【本誌116話】小さき者へ 感想&考察
※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※ヤングエース2024年8月号のネタバレを含みます。
24.07.02感想
ドスくんへの憎悪が煮えたぎる回になるかと思いきや…うっきうきの展開になってきた文豪ストレイドッグス!!
るんるんポイントその①『フィッツがいた』
るんるんポイントその②『ブラムがいた』
もう無理かもしれない…という絶望的な状況の中から芽生える小さな清き戦士たちの光。スターウォーズでいえばバトルの佳境にジェダイや反乱軍が応援にかけつけてくるときの歓喜の瞬間にも似たような麗しい希望が116話にはある。この気持ちの高ぶりをいつまでも噛み締めていたい!
■悪の所在
福地に関してはもはや哀れとしかいいようがないが、そもそも福地をテロに駆り立てた一番の要因は戦争、それと戦地での仲間の喪失という経験であった。ドスくんはそれをいいように「利用した」にすぎないので、憎悪を向けるべき対象はドスくんひとりではないように感じる。
諸悪の根源は争いをやめられない人間の習性そのものであって、二福の道が分かたれたのも戦争のせい、二福を鬼にしたのもやはり戦争である。時空剣という呪物のようなものに手を出さざるを得ないほど福地を追い込んだのだって、もとはといえば平然と戦争を生み出す為政者たちのせいだったはず。
福地の中にある「許さぬ」という感情をドスくんが具体的なテロの形に落とし込んだだけであって、悪の根本的な所在はドスくんの中にはないともいえるだろうか。
36年後の大戦という偽りは「テロに口実を与える」ためのもので、その嘘はたしかに燃料となって福地の感情と大義を増幅させていった。しかしドスくんの仕掛けた浅ましい欺瞞はあくまでも人形を操るための糸にすぎず、本体の人形がもともと存在していたからこそ絡ませることができた糸だったともいえるのではないかなと思います。
そうは言っても、社長は友を愚弄したドスくんのことが許せない。それは正義という観点での問題ではなく、友人としての私的な、感情的な問題であり、大切な人への想いが起爆剤となって闘志を燃やす社長の姿には鮮烈な印象を与えられる。いつも冷静沈着で他者と距離を保つようなそぶりがあった社長だけに、熱き情熱と強い感情によって掻き立てられていくのを見るのはじわりと嬉しい気持ちになる。
■バトルフィールド
社長の「許さぬ」は、敦が船上で「絶対に許せない」と福地に闘志を向けた瞬間と似ていて、目の前にいる敵に対する「許せない」という感情によって戦いに挑もうとするのがいわゆる探偵社魂ってやつなのかもしれない。
さらには船上で乱歩に「逃げろ」と言われたのと同じように、今回も社長に逃げよと言われる始末。探偵社、戦いを捨てて逃げがち。
とは言いつつ、頭で逃げるべきだとわかっていても、血は敵に立ち向かってしまうところがこれまた文ストっぽいところでもある。
ドスくんの離陸を阻止することが社長命令なので、国木田谷崎をバックアップしつつ敦くんは足止めのための戦いをしにいくことになるのでしょうか。
無尽蔵のエネルギーを持っているであろう神人は「少しばかり磊落に」というエレガントな所作で空港を木っ端みじんにしたので、少しばかり息を吸うかのように探偵社の面々を瞬殺することになりそうなのだが、果たして足止めなんてことができるのですかね?
しかし希望の光もちらほら見えてきた。
フィッツが登場するとは想像だにしなかったので大歓喜だったよね。「プロトコル」という言葉がこれほどキラキラと輝きに満ちて見えるとは。
予め定められた手順がある。オルコットちゃんが分析して見据えた対応策がある。それだけでもうなんとかなるような気がしてくるものです。
他にもまだ仲間は沢山いて、乱歩、与謝野、鏡花、マフィア、安吾などなど、みんな何か大きな作戦のもとで動いているのかも。三刻の組織の巧妙な連携に成功したとき、誰にも成し得なかった「ねずみとり」についに成功する、そんな瞬間も案外遠くはないのかもしれない。そのとき、今度こそドスくんはいよいよ本当に、神のもとに召されて…はあああ、まだ想像したくな~い。
ところでこの展開になってくると、太宰は実はドスくんを空港で絡めとるためにわざと騙されたフリをしていたという説も浮上してくるよね。狩場に誘い込まれたのは鼠のほうだった、的な。
■セカンドブラム
どゆことなの???なんかわかんないけどとりあえず狂喜乱舞!
