ドスくんから見た太宰について(お題箱から)
※この記事は文豪ストレイドッグスの考察です。
※お題箱に頂いたお題への返信です。
※本誌119話までのネタバレ(単行本26巻分)があります。
頂いたお題はこちら:
始めまして。ものあしさんの考察、何時も奥が深く幅広い考えを楽しみながら読ませて頂いております。
今回お題箱が復帰したとのことで、恐縮ながら以前から送ってみたいと思っていたので、送ってみました…
本題ですが、ドストエフスキーからみた太宰の異能力についてです。
自分と同じレベルの頭脳を持っているということで、他のキャラより少し特別な対応をしてるように見受けられます。
太宰に対してその他の、太宰の異能無効化に対してはどのように思っているのだろうかと思いました。
ドストエフスキーの目的は「本を手に入れて異能者の居ない世界を創る亅と言っていました。
太宰の異能無効化は、「己の異能で他の異能力を無効化する亅
ドストエフスキーにとって目的にとても合っている異能、でもその異能無効化自体もまた自分が消したい異能力によるもの。
そのことからも太宰の異能力一目置いているのかなと思いました。
ものあしさんはどう思われるか意見が聞きたいです。
お目汚し失礼しました。
おもしろい着眼点のお題を頂き、ありがとうございます!
返信をとても長い間お待たせしてしまってすみませんでした。
本誌で次々に衝撃の事実が明かされ、その事実たちがこのお題に与える影響もすさまじく、なかなか完成させられずにおりました。
このお題を頂いたのは2024年4月ですが、その後5月頃からドスくんの異能が判明したり、栞だけを特別視したり、太宰のことを「片割れは務まりません」と言ったり、とにかく大忙しでした。
このお題をもらった2024年4月の時点では、ドスくんにとっての太宰さん像ってまだぼんやりしていましたけど、色々と明らかになってきた今「ドスくんは太宰さんのことを微塵も特別視していない」という評価が一番近いのかな?と個人的には感じています。
ということでいくつかの項目にわけて、ドスくんから見た太宰さんについて考えていこうと思います!
■無効化はドスくんの天敵
「死ぬは生きるの反対じゃなく、生きるに組み込まれた機能のひとつに過ぎない」っていう太宰の名台詞を、こんな形で肉体的に実装しているやつがおるとは思わんやろ…ってな感じで、ドスくんにとって「死とは生の一部」でしたね。
しかし決してすべての死に価値があるわけではなく、計画的な死だけが価値ある死で、事故や不本意の死といった「不条理な死」は絶対に否定しなければならないもののようです。「死」というイベントは慎重に計画されるべきものである、と。不条理さがドスくんの異能の天敵でもありました。
だからムルソーの脱獄決闘では、毒や洪水などによって死んでしまうわけにはいかなかった。
そしてもうひとつの天敵が、太宰の異能無効化ですよね。どんな人間に殺されようとも、殺した人間を餌食にして生を継続できるドスくんですが、異能を無効化してしまう太宰だけは餌食にできず、命が潰えてしまうと考えられます。
それ故に太宰に対しては策略上優位であり続けなければいけない。チェスの相手としては申し分ない、スリリングな相手でもありました。そしてドスくんは太宰の言ったように脱獄決闘には「必死」だった。
天敵でもある太宰のことを好敵手だと認めているのは間違いなさそうです。しかしドスくんはひとりで横浜に瞬間移動したことで太宰より一段上手であったことを確信します。もし本当に片割れなら、今この瞬間に太宰くんもぼくと同じ歩調で横浜に瞬時に移動できるはずであり、それができなかったということは片割れなどではないのだ、と。期待外れ、優越感、まあ当然こうなるわけですが…というような見下しが、現時点でドスくんが太宰に対して抱いている感情かな?というような感じがします。
■ドスくんにとっての他者とは
そもそもドスくんにとって他者とは、例え相手が誰であろうと大した価値を持っていないように思います。ドスくんは片割れなどそもそも必要としてない、自分一人で完全体だと思い込んでいるのではないかなと。
中也を相棒と呼びながら使い捨て、太宰に対する失望を装い、敦も解釈違いで怒った末に暴行している。自分を満足させてくれる相手などこの世のどこにもいない、ぼくはこの世界でたったひとりで、たったひとりの特別なのだと、そういう自惚れともいえるようなものを抱えているようにも感じます。
ドストエフスキーは自分以外のものを一切信用しない、と太宰は言っていました。だから彼が使役する駒は、必ずマインドコントロールをかけられたり、異能や外科手術によって意識を変容させられている。おそらく太宰のことも信用などはしていないと思うし、太宰を駒として使うつもりがあるならば、必ず太宰の頭をいじったり操心術をかけるなどしてから利用するはずです。だけど太宰相手にそれが叶う見込みもなさそうで、できることと言えば騙し合いをして出し抜くことくらいでしょうか。DAではそれがめちゃくちゃ顕著に描かれていて面白かったですよね。
ドスくんは「太宰の結晶体は特別なもの…」といって澁澤を騙していましたが、蓋を開けてみたら特別なのは太宰の結晶体ではなくて敦の結晶体でした。
太宰は太宰で騙されたフリをして実は…というのがDAのパターンなので、このふたりはいつまでもそうやって騙し合い化かし合いをしてるのが楽しいペアですよね。
■異能力者を消すために太宰は必要?
DAの出来事を振り返ると、太宰の結晶体はみんなと同じ赤い普通の結晶体でした。そのことがわざわざ誇張されて描かれていた。なので太宰の異能がドスくんの理想に叶うもの、特別なものである可能性はそんなに高くないかな…?という気はしています。あくまでも個人の感覚的な話なので信憑性はありませんが。
DAでは太宰の結晶体を使って特異点を作っていたので、使えるところでは使っていくつもりではいそうですが、ドスくんが特別視する究極の反異能はやっぱり虎の「異能を切り裂く」「異能を拒絶する」力なのだろうと予想しています。「切り裂く」「拒絶する」「抗う」という敦の異能にまつわるキーワードたちが、「無効化」という太宰のキーワードと決定的に違う部分があるとすればそれはどういう部分なのか?というところにヒントがありそうだなと感じています。
■栞だけが特別
ただの破壊欲、支配欲、独占欲などの低俗な欲求だけで文ストの悪役が動くことは基本的になさそうです。福地がそうであったように、善とも取れるような二面性を持った目的によって文ストの悪役たちは事件を起こしている。それはドスくんもおそらく同じなのではないでしょうか。
虎は高貴だが、その他の異能は罪深い。虎の結晶体だけは青白いが、その他の異能の結晶体はすべて赤。このことから、敦の虎だけが罪なき清いもの、天界に属する天使のようなものだということが読み取れます。それ以外の異能は、たとえどんな異能であろうとも罪深いものであり、ドスくんにとっては消し去りたいものなのかもしれない。太宰の異能も罪深い方に属するもののはずです。
罪深さの源泉は、異能者たちが元天使であり、罪を犯して地に堕とされて人間として生きている者たちだからだ、というのが設立秘話の演劇から読み取れる情報でした。
だとすればドスくんにとって異能者を消すということは、地上を浄化したいということでもあるかもしれません。あるいは、異能者たちをあるべき場所に戻す、とか。
このあたりはこれから描かれるのを楽しみにしていきたい部分ですね!
ものすごくタイムリーでホットトピックなお題でした。お題主様、ありがとうございました!!