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【トラディショナル・カブキソウル】

【トラディショナル・カブキソウル】

 「「イヨォォォーッ!!」」地震の如き揺れのコンマ5秒後、赤熱する二つの物体が空中で衝突する!それは二人のカブキアクター、カブキニストとサルファリックだ!両者のトビ・ロッポーがカブキ舞台の中央でせめぎ合い、過剰カブキが周囲へ眩い光を放つ!

 「イヨーッ!」「イヨーッ!」瞬く光の中央部で二人のカブキアクターはカブキを打ち合う!「イヨーッ!」カブキニストの右拳!「イヨーッ!」サルファリックは受け止める!「イヨーッ!」サルファリックの左拳「イヨーッ!」カブキニストは受け止める!

 サルファリックのドク・ジツはカブキニストのカブキに阻まれ侵蝕する事が出来ぬ。一方のカブキニストもこの距離ではカブキネシスを使う余裕なし!純粋なる素手のカブキの打ち合い!

 「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!

 もはや常人にはどちらが拳を繰り出し、どちらが受け止めているのかも判断できぬほどに加速したワン・インチ距離でのミニマル木人拳めいた高速カブキ応報!

 「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!


 一撃一撃が空を穿つほどの強烈なカブキがせめぎ合い、競い合い、衝突し合う!その拳は交錯する度に速度を増し、内なるカブキが燃え上がる!この一瞬、このワンインチの世界で彼らは互いのカブキを研ぎ澄ます!

 「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!「イヨーッ!」右拳!「イヨーッ!」左拳で相殺!「イヨーッ!」左拳!「イヨーッ!」右拳で相殺!

 「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」

 「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」「イヨーッ!」

 永遠に続くかに思われたカブキ応報は不意に終わりを告げる。「イヨーッ!」鋭く速いカブキニストの右拳をサルファリックは両腕で受け止めた。反撃を諦めたのか?…否!サルファリックの目が力強く見開かれる!「イヨォーッ!」鋭いカブキシャウト!これは暗黒カブキ秘伝の奥義…ミエ!

 熟練のカブキアクターであるカブキニストは瞬時にその動きの意図を見切った!「イヨォーッ!」瞬時にミエを切り、サルファリックのミエに応じる!KABUKOOOOOOOOOOOM!二つの巨大なカブキ爆発が干渉し合う!ミエ対消滅!シュウメイは振りだしに戻ったか!?

 否!ミエ対消滅の余波が未だ消えぬその瞬間!KABUKOOOOM!更なる爆発音が響き、「イヨオオオーッ!」ミエの爆炎の中を突き抜けてサルファリックが仕掛ける!「何だと!?」

 見よ!焼け焦げた彼の装束と肉体を!そう、彼は自らの背後へとミエを切り、爆炎に飲まれながらもその衝撃を己の超加速へと利用したのだ!それは余りにも危険なトビ・ロッポー!一歩間違えれば自らが重傷を負うことは明白!(…だがこうするしかあるまい!父を越える為には!)

 「イヨォーッ!」カブキニストは瞬時にトビ・ロッポーで迎撃する!なんたる瞬時に最適な対応を見抜く鍛え抜かれたカブキ状況判断力であろうか!再び舞台の中央で流星めいたトビ・ロッポーが衝突する!

 KABUKOOOM!KABUKOOOOM!KABUKOOOOM!KABUK-TOOOOOM!恐ろしいほどに凝縮されたカブキがついに臨界点を越え、彼らの周囲で無数のカブキ爆発が爆撃めいて発生する!「「イヨォォォォォオオオーッ!」」吼えるようなカブキシャウト!無数のカブキ応報にトビ・ロッポー、そしてミエ…。もはや両者とも既に限界は越えている!

 そして…ついに!「…イヨォォォォオオオオオオーッ!」サルファリックのトビ・ロッポーが爆風による初速の差でカブキニストを…押し切った!「グッ…グワーッ!」バッファロー殺戮武装鉄道めいた衝撃がカブキニストを襲う!「ヤ!ラ!レ!ターッ!」カブキニストは吹き飛ばされ、カブキ舞台の壁へと大の字にめり込み、糸が切れたように止まった。


 「…ソコマデ!」シュウメイを見届けていたクロコ・アクターが旗を揚げる。「勝者ソメゴロ!よってシュウメイは成立となります!」…その言葉を聞き終えたサルファリックは力尽き果て、床へと倒れた。彼ももはや限界だった。

 クロコ・アクターがサルファリックからカブキニストへと振り返ると、壁に大の字のクレーターを残して彼は消えていた。




 カブキニストはベッカクを杖代わりに暗い路地を歩く。シュウメイ儀式で弟子に倒され命を終えるカブキアクターも多いが、彼はあのトビ・ロッポーを食らいながらも生還していた。…それは良い事か悪い事か。

 (これでコウライヤCEOは私ではない。カブキネームも失った。ならば潔く死んだ方が綺麗だったのではないか…。今、私の生きる意味。汚く生き延びて生き続ける意味は一体何だ…意味などあるのか…?)思考がニューロンをかき回す。

 …その時。「ケオーッ!」「ヌゥーッ!」突如発生した細い雷がカブキニストの足元へと突き刺さった。雷がやってきたビル街上層から舞い降りる影有り。それは一人のニンジャぴるす。「フフフ…ドーモ、カブキニスト=サン。プラズマフィラメントです」

 「…ドーモ、カブキニストです」「貴方はついさっきコウシロの名を失った。俺は詳しいから知ってるんですけお!負け犬となった今こそ討ち取るチャンス!ケオーッ!」プラズマフィラメントの腕から稲妻が迸る。

 「この程度で…!イヨーッ!」カブキニストは側転し、稲妻を回避する!
…だが!「ケオーッ!」稲妻はジグザグに駆けながらカブキニストの回避方向へ屈曲し、命中した!「何!グワーッ!」「ケーオケオケオ!我が稲妻は猟犬めいて貴方を追う!逃げ路などないんですけお!ケオーッ!」

 「ヌウーッ…イヨーッ!」満身創痍の体で走るカブキニストを稲妻が追う!いかなニンジャであろうとも電撃の速度を上回りながら逃げ続けることなど不可能!稲妻は瞬く間にカブキニストへと追い付き、そして!

