いじめ防止法の転換点です!パブリックコメントは8月2日まで

私は法律のド素人ですが、家族のために必要に迫られ、『いじめ防止対策推進法』(以下「いじめ防止法」)を勉強してきました。
2011年、大津市の中学生がいじめ自殺をして、学校や教育委員会がいじめの事実を隠蔽し、家庭環境のせいにされて、遺族はさらに大きく傷つけられました。当時は新聞やテレビで大きく報道されました。いじめ防止法は、このことの反省から2013年にできた法律です。いじめに苦しむ子供たちを救うものと期待されていました。
いま、この法律の中身が大きく変わろうとしています。改悪の方向です。
その内容がほとんど知られていないので、少し発信しようとがんばってみます。

いじめ防止法は、運用のための具体的なやり方を定めた『いじめ重大事態の調査に関するガイドライン』(以下「ガイドライン」)とワンセットで考えられています。いま、このガイドラインが改訂されようとしており、その素案についての意見を、文部科学省が募集しています。誰でも意見を送ることができますが、8月2日が締め切りです。

どう変わろうとしているのか、すべてを説明したいのですが、ガイドラインの改訂素案は60ページ以上もあって、とても説明しきれません。なので、一番大事な点だけ、お伝えします。

まず、『いじめ重大事態』という言葉があります。いじめによって自殺やうつ病、長期の不登校などに至ったものを、いじめ防止法は『いじめ重大事態』と定義しています。
いじめ重大事態になると、弁護士や心理士などの第三者が入った調査組織がいじめの調査をすることになり、学校や教育委員会は好き勝手な判断をできなくなります。いじめ事実の認定や学校の対応のまずかった点などについて、とても客観的で公平な判断がされると期待できます。
そして、この法律の最大のポイントでもあるのですが、いじめの事実が確認される前の段階、つまりいじめ重大事態の「疑い」の時点で、いじめ重大事態であるものとみなして、第三者が入った組織が調査を開始するものとされています。
かつての問題点は、学校や教育委員会がいじめを隠蔽し、事実を認めなかったことにあるわけですから、その事実の確認のところから第三者にやってもらおう、事実が確認される前の段階で、「疑い」の段階で、重大事態として第三者に調査してもらおう、という趣旨で法律ができたのです。
「疑い」とは、具体的にどのような状況をいうのでしょうか。例えば、被害児童の保護者からいじめにより重大な被害を被ったという申し出があった時点で、「疑い」に該当するとされています。
このことは状況を大きく変えるものととても期待されていたのですが、現実にはうまくいきませんでした。なぜでしょうか。
被害側保護者からの申し出だけで重大事態を認定するのであれば、保護者は申し出など簡単にできるのですから、すごい数の申し出が押し寄せてくる恐れがあります。そのたびに教育委員会は、調査に関わる弁護士や心理士などの専門家を用意しなければなりません。すごい費用ですし、人も足りなくなります。そして、学校や教育委員会は好き勝手な判断をできなくなり、そのことも少し都合が悪かったのです。教育委員会の事務的な負担もとても大きくなります。だから、法律を無視して、「疑い」の時点では重大事態を認定しない、というやり方をすることにしたのです。全国でこうした法律違反が横行しました。
今年の3月に、横浜市でも、4年前に起きた中学校でのいじめ自死事案について、鯉渕教育長が法律違反を認めましたが、それもこの「疑い」の時点で重大事態を認定しなかったという法律違反のことを意味しています。
いじめ重大事態の件数は、小中学生の人口が多ければそれだけ多くなるわけですから、横浜市はかなり多いほうのはずですが、実際はそうでもありません。人口一人あたりにすると、ここ5年ほどは、全国平均の7分の1ほどの数しかありません。それほど横浜市はいじめ重大事態の認知に消極的で、悪い言い方をすると、自分たちだけの判断で第三者を入れずに秘密裡に物事を進めたいという意向がとても強い、となるのかもしれません。

さて、ここまでのことが前置きです。
ガイドラインの改訂素案は、この「疑い」の考え方を大きく変えようとしています。
少し堅い文章になりますが、ガイドラインの素案から引用します。

第四章 重大事態を把握する端緒
 第二節 対象児童生徒・保護者から申立てを受けた場合の対応

法第28条第1項では、「疑い」がある段階で調査を行うとしていることから、確認の結果、申立てに係るいじめが起こり得ない状況であることが明確であるなど、法の要件に照らしていじめの重大事態に当たらないことが明らかである場合を除き、重大事態調査を行い、詳細な事実関係の確認等を行う必要がある。