ブラちゃんがもうひとりいた?ちょっと服違ってて着せ替え人形みたいに色んな服に着替えさせられてるのおもしろい。そして何着てもかっこいいのほんとなに。
どういう原理でブラちゃんが帰還したのかさっぱりわからないけど、この出来事はドスくんの乗っ取りを横浜組が事前に予想していたことを暗に伝えているようにも感じる。予め手を打っていたからブラムは健在だったとか。
あるいは、ブラムの文を守ろうとする想いがなにかのミラクルを起こした結果なのか?!
ブラムがいるならば、ドスくんの計画である吸血種を操ってうんぬんの話の風向きは変わってきそうな気も。
福地は立原と相対したときに各国軍の半数を吸血種に変える計画を話していて、吸血種は主に各国の軍の中に紛れ込んでいるはず。
しかし吸血種の初期発生源がマフィアである、という点には少しばかり希望を感じるようにも思うよね。なにかを仕込んでおくことができそうでもあるし、反撃の種が最初から蒔かれていたのだとしたら、すこぶるかっこいいマフィアだと思います。
■おまけ情報
アニメ5期のアニメイト特典かなにかでドスくんのイラストにこういうマークが描かれてたの皆さん覚えていますか?
カドゥケウスという名のこの杖、ヘルメスが持っていた杖と言われているのですが、この杖は錬金術を象徴する杖でもあるらしい。
ヘルメス・トリスメギストスという錬金術の始祖となった人物とともに描かれていることも多い。このヘルメスという人物は、3度転生した存在だと信じられてきたそう。さらに「トリスメギストス」という言葉には「3倍偉大な」という意味があるらしくヘルメス・トリスメギストスは3倍偉大なヘルメスと訳されるそうな。
「3倍偉大な錬金術師」、そう考えるとドスくんにぴったりだわ~っとここにきて実感する。
黒丸が三つ並んだ神人の紋様は、キリスト教的な三位一体の意、水に関連した神社の三つ巴紋様の意、三つの異能で構成された特異点の意、3倍偉大な錬金術師が錬成したという意、とものすごい幅広い解釈を許容する奥深さがあって、たかが丸3つ、されど丸3つ、と畏敬の念を覚えてしまうのでした。
ところで神人の巨大な刀攻撃、ビジュアルがお見事すぎる!弾け飛ぶビルヂング!!こういう破片とかめちゃテンションあがるよね。かっこいいかっこいい。アシスタントさんたち本当に美麗な背景を描いてくださってありがとうございますの気持ち。
そしてさ、やっぱさ、アニメで観るのが楽しみよね。
24.07.10追記
とてもわかりやすく今の本誌の展開を相互さんが整理してくれておりまして、これみてたら沸々と気になる点が湧き上がってきたー!
ということで、簡単な内容にはなりますが、ポイントとなりそうなところ整理していきます。
<谷崎・国木田チームの可能性>
福地(神人)に真っ先にターゲットにされがちなふたり。このふたり戦闘向きじゃないんだってば!前回は靴脱げつつすぐ捕まって棺に拘束されていたので、今回は挽回できるといいね。
時空剣が「時空を超える」という本来の機能をもし失っているのであれば、過去の敗北を斬られることがなくなり谷崎の幻像異能が効果を発揮しやすくなっているだろうか。幻像を使ってちょこまかと逃げつつ、時間稼ぎして足止めする作戦が思い浮かぶ。ドスくんから大指令を奪えれば多少前進できそうだが果たして。
<敦・芥川チームの可能性>
アニメ61話を踏襲する流れなら、最終的にこのふたりが神人とガチンコ勝負することになりそう。
本来、特異点生命体というのは魔獣ギーヴルのようにエネルギーを相殺する形でしか消滅させられないが、敦くんとやつがれが共闘したときに出現する「異能を切り裂く刃」によって特異点生命体が削れるのであれば、攻略できる可能性も無きにしも非ずかも。
しかしドスくんは、イワン戦などを経て二人に異能を切り裂く力があることを知っているはずなので、さすがに丸腰で挑んでくるわけもなく、そういったことも想定の範囲内として策略に組み込んでいそうではある。
<ギルドの可能性>
ギルドはフィッツが登場したことにより、オルコットの策定したプロトコルのもと今回の戦いの制圧に向けてバックグラウンドで動いていたことが判明した。
ギルドの武器は、資金力と"神の目"であるが、ミッチェルが与謝野の治療により復活していることも念頭に置いておきたい。
さらにはホーソーンがアンの部屋で捉えられているが、舞台共喰いのイワンのように、与謝野の治療で脳の改変が修復されるのであれば、ホーソーンが正気を取り戻す可能性も。そこからミッチェルと再会し、新たな戦力としてメンバーに加わっていくだろうか。ホーソーンの団長への怒りが、ミッチェルの治療と引き換えに収まっててくれてたらいいのだが。
特務課はメルヴィルを匿っているので、メルヴィルには元団長としての人脈を発揮してもらいたいところ。今はギルドの内乱どころじゃないので、葡萄くんにはしばらく安静にしていてほしいものです。大使館に潜伏しているスパイさんはいつになったら素性を現わしてくれるのかしら。
<マフィアの可能性>
マフィアは吸血種の初期発生源として面子が潰れているため、今後の苛烈な報復に期待したい。ほとんどのメンバーが登場しないまま久しいのであまり予想できることはないかな?森さんの天才的な戦略でなんとかなるでしょという安心感はある。マフィアはストブリを経て、欧州警察なんかと割と繋がりができている組織なのではないかなと思うので(太宰たちが来賓を接待してたし)、そっちのコネクションで状況を打破してくれたらいいなと思ったりしてる。
<特務課の可能性>
安吾さんはともかく種田長官!なにしてるんや!起きてくれ!!
