を待っている証だとあたし自身が一番分かっている・・・

♪ ピアノの音・・・

♪  I'm A Fool To Want You

 マリアのピアノは心を映す。

 今夜は店を開ける前にカウンターのスツールに腰掛けて一杯だけ飲むつもりで水割りを用意した。
 ギムレットが飲みたい・・・
 一瞬、心が求めた。でも、あたし自身が飲むギムレットは作らない。あたしが飲むギムレットは冬木が作るモノだけと決めたから。冬木を失くしてあたしが禁じた唯一のことだ。

 マリアのピアノが心地よい・・・
 あたしは酔っているのか・・・
 カウンターの上・・・
 プリマス・ジンとローズ社のライムジュースが並ぶ。
 ミキシング・グラスに氷を入れジンとライムをハーフ & ハーフ。バースプーンで手早くステア。ストレーナーを被せ、氷を入れたオールド・ファッションド・グラスに中身を注ぐ。

「ママ、ギムレットです」
 冬木の指がギムレットを私の前に突き出す・・・

カシャ
 氷とグラスの触れる音・・・
 あたしの意識が覚醒へと浮上する。

♪  I'm A Fool To Want You

 昔、考えたことをふと思い出した。
 冬木はあたしが造り出した影ではないのか?あたしが出来ないことを冬木が代わりにやってくれただけではないのか?あたしの背中の光が映し出した影が冬木だから、あたしはこうして待っているのだ。本来、影があるべき場所に戻って来るのを。
 虚しさや儚さが悲しみに変わるのであれば、影さえも光が造り出すものならば、戦うことの正しさを教えて欲しい。

 会わない・・・会いに行けば冬木がやったことを認めてしまう。戦うことの正しさなんて誰が決められるというのだ。
 あたしは待つことにしたのだ。
 戻れるか分からない男を待っている・・・それがあたしの勇気だ・・・それが、あたしの想いだ。

 ここは、FOOLという名のBAR
 愚か者が、愚か者を待つための店

 そして・・・愚か者が静かに酔い潰れるための店

 今宵もまた、愚か者が紛れ込んで来るだろう・・・
 切なさが加速する前に店を開けようか・・・

 カウベルが鳴った・・・

        完

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