20200915(Tue)

カッピングをやりはじめた。と、言っても本格的に資格のある人にやってもらうわけでもなく、通販で買ったシリコンのカップに肌を吸い付かせるだけだ。本当は注射針で血を抜いたりするらしいんだけど、生憎家に注射針なんて存在しなくて少し残念だと思った。身体から血が流れる瞬間はたまらない。自傷癖があるわけではないが、瘡蓋を剥がした時なんかに突然流れ出す血液を見ると安心する。採血もそう。きっと健康なら足繁く献血に通っただろうけれど、健康だったらこの感情はあったのか果たして疑問でもある。だからって、経血を見たり他人を刺してまで見たいわけじゃない。なんとなく底知れぬ赤色を見るのが好きなだけ。

じんわりと肩に吸着するそれを鏡越しに見ながら「効くのかな」と独りごちる。少しジンジンとする。皮膚が吸引されているのだから当たり前だ。手持ち無沙汰で足の甲にできた瘡蓋ををカリカリといじる。ぽろりと取れた瘡蓋から血がじんわりと滲み出す。「これを吸い上げたらどうなるんだろう」と、思う前に、私はもう一つのそれを手に持ちアルコール消毒をして吸引した。少し痛痒い。透明でないので中がどうなっているかわからない。ただ、沢山出てくればいいのにと思う気持ちだけを抑えて決められた使用時間を待つ。肩はそれなりに紫色の痕が付き、説明書を見る限り「よくない状態」と書かれていた。よくないと思ったから購入したので驚きもない。これをどうやって「よくしていくか」は書いてくれないのかと思った。

そうこうしているうちに足の吸引時間が近付いたので恐る恐るそれを取ってみた。吸引しているので血が弾けてしまわないか不安だったので、ゆっくりゆっくりと外してみる。カポッという音と共にそんなに鬱血しなかった足の甲の先に、どろりと溶けたような血が流れているのを見た。鼻血の塊のような、経血のような、レバーの塊に近いものだった。インターネットで調べた時もこんな血を見た。私自身健康には自信がない。全身ドロドロな自信は少しあると思う。「すごいなぁ」面白半分にレバーな物を触りながら飲み干したい衝動に駆られながら、ティッシュペーパーに包んで捨てた。カップに付いた血液を洗っている途中に夫が帰宅して、真っ赤なゴミ箱の中身を見てクラクラしていた。私は「あはは」と笑って「大丈夫?私は大丈夫だよ」と事の経緯を伝えた。カップを洗い終えた私は、肩の紫色を見せて「やってあげるね」と笑った。「血が沢山出るのかい?」と悲しい顔をした夫に「ならないよ」ともっと笑って安心させてあげる。

夫の背中は紫になった。当たり前だけど血は出なかった。私の背中ならズタズタでもいいのになと思って、綺麗な背中に付いた紫の痕を指でツンとつついた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?