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タツミさんのこと (麻雀話)

「じゃあ、タツミさんって知ってる?」
去年の夏、私は北陸の小さな漁師町を訪れていた。
その土地ならではの珍しいルールのサンマがあると聞いて、
取材の旅行だった。
いわずもがなではあるが、サンマといえば三人で打つ麻雀のこと。
魚の方のサンマ、この界隈では冬にとれるそうな。

人づてにアテを辿って行きついたのが、その店だった。
小料理屋、というか一杯飲み屋というか、掃除の行き届いた
カウンターだけの小さな店。厨房とカウンターの間には
大皿にもられた料理が並んでいる。
「俺さ、タツミさんの店で働いてたんだよ」
父親が病気で倒れたとの知らせを受けて、この生まれ育った土地に
帰ってきたのだという。
「親父はそのまま死んじゃってね。それから俺も、ここにいるんだ」

タツミさん。
名字か下の名前かもわからない。ましてや本名であるかも?
だが、私より上の世代で東京で打ちなれていたのなら
その名を聞いたことがない者はいないのではなかろうか。
新宿のはずれにあったという『D』という雀荘のマスター。
当時は腕に覚えのある者たちがひしめきあっていたという。

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