総理に嘘ついたり安吾さん大変な思いしているけど、日本国民の危機なのでこれから一番頑張ってほしい特務課。あと軍警も。
猟犬って「特殊制圧作戦群・甲分隊」だから、ほんとは乙分隊もいるんじゃない?って前に誰か言ってたのみたけど、いるなら出番はいまだぞー!
ここいらで新キャラ、期待してしまうね。なんというかほら、あのデウスエクスマキナ的なやつ。欧州勢もほしいし〜日本国内の文豪もまだ候補者結構いるし〜。出てきたら出てきたで考察忙しくなるのでギルドみたいにあんま一気に出されるとギャッてなるけど、そろそろちょっとずつ(できればひとりひとりゆっくり)登場してくれてもいいような?まだそういうタイミングじゃない??
カフカ先生がXで書くぞって言ってた新キャラは誰なんだろ〜?黒岩涙香さんが登場する予定という情報だけはキャッチしてる。
24.07.24追記
たっちーなんだけれどもね。
神人に刺し込まれた聖十字剣が体内奥深くに格納されてしまって外側から抜けないっていうのが結構大きな問題になってると思うんですよ。
だけどたっちーなんだけれどもね。
聖剣抜けるはずなのよ、たっちーなら。
大活躍しちゃえるチャンスなのよ。
吸血種化をマフィアの魂で克服して、世界を救っておくれ弟よ!
さてさて、もうすぐ次の本誌来るのでその前に自分の胸のうちを整理しておこう。
今月のブラムも男前すぎかっこよすぎなのは周知のとおりだと思うんだけど、今回のブラちゃんの登場するタイミングがヒーローすぎるんですよね。
ブラムはかつて文ちゃんが苦しまないように「其方は悪くない。重量の不足、ただそれだけである」と言って励ましたことがあった。聖剣が抜けないのは「たまたま」で、文ちゃんの実力不足のせいでも気力不足のせいでもない、と。優しさからそういう言葉を文ちゃんに投げかけたことがあった。
だけどその言葉を受け取った文ちゃんは、いまその考え方の反対の側面でつまづいて絶望してしまっている。
負けるのがたまたまなら、勝つのだってたまたまで、運よく勝てた人だけが歴史に名を残していく。どれだけ英雄に憧れようが、ありったけの想いの力や勇気があろうが、「偶然」による支配の力を前にして、すべては無力なものに帰してしまうのだと絶望している。
たった10センチ瓦礫が落ちる場所が変わっていたら結果も違っていたはずなのに。10センチという無意味な差分によって人も世界も運命が決まってしまう。
だけどそんな絶望の影が忍び寄っているこの瞬間に。ブラムは!ブラムは!想いの力とは偶然を超越するほどに強いもので、護ると言ったことは必ず守られるのだといって、偶然の壁を引き裂いて救いの手を差し伸べてくれている。
何百年という時間の重みが加味され、身体にすら残響を残すほどの強さが加味され、その説得力を前にして、己の抱えていた空虚な絶望がいかに下らないものであったかをつくづく思い知らされるような、心強い英雄の登場シーンだったなと感じています。
戦いの勝ち負けも、命の明滅も、偶然や不条理が支配するルールからは決して逃れることはできないけれど、それでもその暗さを突き破るように、大切な人を思う気持ちが希望の光となって届けられる、届けることをあきらめない、文ストのそういうところに今回も、そして何度でも救われるのでした。
私的には文ちゃんを救いに来たのはブラム本人であると信じたくてそれ以外の可能性を考えたくないのだけど、見渡してみれば「これは芥川だ」とか「燁子が福地の幻影を見たときと画面の構図が同じだからこれも幻影だ」とか、そういう鋭い意見がちらほらと目に入り、その度にすべての臓器から血が滴るような辛さに打ちのめされて気づけば3週間が経ちました。真相まで残り約1週間。たのむよおおおおと神にすがる気持ちで今日も元気に呻いております。どうか神様!これが本物のブラムでありますように…!!