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家族まかせにしない社会に ~埼玉県精神障害者家族会連合会 歴代3代会長 座談会~

※この記事は「ケアラータイムズ 第6号」(2024年6月号)からの転載です。

3年前、本紙2号に埼玉県精神障害者家族会連合会会長(当時。現在は全国精神保健福祉会連合会理事長)の岡田久実子氏との対談記事を掲載しました。今回は、3年間の変化や最新の活動などについて、歴代3代会長(前々会長の飯塚壽美氏、前会長の岡田氏、現会長の一之瀬昌明氏)にお話を伺いました。

◆聞き手・吉良英敏
◆対談日・2023年8月24日


高校で精神疾患教育が必修化

吉良 2022年度より高校の保健体育で精神疾患に関する項目が必修化されましたね。

岡田 はい。コロナ禍を経て、人と人とのコミュニケーションがますます希薄化し、メンタルヘルスはまさに国民的課題です。精神疾患について適切に学び、他人ごとではなく自分にも関係のある身近な病気とし困ったらすぐSOSを出したりできる社会を目指さなくてはなりません。そのためには精神疾患教育が重要で、必修化には大きな意義があります。

吉良 ただ、今回は高校だけなんですよね。

岡田 そうなんです。精神疾患は、中学生で発症することも多いため、高校では遅いです。小学校中学年くらいから少しずつ情報を伝えてほしいと考えています。

飯塚 私の子どもも中学3年生ごろから症状が出てきたのですが、中学・高校の先生は「ちょっとおかしいですね」くらいで、何の対応もなかったです。教員はもちろん、医師や心理士など、いろいろな立場の方が必要な知識を得た上で支援をしてくれたら、早く立ち直れるかもしれません。

岡田 当事者も家族も、教員も医師も、本当に知識がない。私には統合失調症の娘(20代で発症、現在40代)がいますが、医師から冷たい言葉を掛けられ、本当につらかったです。

飯塚 知らないのが一番怖い。知識がないと、そのまま偏見や差別につながってしまいます。

吉良  早期発見、早期支援ができるような体制を整えていく意味でも、 教育や普及啓発が大事だと考えています。


入院者訪問相談支援スタート

岡田 精神疾患に関して、医療関係者による偏見がかなり強いと感じています。診察中に目の前で患者が混乱したり、暴れたりするので、大変な病気だと強く意識するのではないでしょうか。一方で、家族は大変な姿も、回復していく姿もそばで見ているので、本来のその人自身は失われてないことを知っています。

一之瀬 息子は高校生の時に発症し、20歳くらいで症状が悪化。当時は一緒に住んでいたのですが、ある日「家から出たい」と言って独り立ちし、新聞販売所に住み込んで、配達の仕事を始めました。その仕事は数か月しか続かなかったのですが、その後も一人で引っ越したり、警備の仕事に就いたりして、現在40代。病気と向き合いながら、自立できる人もいるんです。

飯塚 一人でちゃんと仕事を見つけて、すごいですね。精神疾患は治らないもの、重症化した場合は入院するものという先入観を持たれがちですが、実際は人それぞれですよね。

岡田 今の日本の精神科医療は、入院が中心の診療報酬体系になっているので、入院させると儲かる構造です。でも、一度入院してしまうと、実生活から切り離される期間が長いほど、人間は変化してしまいます。だから、入院は短期間で、早く地域に戻って、実生活を続けながら回復していく形が望ましい。できれば入院もしない方がいいです。

吉良 精神科病院での虐待がニュースになり、人権擁護の観点から、入院患者の元へ支援員が訪問する制度ができましたね。

岡田 はい。精神保健福祉法が改正になり、2024年度から、入院者訪問相談支援事業が、都道府県の任意事業で始まります。精神科病院の入院患者のところに外から訪問支援員が訪れ、患者の話し相手になって、困っていること、辛いことを聞いて、患者を支えていきます。今の精神科病院は閉鎖的な部分があるので、外から人が入って風通しの良い精神科医療にしてほしいというのが私たち家族の切なる願い。都道府県の任意事業なので、自治体の皆さんには、ぜひ真っ先に手を挙げて取り組んでほしいです。


一番求めるのは医療費助成

吉良 家族会として今一番求めていることは何ですか?

岡田 7年前から、重度心身障害者医療費助成制度の対象を、精神保健福祉手帳2級所持者まで拡大してもらえるよう、訴え続けています。

飯塚 身体障害は2級まで、知的障害は愛の手帳2度まで医療費の助成を受けられるのですが、精神障害はなぜか1級のみ。

一之瀬 山梨・愛知・岐阜・奈良県は、すでに2級への拡大を実現させています。

岡田 精神障害を持つ方の就労率が非常に低いことを踏まえると、2級が対象外というのは、やはり理屈に合っていないと思います。精神障害を持つ人たちは、元々は病人扱いをされてきたので、障害者として認知されるようになったのもつい最近のこと。だから福祉制度が身体、知的障害に比べて遅れているんです。身体、知的障害と同等の支援が受けられるよう、活動を続けます。


家族まかせにしない社会に

吉良 第15回全国精神保健福祉家族大会みんなねっと埼玉大会(2023年10月開催)のテーマは「家族まかせにしない社会に」なんですね。

一之瀬 統合失調症のお兄さんを持つ方にコンサートをお願いしたり、「ケアの脱家族化」についてご講演いただいたり、内容の濃いイベントとなりました。

吉良 日本には、家族にケアを丸投げしてきた歴史がありますが、流れを変えていかねばなりません。

編集部 ケアラー支援条例ができて変化はありましたか?当事者の方の実感を伺いたいです。

飯塚 条例ができて、少しずつケアラーへの理解や応援しようという気運が高まってきて、これから先への希望は感じています。

岡田 実感としてはまだまだですが、各自治体での条例化が進んでいて、法制化も近いと感じています。精神障害者の家族を含めた、ケアラーへの理解や支援が進み、どうしてもケアラーは家庭内で頑張りすぎてしまうので、社会全体でサポートしてもらえたらと思います。


・埼玉県精神障害者家族会連合会 https://saikaren.amebaownd.com/

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