 「…イヨーッ!」振り向き様の一瞬!横薙ぎのデンショウが稲妻を切り裂く!「ケオーッ!?バカな!?」デンショウが電気のジツを吸収しバチバチと電光を発する!


 「…カブキアクターに貴様のか弱い雷撃如き斬れぬと思うてか!私を殺したくば貴様程度ではなくミカヅチ・ニンジャでも連れて来たまえ!」

 「ケ…ケオーッ!形勢不利!」プラズマフィラメントは背を向け逃走!
「逃がさぬぞプリングス=サン!」赤い顔でカブキニストがプラズマフィラメントの背を睨む!そして!「イヨーッ!」デンショウ一閃!吸収されていた電撃が放出され、雷の刃となって奔る!

 雷の刃は真空波めいて宙を走り抜け、「ケオアバーッ!?」逃げるプラズマフィラメントを背中側から正中線で両断した。「サヨナラ!」





 カブキニストは息を吐く。「シュウメイのワビサビを穢す無粋なぴるす君だったな…」だが、そう呟く彼の顔はどこか迷いの去った晴れやかなものに変わっていた。

 (私はどうにも考えすぎる帰来がある。あの無知能なぴるす君のように何も考えずともいいのかもしれんな…)誰に向けるでもなく苦笑する。

 (私はアディショナルタイムを得た、それだけだ。生きてゆく中で目的を、意味を見つければいい。…それだけの話だ)カブキニストはナギナタを仕舞い、己の足で路を歩き出す。

(黄金の日々が二度と来ないでも良い。それでも生きていけば良いのだ)

 カブキニストはあてどのない路を歩く。彼の頭上、厚い雲に覆われた黒い夜空に一羽、白いバイオオウムが飛んでいた。



(カブキスレイヤー 第9代目「伝承せしカブキソウル」 ここに終わる)




カブキ名鑑


◆歌◆
カブキ名鑑#20
【プラズマフィラメント】
フリーランスの傭兵ニンジャぴるす。耳ざとく、カブキニストのシュウメイ儀式完了を聞きつけて現れた。彼の放つ稲妻には誘導性があり、障害物に命中するまで標的を猟犬めいて追いかける。
◆舞◆




K-FILES

!!! WARNING !!!
K-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
!!! WARNING !!

カブキスレイヤー第9代目「伝承せしカブキソウル」の最終エピソード。カブキニストとサルファリックのシュウメイ儀式に遂に終止符が打たれる。文量削減の為、今エピソードはシュウメイ儀式中盤、カブキのクライマックスから始まる。


主な登場ニンジャ

プラズマフィラメント / Plasma Filament

ライデン・ニンジャクランのレッサーニンジャソウル憑依ぴるす。標的を猟犬めいて追尾する稲妻を発するハウンド・ライトニング・ジツにより遠方から相手を感電させ、動きを鈍らせてから襲い掛かる狡猾なニンジャぴるす。情報通でありシュウメイ儀式終了直後のカブキニストへ襲撃を企てた。コウライヤのカブキアクターはぴるすの管理者という立場から敵対心を抱くニンジャぴるすも少なくないが、その圧倒的強さを前にわざわざ戦いを挑む愚か者はそう居ない。彼の様にチャンスを聞きつけハイエナめいて襲い掛かるのだ。このエピソードの後の空白期間にもカブキニストは様々なニンジャぴるすに襲われるのだが、全てカブキトレーニングの一環で葬られている。


メモ

カブキスレイヤーの第一部ラストエピソードであり、ついにシュウメイ儀式が終了する!これが正真正銘最後の戦いではあるが、その文章量はさほど多くはなくむしろミニマルだ。ストーリー的な部分より白熱するカブキとエピローグに重点を置いたような内容になっているのは、この話があくまで中間地点であるという僕の考えに由来する。第一部は根本的に11月から始めて翌年1月完結という短い部であったし、それに『倒すべきボス』みたいなキャラクターは出てこない。だから因縁の終止符や巨悪の滅びといったカタルシスは存在しないし、無理に盛り上げても空回りするだけだと思ったので短めの内容にし、ストーリーをカブキ試合とエピローグに濃縮したんだ。

前述したカタルシスの無さではあるけど、これは現実のシュウメイに合わせたかったから期間的に仕方ないという事で、実は初期の時点で諦めていた。だからこの第一部は全てのエピソードがカブキスレイヤーのプロローグのようなものとして作られている。まず簡単な作品観を見せ、更なる世界観や設定の説明、【アサルト・ザ・ネーム】で締めへ繋げ、方向性を模索し、今エピソードで締める。言ってしまえば全てが短編スクで説明回なんだ。

第9代目「伝承せしカブキソウル」はあくまでミニマルなスクリプトを主体とし、短編短編で繋がりの少ない読みやすさを心掛けて書いた。それはスレッドの生存時間的に毎話見逃さず見続けるのは難しい一期一会スタイルだからということなんだけど、第10代目は本筋を追っていく連続したエピソードへと変わり、追うべき敵組織や倒すべきボスといった要素を組み込んだ正統派ストーリーが展開される。時系列、事件を原作と共有する月崩壊後の世界でカブキアクターはどう動くのか、今こそカブキエイジへと旅立とう!

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