
【アサルト・ザ・ネーム】
普段ならば客とカブキアクターで満ちているカブキザのカブキホール。しかし今現在、この地は無人である。カブキニストは周囲を警戒しながら客席を歩き抜け、階段を上りカブキステージへと足を踏み入れる。その時!
「イヨーッ!」高速でカブキステージの床がせり上がり、カブキアクターが奈落から射出される!「イヨーッ!」カブキニストは弾丸めいたトビゲリアンブッシュを紙一重で回避!
「ドーモ、カブキニスト=サン。サルファリックです」前転着地したカブキアクターが振り返り、アイサツした。その体からはただならぬ気配が溢れる。「…シュウメイさせて頂きます」
「ドーモ、サルファリック=サン。カブキニストです。ついに来たか、やってみるがいい」
シュウメイ、それはカブキアクターに伝わる儀式の一つである。弟子のカブキアクターは師を襲い、己の力を見せつけて引退に追い込むことでカブキネームを奪う。師は弟子を迎え撃ち、力及ばぬ未熟者を己のカブキをもって打ち滅ぼす。カブキアクターはこの儀式によって弱き者を排斥し、己が排斥されぬよう努力を積み、そうして質を保ってきたのだ。
二人のカブキアクターはステージ上で向かい合う。カブキニストが構えるは二振りのナギナタ。コウライヤに受け継がれる家宝、ベッカクとデンショウである。サルファリックは無手で構え、その手を怪しげな液体が包む。
両者は見合ったまま動かぬ。タツジン同士のシュウメイは1つの判断ミスで決着が付く。軽率には動けない。「…」「…」動かず、だた見合っているだけで玉のような汗が滴る。ひときわ大きな雫が双方の顎先から滴り落ちた。
「…イヨーッ!」その瞬間!弾かれたように動き出す!仕掛けたのはカブキニスト!ベッカクを大きく横に払う!「イヨーッ!」サルファリックはシラハドリめいてベッカクの刃を押さえた!「「ヌゥーッ!」」二人のカブキがぶつかり合う!
…おお!見よ!ベッカクの刃から昇る不穏な煙を!「ヌウッ!」何らかの強酸性毒液が強靭なベッカクの刃をも蝕んでいる!「イヨーッ!」カブキニストはサルファリックの手を振り払い、ベッカクを引き戻す!
(好機…!)その隙を突くべく、サルファリックは大きく踏み込み…(…!)その場をバックフリップで離れた。その目前を、宙に浮いたダイ・ノコが高速回転しながら通り過ぎる。
いつの間にか、彼らの周囲にはダイ・ノコ、レーキ、ハンマー、サスマタ、トツ・ボー、ソデガラミ、マサカリが超自然の力で浮遊している!「これは…!」カブキネシス!
「イヨーッ!」カブキニストがデンショウを振るう!「イヨーッ!」サルファリックは連続側転で避ける!避けた先へ飛来するレーキ!「イヨーッ!」サルファリックは更に側転し回避!避けた先へハンマーが迫る!「イヨーッ!」サルファリックは更に側転し回避!サスマタ飛来!「イヨーッ!」側転回避!マサカリ飛来!「イヨーッ!」側転回避!
「イヨッイヨッイヨーッ!」カブキニストが8種の武器から絶え間なく繰り出さす攻撃はさながら伝承されるベンケ・ニンジャの姿!「ヌゥーッ!」このままでは反撃できぬ!「…ならば!」サルファリックは懐へ手を入れる!
「イヨッイヨーッ!そんなものか!イヨッイヨーッ!これではシュウメイなど…」「イヨーッ!」サルファリックは懐から取り出した物をスリケンめいてカブキニストへと投げた!「ヌウッ!」カブキニストは武器で己を守る!
ニンジャ動体視力をお持ちの方ならば捉えられたであろう。サルファリックが投擲したものの正体、それは変哲の無いハーフオリガミである。…そしてそのオリガミには謎めいた文字や図形が書かれていた!KABUKOOOOOM!武器とぶつかったハーフオリガミが突如爆発する!…これはオンミョウ・ドーの秘術、シキ・ガミ・スリケン!
カブキニストの武器は破損し、或いはコントロールから離れ、墜落した。カブキニストは瞬時に状況判断し、カブキネシスを止めて素手の戦闘へシフトする。「イヨーッ!」「イヨーッ!」ワンインチ距離でのカラテ応報!
「イヨーッ!」カブキニストのカブキチョップ!「イヨーッ!」サルファリックは左手でいなし、右手で鳩尾へフックを打ち込む!「イヨーッ!」サルファリックは半身になりフックを回避!避けた勢いを殺さず後ろ回し蹴りを放つ!「イヨーッ!」サルファリックは左腕でガードする!サルファリックの毒はカブキに阻まれカブキニストへ届かぬ!
「イヨーッ!」「イヨーッ!」互いに一歩も引かぬミニマル木人拳めいた応報。その動作は全てが油断ならぬカラテであり、そして、全てが神秘的なカブキであった!二人はワンインチ距離で命懸けのカブキを演じているのだ!なんたるニンジャのカラテと伝承されしカブキの超次元的融合演舞!
◆
「イヨーッ!」「イヨーッ!」打ち合いの中、サルファリックは己とカブキニストの力量差を痛感していた。身体能力も体力も己が上。しかし、研ぎ澄まされた技術はカブキニストが圧倒的に上!そしてその技術差に、一寸の誤りもないカブキに徐々に追い詰められている!
このまま父の後追い、見真似のカブキを続けてもネズミ袋。一かけらの勝機も無い。…ならば。(己のカブキを演ずべし!)サルファリックはカブキニストのキックをあえて受けた!「グワーッ!」痛打!蹴り飛ばされる!…だが問題なし!距離を取るためだ!さらにバックフリップで離れる!
