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【本誌106話】隘キ部屋ニテ 其の弐 前編 感想&考察
※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※ヤングエース2023年4月号のネタバレを含みます。
[23.03.03感想]
今月も後方宙がえりからの前方2回半ひねりからのムーンサルトを決めたようなアクロバティック展開に見舞われ、脳みそを頭蓋骨に固定している固定具がいよいよ損傷し始めたような、そんな気分の本誌でございましたね。
ページ数少ないのは策略だとして、それでも情報や検証したい点が詰め込まれているので考察班は忙しい1カ月を送ることになりそうなのですが、逆にいえばページ数が少ないからこそ考察が大変だというのも事実でして。
一気にその後の顛末まで見せてくれれば考察の労力が省けるというものを、少しずつしか見せないからこちら側であれこれ想像する必要性に迫られるのであり。見せる情報は少なければ少ないほど、読者の想像力はかき立てられるのだということを嫌と言うほど実感しています。
つまりこれもすべてはカフカ先生の企みどおりのことであり、そんなこんなで無様ではありますが今回も踊りますのでお遊戯会だか舞踏会だかによろしくお付き合い頂けると幸いです。
今月は大きく3つに分けて考察です。後半にいけばいくほど怪しい。
■文ちゃん
空手は美しい所作を身に着けるためのものっていう考え方は幸田露伴らしいなぁと感じてしまいます。
幸田露伴の場合は、ご自身も徹底して洗練された所作を身に着けておられたようで、女子供に押し付けるだけでなく自分でもやっていたそうな。幸田露伴さんの雑巾絞りの所作は水一滴飛び散らせることなくとてもとても美しいものだったそうですよ。
それでも文ちゃんに対するこの態度は見ていて目を覆いたくなるような酷さですね。
女は女らしくないといけないという価値観の押し付けや、誰かのようであれという既存のレールを歩くことを強要される苦痛がいかほどのものか、読みながら自分のことのように不快に感じています。
ありの~ままの~が一大ブームを起こしたのはそれが女性の魂を自由へと解き放つもの、女性にとって救いになるものだったからであり、こんなようなクソ親父(失礼)は数十年前にもう絶滅しておいてほしいものだが(ほんとに失礼)、きっとカフカ先生のことなので親父さんのほうにもそれを強要する理由やそう考えるに至った背景をご用意されていることなのでしょう。
敦くんの院長があのような教育を敦くんに施したこと、それを最終的に「正しく育てた」と作中で受容しているのは、私個人としてはすごく重要なことだと思っていて。
なぜなら院長の生い立ちを見て敦くんが驚いたように、院長は院長で被害者なんですよね。敦くん以上にひどい環境で育っているわけですが、基本的に人というのは自分が受けた教育を知らずのうちに自分の子供にしてしまうという習性があります。幼少期に虐待を受けた人のうち3割は、自分が親になったときにも子供に虐待をしてしまうし、虐待は受けていなくても親から十分に愛情を得られなかった人は虐待をしてしまう傾向にある。
そのようにして悲劇は幾世代にもわたって連鎖していくものであって、誰かが強い心と勇気をもってその連鎖を断ち切らない限り、負の連鎖は終わらない。その連鎖を断ち切る強さ、という意味でも敦くんは重要な役割を果たしているのだと思います。
そしてそれは文ちゃんにも当てはまるのかもしれない。幸田家の人が受け続けた教育、あるいは叩き込まれた古い価値観や慣習は誰かの手によって断ち切られるべきものであり、その勇気を持つ者が文ちゃんである、ということかもしれないなと感じます。
■エレベーター火災
洪水の試練と思って油断していたら、なんか燃えちゃってるよ…衝撃に次ぐ衝撃ですね。
このエレベーター、油圧式エレベーターという可能性も?
重水を満たしても問題ないように業務用の耐重量性のある油圧式エレベーターを導入している可能性はありそうな気が。
しかし油圧式エレベーターだとしても構造上、カゴと油圧式ポンプは直接つながっているわけではないので、エレベーターの上下動を制御する油圧ジャッキからのオイル漏れだけでは説明できないような…。
色々エレベーターの構造なんかも調べましたが、結局わからず。
重水はエレベーターの天井の四隅に設置されている給水口から一気に注入されている一方で、ヌルっとしている液体は天井の隙間から染み出しているように見えるので、供給源はそれぞれ違うような感じしますね。
重水に浮く時点で水よりも軽い液体であることが想定できるのですが、油は軽いので水に浮く。それ以外にも軽くてヌルっとしている液体で、容易に調達できるものってあるのかな?
