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ファッション イン ジャパン 感想殴り書き
混雑回避のために月曜朝一凸したらむしろ空いてるくらいだった。並ばないし、自分のペースで見れた。
とにかくボリュームがすごい。最後の映像作品を除いても全部見るのに3時間かかった。時間がない人は図録を買って予習しておくといいかもしれない。
服だけでなく、雑誌や写真、ポスター、映像などのメディアの展示が豊富。見られる、描かれる、記されるファッションを意識しているように感じた。特に雑誌が充実してるので、バルトの「モードの体系」よろしくファッションの「言葉」に着目して鑑賞するのも楽しい。
たとえば、戦後すぐは洋服も「きもの」だった、ポパイ独特の語り口調は創刊当時からあった、(笑)が90年代から使われているなど、面白い発見があった。
ビームスが「生活に密着したファッションを追求するとたまたまアメリカ西海岸指向と合った」とポパイに書いてて、鼻につく〜と思った、
もはや服を見ずに雑誌だけでも十分楽しめると思う。90年代00年代のギャル文化、特にagehaの表紙は必見。
個人蔵の展示品も多くて、よく集めたなと思った。熱心なコレクターがいるのかな。エドワーズの服、ビームスの商品、クリスタル族の持ち物、ルーズソックス等、おそらくその時代に実際に身につけられていたと思われる資料もあった。
肝心の服について。
日本のファッション史を総覧する内容だけど、「日本で流行った」だけでなく「日本で生まれた」ファッションを扱っていた。全てを日本人デザイナー、日本ブランドの服で構成する徹底ぶり。ディオールやアメカジ、アントワープ6など海外の潮流にも言及しながら、あくまで日本発のファッションにどう影響したかに焦点を当てていた。
石見美術館が主催というのもあって、森英恵の作品群の存在感が大きかった。パリ・オートクチュールに進出するなどデザイナーとしての功績はもちろん、メディアを通じてのファッション普及への貢献がよくわかる展示だった。ミニスカートを宇宙時代の到来と重ねたり、仕立て服にはない既製服の「速さ」を説いたり、まさに時代を作ってきた人なんだなと思った。
年代ごとに展示室が分けられていたが、ゆるやかな繋がりが感じられて、歴史はシームレスなんだと再認識した。しかし、そんな中で、80年代DCブランドブームの部屋は入った瞬間圧倒される華やかさだった。卒倒しない様に気をつけよう。日本のファッションいえばこれだと思う人も多いと思うし、知名度のあるブランドが目白押しで、展示面積も各年代中最大だった。名前は聞いたことあるけどどんなものかは知らなかったブランドを見ることができて大満足。この部屋だけでも見にきた方がいい。コシノジュンコはさすが。タケオキクチ大好き。ドン小西は実はめっちゃすごい。箪笥に防虫剤を入れてるだけのおじさんじゃなかった。
70年代のアメカジブーム展示と壁を挟んだところに80年代の日本ファッションのアメリカへの進出が展示されていたのが良かった。
コムデギャルソン、イッセイミヤケ は予想よりボリュームが少ないな……パリでの衝撃が大きかったけど日本のファッションとしては他のブランドと同列なのか、あるいはもう語られ尽くされてるから敢えて言及しないのか、と80年代ゾーンでは思った。ところがどっこい、70年代から現代、未来までずっと登場する。やっぱり常に日本ファッションをリードする偉大なブランドです。疑ってすみませんでした。
ちなみにヨウジヤマモトの展示はひとつもないよ。
90年代以降はストリートファッションの時代とはされているものの、デザイナーとブランドの服がメインだった。大量生産の製品、大衆服はユニクロくらいだった。ヒートテックの歴史の展示は良かった。
名のあるデザイナーの服や高級ブランドの服だけが作品たりえるのか。普段着はファッションじゃないのか。ランウェイの衣服は実際に大衆が着ている服とギャップがあって、社会の受容やファッションの実態を見落としているのではないか。「ドレスコード?展」でも感じた疑問を、この展覧会でも感じた。
しかし、2010年代の展示を見るうちに考えが変わった。2010年代は「いいねの時代へ」と題して、途中でやめるやケイスケヨシダを展示していた。このブランドってそんなに流行ったか?と思ったけど、よくよく見ると衣服に限らないその時代を象徴するモチーフを服にしているのだと気づいた。
そういう視点で見直すと、この展覧会で展示されてる衣服は、時代の気分や考え方を表象していた。みんなが着ていた、たくさん売れた、といった商業的な観点ではなく、時代表象として優れているのかが「作品」としての衣服の基準なのだと思った。
改めて考えると、DCブランドブームの時だってたくさんの人がコムデギャルソンの服を着ていたはずはなく、カラス族として揶揄されるマイノリティだったのだ。スーパーデザイナーの時代でさえそうなのだから、ボトムアップ的なストリートファッションが主流になってもデザイナーの服を代表作品とするのは自然ではないか。
要は、雑誌や写真などと同様に、衣服もメディアの一種なんだと気づいた。
最終章の「未来へ」では表象の機能が強調されていて、サスティナビリティや伝統回帰、ジェンダーをデザイナーたちがどう捉えて表現しているのかに着目していた。やはりファッションデザイナーの仕事は、コンセプトを人間が身につけるものに表現することなんだとわかった。「ファッションはアートか?」はファッションの展覧会が増えた現代においてよくある問いだけど、少なくともこの展覧会ではアートとして衣服を展示していると思う。
雑誌だけでも楽しめると書いたけど、絵画やその他芸術作品でやっても成立しそう。ってそれは「ドレスコード?展」でやってたか。なんであの時、衣服もメディアであることに考えが及ばなかったんだろう。2年越しで理解させてくれた本展覧会に陳謝。
そもそもファッションは衣服に限らず、ライフスタイル全般まで範囲が広い。今のファッション研究は服飾史ではなく表象文化論のアプローチを取ってるし。大学の時に表象文化論の授業受けて、こういう見方も教えてもらったはずなんだけど、私はなんで今までできてなかったの?勉強しな〜?
ともかく、ファッションは衣服そのものではなく現象であること、が実感できる展覧会だった。星5万。東京行けるやつは全員行きな。