荒正義さんのこと(麻雀)
ずいぶんと昔の話です。
20代前半だったかな、
私が101競技連盟と最高位戦に選手登録をしていた頃。
30年は、まだ経っていないけれど。
仕事と麻雀の勉強を兼ねてと思い、団体の枠など越えて
採譜をさせてもらうお願いを方々にしていて、
その甲斐もあって、プロ麻雀連盟のタイトル戦に、
あっせんしてもらえたことがありました。
採譜というのは、選手の配牌、ツモ牌、捨て牌などを、
記録する仕事です。
これをまとめて全体の牌譜にするわけですね。
砂かぶりで観戦できながら、仕事にもなる、という当時の私には
とても大切な場でありました。
最近では映像配信で手牌の移り変わりを見ることができるので、
あまり目にすることもなくなってきてしまったかもしれません。
そうそうたるメンツが揃う中、
緊迫したつばぜり合いが続いている局面でした。
当時のプロ連盟といったら、野武士の集まりとでもいうのでしょうか
とても個性的な先輩が多く、率直に言うと、
いや、言う必要はないか。
話を戻せば、タイトル獲得を目前とした決勝卓、
その中の一人に荒さんがいました。
当時から実績、人気共に定評があり、
時を経て、レジェンドの称号がふさわしく輝く方ですよね。
「リーチ」
その荒さんがリーチをかけました。
手役は、リーチのみ。
理牌、牌はほどよく並んでいたのですが
カチャカチャと動かして牌を伏せ、アガリを待ちます。
しん、と煮詰まった摸打が続きますが、
流局まぎわに、1牌をいとおしく引き寄せました。
「ツモ、ゴットォ(500-1000)」
ツモアガリの牌は八萬で、単独しているカンチャン待ち。
荒さんが開けた手牌の左端に七萬、右端には九萬が
置きなおしてありました。
<リーチ・ツモ>だけのアガリなので、
その間には、3つのメンツと雀頭が並んでいます。
へんな並べ方だな、
そう思ったときに、荒さんは七萬と九萬にはさまれた部分を指して、
「ほうら、こんなに広い待ち」
と、のたもうたのでした。
じつに、淡々と。
そのときは、いろんな意味でスゴイ人だな、
と思っただけでしたが、
20数年前、まだインターネットはもちろんのこと、
ギャラリーも少なかった時代。
ただひたすらに勝ち星を積み重ねることを求める世界で。
密室競技である麻雀での出来事で。
過剰なまでに緊迫した空気の中、
荒さんなりに自分の戦いやすいペースを作るための
小さな工夫だったのではないかな、
いまとなっては、そう思えるのです。
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