相互さんから石松子という貴重なものを教えてもらいました。
水面で火災を起こすことで得られる利益とは。
①空気中の温度が上がることで水が多少蒸発する
②火災が感知されたときはエレベーターの扉が開く
このくらいしか思いつかないな。
しかしそもそも閉じ込めて水没死させるのが狙いでありそれが焼死に変わったところで特に支障はないので、エレベーターの扉は開かないか。
このまま燃え続けたら、エレベーター内の酸素が枯渇して燃焼はどこかで止まるはずなんだけど、そうすると太宰さんたちも呼吸ができないので何かしらの形で燃焼を止めるはずなんだよな…
海難事故などがきっかけで海面に流出したオイルが燃焼した場合、ある程度油が広範囲に広がってその厚さが薄くなってくると自然に鎮火するようなのだけど、エレベーターという密室ではそれも期待できない。
もう一つの可能性は、勢いよく重水が注水されていることが功を奏して、通常は混ざり合わないはずの水と油が攪拌されて次第に混ざっていくということかな。「エマルジョン化」というらしいのですが、そうすることで燃焼は止まるらしいのでそんなのも期待できるかも。
それでもエレベーターから外にどうやって出るんだろう?という疑問は解消されないままですが。
単純に天井まで火が広がることで天井が破損したり、注水用のホースが燃えたりして、注水が止まるとか脱出できるようになるとか、そういうのしか思いつきませぬ。
相互さんが、ソドムとゴモラでは?というお話をしてましたが、洪水の試練の次はそっちですか。罪人たちはいつの時代も大変ですね…。
太宰さんが本気で驚いているように見えますが「緊張と間合いだよ」なんて言いながらからから笑っている人のことは信用しちゃいけません。
ところで35先生が近頃、からからとかぱちっとかとても愛らしい字でオノマトペを入れてくるのがもうかわいくてたまりません。
■吸血種化と異能者の精神の関係性
今月の本誌で一番の胸アツポイントだったと言っても過言ではない芥川くん。皆さんもちらほら言及されてますが、君…やっぱり敦くんとの約束守ってるの?
ここで思い起こすのは本の制約を破った立原の事例であり、ブラムの異能も魂によって破ることができたりするのかも。
そうなってくると気になるのは、吸血種化が本人の魂や精神とどのような関係性を持っているものなのか、ということであり、かつてブラムが語った言葉が大事になってくる気がするので、そのあたり整理してみたいと思います。
以前も思ったけど、ブラちゃん…本当にいいキャラだな。この人の見ている世界は長年生きているだけあって非常に深くて、前にちらっと出てきた過去のフラッシュバック、その掘り下げも今後くるのだろうかとドキドキしている。
<吸血種化とは>
以前にブラムが語った言葉でものすごく大事だなと思っているのがこれです。
「異能」即ち 精神・形而上の概念
「肉体」即ち 物質・形而下の器
首元を噛んで吸血種化~!って騒がれてますが、見た目や物理的な変化などの形而下に表出しているものは「結果」の方であり、根本は異能力なので原因は形而上の作用の方にあると思います。遠隔操作が可能であったり、異能無効化が通用したりしますしね。なのでこの考察では、形而上の作用の方に焦点を当てたいと思います。
<形而上に位置するものとは>
形而上に分類されるものはいくつかあります。
魂、精神、異能力。
これ以外にも思考、文字などもこれにあたるかと。
文ストの中には魂や精神や情念という言葉がよく出てくるように思うのですが、これらの関係性を整理しておきたいと前々から思っていたので、これを機に整理してみます。当然読者の一見解にすぎませんので、この通りだという保証はありません。
![](https://assets.st-note.com/img/1677824499162-Xnkt3sr1Xf.png)
記憶がその人の人格を形成して精神を形作るので、記憶をもっとも上位概念に据え置きました。記憶を失った人間は別人格になりますし、これが全ての原点のような気がします。その記憶から、情念が生まれ、さらには精神や理性が生まれる、というようなかんじでしょうか。
記憶を書き換える力を持つ本が、異能のさらに上の何かと言われているのもこのためかなと。情念や精神のその更に上にある事象を変えてしまう、という意味でも上位に位置すると思います。
一方で、本の制約は魂によって破られます。
ここで疑問なのが、魂とは文スト世界において何なのか、ということなのですが、ここでは一旦「身体に刻み付けられているもの」と定義してみました。
魂を形作るのは記憶や情念だと思いますが、魂はその人自身に深く刻み込まれているが故に脳を超えたところに存在し、脳の産物である記憶や情念を結果的に上回る力を持っている。だからこそ記憶改竄も異能も破ることができる、ということかもしれません。
また、異能発生のメカニズムはまだ明かされていませんが、ここでは情念から生み出されていると仮置きしています。そして異能を制御するのは、精神であり理性である、ということですね。
<吸血種化により起こっていること>
一人一異能が原則でありながらも、吸血種化しているときには、異能者は一人の人間の中に二つの異能が存在していることになります。
もともと持っていた情念などから生まれる本人の異能力と、並行する形で存在する吸血種化の異能です。
そして吸血種化している間、異能者の精神は一時的に吸血種に奪われている状態になると思います。
![](https://assets.st-note.com/img/1677820087323-EjsWC2ns85.png)
本人の異能の主導権が本人の精神ではなく、吸血種化の源のブラムになるわけですが、それでも本人の異能が発動している以上、魂と呼ばれる部分は異能者の中に存在し続けたままということのように思います。
なので芥川が敦との約束を守っているように見えるその理由も、精神を奪われたとしても体に刻まれている魂が芥川の行動に影響を及ぼすことができるから、という風に捉えられるかなと思います。あくまでも一つの見方ですので、全然違う可能性ももちろんあります。
ではここで難問です。
中也の場合はどうなるのでしょうか?
