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【本誌104話】二福 前編 感想&考察

※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
ヤングエース2022年12月号のネタバレを含みます。

今回は福沢さんの抱える孤独がとにかく際立っていた。
本誌によって自室が寂しい気配に目一杯包み込まれてしまい、あまりにもその寂しさの霧が濃すぎるので、呼吸するたびに肺を侵食されています。
これは前編なので来月は後編ですね。

今回はとくに目元の表現が印象に残りました。
目線で語る福沢さん。
それを読む福地さん。
最後に福沢さんが目を背けたのが決定的で、とにかく肺にくる。
桜が舞う背景が美しすぎて儚さを引き立てるので、余計に肺にくる。

それにしても福沢さんの哀しげで寂しげな表情の多いこと。
孤剣士や一匹狼という一言では到底片づけられないほどに、孤独は彼の心にしぶとく絡みつき、あらゆる感情から彼を阻害している。
福沢さんはなぜこれほどまでに強く揺るがない気持ちで孤独を選び取るのか。
福沢さんから感じ取った強烈な孤独の感覚が、ずっと頭から離れない。

そして過去回想を見たことにより、福地への同情心がいよいよ芽生え始める。
福地は、自分が自分であり続けるため、そして自分の仲間のために、福沢にそばにいてもらうことを必要としていた。
だけど福沢はあっさり見捨てた。
友人が今の友人のままあり続けることを望みもせず、友人の仲間の命を無関係なものとして見放した福沢。これが福沢の第一の裏切りだったんじゃないかなと思う。
本人には「裏切り」の意図はなく、もしかしたらそれは「逃げ」だったのかもしれないし、「防衛」だったのかもしれないけれど。

ここからは単なる妄想だけど、大戦の終焉とともに福沢は福地に対して第二の裏切りをしたんじゃないかな。
戦場にいる福地は、自分がこれまで捧げてきたものや犠牲になった仲間の命を無駄にしないためにも、必ずや成果を得たい、勝利に導きたいと思っていたのかもしれない。
そのためにも結果が出るまであきらめずに戦争を続けたいはず。
しかし福沢は、裏で継戦論者を暗殺し、強制的な和平協定を結ぶための助力をしてしまう。
そういう風にして戦争が終結すると、現場で多くの犠牲を叩いて積み重ねてきたものはすべて意味のないものとして無に帰してしまうような気がする。
だからこそ虫けらのごとき死と化してしまうのかも。
もう少し頑張ったら勝利にたどり着いて、そうすれば亡くなった仲間の命も浮かばれたはずなのに。意味のある犠牲の積み重ねにできたかもしれないのに。
負けだとしてもせめて実力ではっきり決着が付いていればもう少し報われるのに。
そう考えると、福地の悔しさはとてつもなかったんじゃないかな。
それがかつての朋友の手によってなされたものなら、ことさら悔しいし、許せない。
ここでまたしても、福沢は福地の想いを踏みにじってしまう、そんな妄想をしている。

この二つの裏切りに対する復讐の念。
仲間を失う気持ち。
残酷さのあまり正気を失い心が麻痺する気持ち。
信頼していた朋友に裏切られる気持ち。
それらがどれほど人の心を蝕むのか、お前も体験してみろ、ということなのかもしれない。
だから探偵社員を人質にとったり、テロリストに仕立て上げて福沢を裏切ったりすることで報復をしている、とか。
103.5話で見せた福地の真っ黒な顔を思い出すと、それだけ福地が数々の悲惨な現実をその身に受け止めすぎて、精神が常軌を逸してしまったんだということが感じられる気がする。
あまりにも苦しめられ続けたから、決着をつけずにはいられなかったんだろうな。

そして福沢はそのことになんとなく気づいているような気がしないでもないので、福地の想いに対して福沢がどう答えるのか。
自分が頑なに選んできた孤独という選択肢とどう向き合うのか。
探偵社設立秘話でほのめかされた、福沢の過去に潜む「岩」。
福地の誘いを断った時にはすでにその岩が福沢の心を固く塞いでいることを考えると、きっかけはもっと前に、別の人物との間に生じた悲劇にあるのかもしれない。
その岩を福沢の心に持ち込んだ出来事はなんだったのか。
福沢の孤独の正体へと続く扉が少しずつ開かれているような気がする。

12月28日に23巻発売だ!ひゃっほう


[2022.11.08追記]
本誌当日の感想に書き切れなかったことがいくつかあるので追記。

戦場にあるのは命を奪う所業、という福沢の言葉。戦争は何も生み出さないからいち早く終わりにすべきだ、という考え方が後の継戦論者暗殺に繋がりそう。福沢は戦争を自分ごととして捉えていない、あまりちゃんと目を向けていない、という感じもする。

一方の福地は、仲間や部下が一番の動機。見捨てられない、助けてやらねばならない、という人情厚めの正義漢。国家や戦争そのものがどうこうよりも仲間が大切そう。敵討ちも国家消滅の夢も、仲間の無念を晴らすためにやってるのかも。
戦場では仲間を助けられず、仲間の命を何かの成果に繋げてやることもできず、それが自分の中で許せなくて、仲間の犠牲を意味あるものにするために一人で最後まで世界相手に戦っている、そんな感じがする。

政治で戦争が始まって、どうせ最後に政治で戦争が終わるなら、なぜ人は戦場で命を賭して戦わなきゃいけないのか。その戦場で犠牲になった命は何のための犠牲だったのか。そんなことなら最初から戦争を始める必要なんてなかっただろうが、という叫び声が聞こえてくるような気がする。だから為政者を恨み、戦争が生まれないように国家さえも消滅させたい、それをしてようやく失った仲間の命は意味ある死として報われる、というような思いが感じられるような。

こんな風にして考えると、福地への動機の持たせ方がうまいなぁ〜としみじみ。
そして回想を何度も読み返しているけど、やっぱり味わい深くて綺麗だしとても良い。表情の描写や間の置き方がほんとに良い。

以下、年表のための備忘。
・福沢と福地は同い年
・道が別たれたときの回想に常闇島が登場してるので大戦末期近くか?だとすると2人は30〜31歳くらい?そこから13年遡って、道場で出会ったのが17〜18歳くらい?取った本数がまさかの年齢へのヒントか?福地が教育総監になってるくらいなのでそれなりに年を重ねキャリアを積んでる模様。
・福沢は福地と道場で出会ったときから既に「他人の思想に同調しない姿勢」が身に付いていたような感じがするので、設立秘話で顔を覗かせた福沢の悲劇は18歳よりも前の出来事か。


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