従来は、「疑い」の時点で必ず重大事態調査を行うものとされていたのですが、そこに例外規定が設けられたのです。いじめの重大事態に当たらないことが明らかなのかどうか、まずは学校が確認をすることが許されるようになっているのです。こうなると、保護者がいじめ重大事態を申し立てした時点では、いじめの事実が明らかになってないケースがほとんどなのですから、多くの場合において、まずは重大事態調査(第三者による調査)をするのではなく、学校が調査をすることになります。教育委員会は重大事態を回避したいのですから、その意を受けた学校は、なるべく重大事態に認定されないように調査を進めるようになります。つまり、いじめの事実をなるべく認めず、隠蔽する方向に動くだろうと予想されます。
この改訂がなされることで、法の趣旨の一番大事なところが骨抜きにされてしまい、法律ができる以前の状態に逆戻りしてしまう恐れがあります。

文部科学省も当然このことをわかっています。
ですが、教職員の数を増やせず、弁護士や専門家の数に限りがあり、教育委員会の事務的な負担も増やすことができない以上、重大事態調査の数を絞らなければならないと考えているのでしょう。だから、ガイドラインの改訂によって重大事態の門戸を絞ったうえで、新しい条件はせめてしっかり各地の教育委員会に守らせたい、と思っているのです。
もし学校や教育委員会が公正に物事を進める信頼される存在であるのならば、この考え方でもOKです。まずは学校が調査をして、いじめがある場合にはしっかりそれを確認して、重大事態調査につなげてくれるからです。ですが多くの学校で、教育委員会で、実態はそうではなかった、むしろいじめを隠蔽しようとしてきた。その反省に立ってこの法律ができたのですから、性善説を信じるわけにはいきません。
横浜市の教育委員会がやっていることを見ると、私は無条件に信頼することはできません。

いじめ防止法の中身が大きく変わる転換点です。
文部科学省に意見を伝えられるチャンスは、この機会しかありません。8月2日が期限です。
いじめの問題やお子さんの教育に関心がある方には、ぜひこのガイドラインの改訂素案についての意見表明(パブリックコメント)にご参加いただきたいと思っています。しつこいですが、もう時間がありません。8月2日が期限です。

まず、文科省の資料は↓こちらです。

60ページ以上の素案を読むのは大変なので、1ページにまとまっている「改訂の概要(案)」のほうを読むだけで十分です。
ご意見は、もちろんご自身のお考えで書いていただければ結構です。

もし、同じ考えだけど文章書くのが難しいとお感じの方がおられましたら、コピペでも大丈夫です。
まず、「第四章」のところを選んでいただき、以下の文章をコピペしてください。

第四章第二節
[確認の結果、申立てに係るいじめが起こり得ない状況であることが明確であるなど、法の要件に照らしていじめの重大事態に当たらないことが明らかである場合を除き]
という部分について:
「疑い」の時点で必ず重大事態認知するものであるところ、ここに例外規定を設けることに反対する。この例外規定にかかる確認作業は実質的に多くのケースで適用されることが予想され、重大事態調査を保留して学校による調査を先行させることを公に許容し、重大事態を避けたいと考える学校や教育委員会のいじめ隠蔽体質を助長することにつながり、立法の趣旨に背くものだと考える。
現行ガイドラインの通りに運用した場合に、調査に関わる人員や労力のキャパシティの問題が発生するのであれば、自死以外の事案の調査を簡素化させるなどで対応すべき。人員や労力の課題解決のために立法の趣旨を犠牲にすることは絶対にやめていただきたい。

くどいようですが、もちろんコピペでなくとも、それぞれの方のお考えで書いていただければそれで結構です。
学校や教育委員会のいじめ対応の歴史的な転換点(このままいくと大きく後退する)であるのに、この問題の中身がほとんど世の中に伝わっていないので、はじめてnoteというものを使って発信してみようと思った次第です。
パブリックコメントは↓こちらから。8月2日23時59分が締め切りです。
https://forms.office.com/Pages/ResponsePage.aspx?id=sBBYVMs2kEKJJkjbwPnpL-g1vlvM5otPv_JPhObBTjRUQ1dGUVJaRjIxTENXS0RFQkVSVlFKOTRROC4u

いじめの問題や教育の問題に関心のある方は、ぜひ参加してみてください。

なお、全国各地にはいじめ事実に真摯に向き合い、事実をしっかり認めて再発防止につなげていこうと考えている多くの学校教員、教育委員会職員がいらっしゃるとは思っています。今回は問題の特性上、あえてマイナスの部分に強く焦点を当ててお伝えしていますが、すべてがそのような状態ではないと理解しています。

#いじめ重大事態 #ガイドライン改訂 #パブリックコメント


いいなと思ったら応援しよう!