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絵本でイランの今に触れる~「アリババと40人の盗賊」アラビアンナイトのおとぎ話

「ひらけ、ゴマ!」
誰しも一度は聞いたことのあるこのフレーズ。
英語では「Open sesame!」。
ズバリそのものだ。

この有名なフレーズが出てくるおとぎ話が「アリババと40人の盗賊」。アラビアンナイト、いわゆる千夜一夜物語の話のひとつである。

現存するアラビアンナイトの最古の写本の断片は800年代のもので、その後徐々に追加・拡充され1400後期に現在のような形式のものが確立したと考えられているそうだ。

アラビアンナイトは、ペルシャのシャハリヤール王に嫁いだ大臣の娘シェーラザードが、1001夜かけて王に次々と物語を話し聞かせるという形をとっている。

ペルシャ、インド、エジプト、中国などから、数百年かけて集められた物語集であるこのアラビアンナイトの中で最も有名な物語である「アリババと40人の盗賊」。子供の頃、どこかで聞いたことはある。けれどオチどころか、どこで「Open sesame!」が使われたのかも覚えていない。

アラビア文字がお洒落

イラン人イラストレーター「ナルゲス・モハンマディ」氏x翻訳家「愛甲恵子」氏の翻訳により、ほるぷ出版より2021年に新たに刊行された「アリババと40人の盗賊」。どんな味わいがあるのか、楽しみだ。

あの じゅもんを となえてみました。
「ひらけ、ゴマ!」
とびらは 同じように ひらきました。おそるおそる 足をふみいれます。
すると、そこには みごとな 宝の山がありました。

ナルゲス・モハンマディ絵、愛甲恵子再話 (2021年)「アリババと40人の盗賊」ほるぷ出版

このフレーズは、盗賊が盗品を保管する洞窟の扉を開ける呪文であった。

ストーリーはというと、ペルシャに住む貧乏人のアリババが偶然盗賊の財宝を見つる。それを羨んだ金持ちの兄が「ひらけ、ごま!」で宝物が隠されている洞窟を開けるも、盗賊に殺されてしまう。(この殺され方がエグイ。4つ切りにされ、扉の裏側に吊るされる)

財宝のありかを知った者は生かしておけんと、盗賊たちはアリババたちの家へ忍び込んで皆殺しにしようとするが、賢い召使のマルジャ―ナの機転によって救われる。盗賊たちを返り討ちにしたマルジャ―ナのことを気に入ったアリババは、彼女を息子の妻にむかえたとさ。めでたし、めでたし。

盗賊の金を盗み、金持ちの兄の後釜になり、賢い嫁を迎えた元貧乏人のアリババ。
うーん、良かったね! といった感じだろうか。
残酷で、ずる賢くて、ちょっとだけ腑に落ちないおとぎ話である。

そしてイラストの方はというと、あえてのっぺりしているというか、それでいて不思議な奥行きを感じさせるテイストである。

気になるのは、ちょいちょい物陰から覗く、女性の顔。
陽光のようなものが顔面をぐるりと一周していて、全身は見せない。
盗賊たちが悪いことをしているときなどに、岩陰などからのぞき見している。

見てます、見てます

彼女はいったい何を表しているのか。
神様?
否、イスラム教は偶像崇拝を禁止しているはずだし、そもそもイスラムの神はアッラーのみ。そしてそのアッラーはたぶん男だ。

すると、悪いことをすると誰かが見てるよ。
という「壁に耳あり障子に目あり」的な要素の擬人化だろうか。
僕はそう推測する。
これはぜひ、この新装版「アリババと40人の盗賊」を描いたナルゲスさんに聞いてみたいところだ。
2021年に日本語版が出版されているこの絵本。現代的な解釈、現代を生きるナルゲスさんの解釈が反映されているに違いない。

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