掌編│指女
「なまずさんってすんごく帯電しやすい体質なんだって」
「へえ、それでも、まあ私ほどではないと思いますよ」
まただ。また彼女は話題を自分に置き換えようとする。いつもそう。私ってこうなの。私って特別だから。私としたことが。
ぼくは彼女に、一度くらいは指摘しておこうと思った。
「ゆびゆびさん、あのですね、今はあなたの話をしているのではないんです。ちゃんとぼくの話を聞いてほしいんだけどな」
ゆびゆびさんの顔色がさあっと桜色めく。怒らせたのかもしれない。でも、その笑顔はまだ保たれている。
ゆびゆびさんは何しろ演技がうまいのだ。
日中はまるで普通のマッサージ屋さんみたいだけれど、今勢いのあるラジオドラマ「恐怖の指女」に連続出演している役者でもある。
「帯電の話ですよね。静電気ですよね。分かってますよ。だからそれ、私そのことを言おうとしてるんですよ」
ここで「なあんだ、そうか」とでも言ってしまえばぼくたちはこれまで通り仲良く午後のお喋りに興じていられたのだろう。
「いえ、そんなはずはないと思う。ゆびゆびさんは今、明らかにすごいエゴを出しかけていました。そうとしか思えませんね。もしここになまずさんがいたら、彼もそう感じるはず」
喧嘩をふっかけるつもりはなく、ただ素直に思いを伝えたかった。お互いの信頼に関わる意見だ。
ここで言葉を濁したりしない。ここを適当に笑って許してしまったら、人として逆に無礼な振る舞いというものだ。
「エゴを出すつもりはありません。本当に。ここでの話題の本質は今、なまずさんでも私でもあなたでもなく、人体に関わる静電気、ええ、そうでしょう、分かってます。私が言いたくなったのは、私自身のことじゃなくて、私の帯電体質のことです。だから、私の話じゃないんです。ためしにちょっとここに座ってください。私の前に、私に背中を向けて」
「怒ってますね。刺すつもりでしょう」
「大丈夫大丈夫、まかせて」
ぼくは少し悩んだものの、そんなに言うならゆびゆびさんに背中を預けてみようと決心した。
人を疑うばかりではいけない。日常の恐怖とは、日々克服すべきものでもあるし。
「私の指先に意識を集中してください。いきますよ」
そう言うと、ゆびゆびさんはぼくの肩を揉み始めた。
「なかなかいい」
「でしょう。今、私の指先からかなり強力な電気が出てるのです。私はこの特殊体質を指圧に活かしています。私だけにしか出来ない、私流の電流マッサージって訳です」
正直に言うと電気のようなものは何も感じなかった。けれど、ゆびゆびさんは自らゆびゆびと名乗るだけあって、相当この方法に自信と誇りを持っているのだということは理解した。
「あっ、あっ、いてて、も少し弱く」
「駄目です。次も私を指名してくれると約束してくれなきゃね。私をね。この私の、特別な指圧をね」
何か騙されている気がしたけれど、言葉を飲んでゆびゆびさんと指切りげんまん。痛。
(1200字)
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小指ほどでも、怪しい指味がピリっと伝わりましたら幸いw👆☆
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