<中也の吸血種化と精神の関係性>
中也の魂は、情念は精神は、どのようになっているのか。中也の出自が人間だったのか、それとも人造人間だったのかは読者の判断に任せられる形になっていると思います。
中也がもともと人間であり、荒覇吐を制御する部分だけに文字式が組み込まれているのだとしたら特に個別に検討する必要性はないのかもしれませんが、もし人格そのものが文字式でできているのなら、中也の魂がどうなっているのか気になります。
ここから先は完全に個人的な予想ですが、人格式と言えどそれは人間の個性を決めるほどのものではないように思っています。
人格式は、記憶を書き留めて置くよう指示したり、その記憶から情念のようなものを作り出したりする基幹の部分であって、中也の人間性は中也が生きた人生のログから生み出されているのではないでしょうか。
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中也の記憶が本によって書き換わったのかは定かではないですし(一応どちらともとれる描写)、吸血種化の異能が中也の文字式の制御からどのように主導権を奪っているのかはもう少し検証してみる余地はありますが、ここで確認しておきたいことは、例え中也が人格式でできていたとしても、それでもやはり身体に刻み込まれた魂があるのではないかということです。その魂とは、マフィアを家族と想い大切にすることであり、それを傷つけたやつは絶対に許さねえという執念。
そうなると、マフィア全体を悲惨な目に合わせた吸血種化の異能とドストエフスキーを許さねえという怒りの感情は吸血種化していても魂のレベルでは蓄えられているのかも。
中也の魂は、仲間の喪失によって計り知れない力を得ますが、それと同じくして、太宰に対する怒りの感情もかなり顕著だと思います。
中也の魂が中也自身の眷属化を解くカギになっていた場合、太宰から言われたあの嫌がらせの言葉が、中也の中での怒りの発火剤として魂の爆発を起こし、それがきっかけで異能を解いたというのも考えられなくもない?
だいぶ妄想が捗ってしまいましたが、芥川くんが異能の制約を破ったのなら、中也にもその可能性があるような気がしてしまうのです。
まだまだ色々な方面で検証の余地がたっぷりあるので、引き続き考えてみたいと思います。
あとはあれですね、なぜ管制塔なのか、なぜ滑走路なのか、というあたりも気になりますのでそれもまた気が向いたら追記します。
それと五衰事件は天使事件と反復構造になっているので、誰かさんが自作自演で被害者を演じていて、その被害者は実は加害者であるという可能性や、福沢のことを「観客」呼ばわりした福地のあの言葉の意味など、アニメの方から得られた気づきももろもろありますので、そっちはそっちでまた書けたらいいなと思ってます。
いつも時間が足りなくてあまり整合性など検証できてないので、考察に欠陥などあるかも。気付いた方、優しく教えてください~~。
[23.03.05] ストブリを再確認して中也の考察の部分を一部修正しました。
[23.04.02追記]
いけないいけない。今月は追い込まれ気味だったので全然追記できず。
とりあえず頭の中に残っていることだけ、今のうちに書き出しておきます。
・水が発火する瞬間だけ描写せずに伏せてくるの、だんだん笑えてくるので、太宰さんが自分で火を着けたに一票を捧げたいと思います。警備員の懐からライターを盗んでおいた、もしくは調理室で石灰系の乾燥剤を盗んできたとか。太宰さんはやることなすことがわざとらしくて好きです。
・滑走路の理由についてしばらくぼんやり考えてましたが、私のポンコツ頭では想像できることがあまりない…
花袋さんが航空機を遠隔で操縦して空港に激突させて、そのどさくさに紛れてモンゴメリちゃんが大指令をひょいっと確保し、傍らでは敦くんが回転ドアに入って時間が遡行し始める、というパロディ展開を妄想するのが私の限界でした。
・上と同じく管制塔もあまり思いつかなかったのだけど、鴻海…じゃなくてえーと鴻鵠(こうこく)ね。特務課の航空機。特務課が来て、安吾さんがブラムをキャッチしてほしいものです。ついでに少女も保護してほしいものです。芥川くんはもうそこでじっとしていたらいいのではないでしょうか。
この航空機に種田長官が乗ってたら…どうなっちゃうのかしら。種田長官のお目覚めはまだ?
今月は本誌感想以外の記事で本誌に関連した考察書いてますので、こちらも宜しければどうぞ。