【ロスト・ゴールンデン・デイズ】

 「ケオーッ…ケオーッ…!」ウシミツアワー。人気の無い路をただ一人、息を切らし駆けるぴるす。彼の名はピルスバリー。ニンジャぴるすである。

 彼はコウライヤ施設内で予期せぬディセンションをし、ニンジャの力を以て施設から脱走した。施設の外には自由な日々と檻のない世界があった。彼は多幸感に包まれていた。

 …しかし、黄金の日々は過去に消え去った。コウライヤの追手に見つかったのだ。

 「ケオーッ…ケオーッ…!」ピルスバリーの右腕から先は無く、傷口からはとめどなく血が滴る。地面に落ちた血痕がクマドリめいた線を描く。…道標になっているだろう。「もう…クンリケンなんて無くてもいいんですけお…欲しがらないんですけお…」

 コウライヤの追手と遭遇したその時、彼は未だニンジャの全能感に酔いしれていた。カブキアクターなどカラテで分からせてやればいいと思っていた。だが…。

 「ケオーッ…ケオーッ…!」息が切れる。それは運動量のせいではない。……恐怖が呼吸を乱している。ニューロンに焼き付いた情景が。

 一瞬のカラテ。交錯したその瞬間、ピルスバリーの右腕はケジメされた。全能感も高揚感も、自由の喜びも瞬く間に消え去った。ピルスバリーは己が支配される側に過ぎぬと悟った。

 「どうして…平和が…自由が欲しかっただけなんですけお…」呟きに答える者はいない。声は闇に消える。果たして、どこまで逃げられるだろうか。……どれだけ生きられるだろうか。

 カブキアクターが足を摺る音が背後で聞こえる。…それは現実か幻聴か。確かめる勇気はない。ピルスバリーはただ必死に走る。

 (解き放たれても結局は檻の中。あの自由な日々は、俺は本当に幸せだったのだろうか…)過剰な呼吸により混濁しつつある意識で、ピルスバリーは考える。

 (脱走のあの日、省みることもなかった他のぴるす達。檻の中の奴らよりも果たして俺は本当に幸せだったのか…)分からない。思考が止まる。ピルスバリーにはもはや考える気力もない。髑髏めいた月が雲の切れ間で嗤う。


 「イヨーッ!」背後から聞こえた鋭いカブキシャウト、それがピルスバリーの最期の記憶であった。


【ロスト・ゴールンデン・デイズ】終わり




◆歌◆
カブキ名鑑#014
【ピルスバリー】

生産プラントに保管されていたぴるすの一人にニンジャソウルが憑依。施設を破壊し脱走した。能力及び外見について、特筆すべき点はない。
◆舞◆

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