そして!「アブラ・ジゴク!」シャウトに呼応し、粘体の油が別の次元より引き出される!「ヌゥッ!?これは!」カブキステージが超自然の油に沈む!油はカブキニストの足へと纏わり付き、蝕む!「ヌゥーッ!」
水中用のカブキの型は現代の世に現存せず!いわんや粘体油中をや!すなわちカブキニストは無力!一方のサルファリックは、おお!油を凍らせ、氷上をスケートめいて滑る!これこそ彼の編み出した創作カブキ…コリ・カブキである!「イヨォーッ!」動けぬカブキニストへ、滑走加速したサルファリックのトビゲリが迫る!
◆
泥めいて静止した時間の中、カブキニストは目を閉じる。モハヤコレマデ、勝負は決した。シュウメイは成った。ソメゴロも知らぬ間に強くなったものだ。コウライ・カブキも安泰であろう。シュウメイを受け入れようとする。
その瞬間、尊大な笑い声が彼のニューロンへと響いた。
(((ハハハハ!コウシロ、ここで仕舞いか。空しき最後だ)))尊大な声が響く。
空しい?何を。子が親を越える。こんなに喜ばしき事はあるまい。
(((それはお前の本音か?タテマエか?お前は我が子に喜んで首を差し出すか?)))本音か、だと?そんなものは決まっている。私は。(…私は!)
(負けたくなどあるまい。一生!たとえ年老いて衰えてもだ!)
(((ハハハ!知っておるわ!カブキ・アクターとはそういうものよ!我がミーミーを受け継ぎし者共なのだから!ハハハハハハハハハハハハハハハ…!)))
静止した時が静かに動き出し、高笑いはニューロンの彼方へ去った。…ただ一つ、失伝せしエンシェント・カブキの断片を残して。
「イヨーッ!」カブキニストが油を掻く!その特殊な体運びが油を受け流し、その抵抗を受けさせぬ!「な…バカな!」トビゲリ姿勢のままサルファリックが目を剥く!「イヨーッ!」カブキニストが油を掻く!加速する!もはや油の枷は無い!遥か昔、古のカブキアクターが水中で用いたカブキの型!水の抵抗を逆手に取り推進力へと変えるカブキ!オヨギ・ロッポー!
「イヨーッ!」オヨギ・ロッポーで加速したカブキニストは勢いのまま油面から跳躍!トビゲリを放つ!「イヨーッ!」サルファリックのキック相殺!油中に着地した両者は瞬時に振り返り、互いにミエを切る!「「イヨォーッ!」」KABUKOOOOOOOM!2つの激しいカブキ爆発が互いを殺し合う!ミエ対消滅!
「ハァーッ…ハァーッ…」「ヌゥーッ…」カブキニストとサルファリックは睨み合う。互いに消耗は激しく、軽率に動けぬ。次の動作ですべてが決まるだろう。ボタンを掛け間違う事は出来ぬ!
…だが、その時!
KRAAAAASH!突如カブキホールの扉が破壊され、無数の人がなだれ込む!「「「ケオーッ!」」」否!人ではない!ぴるすの群れだ!一体何故!「「ヌウーッ!?」」突然の事態に極度疲労、極度緊張状態であったカブキニストとサルファリックは回避しきれずぴるす波に飲まれた!
「ケーオケオケオ!」リーダーぴるすが笑う。その体からはニンジャ存在感が放たれる。…ニンジャぴるすだ!「シュウメイやって疲労してる所を襲いイチモ・ダジーンでアブハチトラズ!これでもはや恐れるものは…」
「「イヨーッ!」」鋭いカブキシャウトが響く!「ケオッ!?」ニンジャぴるすが目を見張る!「「「ケオアバーッ!?」」」無数のぴるすが宙を舞い、地面に落ちてトマトめいて潰れる!「これは…!」「「イヨーッ!」」「「「ケオアバーッ!?」」」次いで引き起こされた爆発が群がるぴるす達を全て消し飛ばした!「バカな…!」
爆心地に佇み、ミエを切る二人のカブキアクター。彼らにより引き起こされた2つのカブキ爆発は互いを打ち消し合ってミエ対消滅させず、互いに増幅し合ったのだ!これぞカブキの真髄!テン・チ・ジン・ミエ!
「ドーモ、カブキニストです」「ドーモ、サルファリックです」二人のカブキアクターは滅ぼすべき敵へとアイサツした!「バカナ…バカナーッ!?」「「アイサツせよ!」」カブキアクターの鋭い怒声が響く!
「ド…ドーモ、ピカイアです」「「イヨーッ!」」「ケオーッ!?」オジギ終了直後、同時に放たれた二発のトビ・カブキックがピカイアの腹へと突き刺さる!「アバッ…ゆ…許し…」「「イヨーッ!」」左右から同時に放たれた袈裟状カブキチョップがピカイアの鎖骨を砕く!「ケオアバァーッ!」「「イヨーッ!」」同時に放たれたカブキパンチがピカイアの顔面を砕く!「…サヨナラ!」爆発四散!
◆
第三者の乱入。シュウメイ儀式にあってはならぬシツレイ行為。続行か、仕切り直しか。クロコ・アクターニンジャが判断を下す。
「…此度のシュウメイはミズイリに。次なるシュウメイ儀式は1月です」
カブキニストは己の拳を確かめる。あの瞬間、ニューロンに響いた声と己の意志。紛れもない真意なのだ。「…負けられぬ」改めて心に誓う。最終的にシュウメイが為されるとしても、その決着の瞬間まで認めぬ。此度の様に受け入れることなど有ってはいけない。
…カブキニストとサルファリック、コウライヤのシュウメイ儀式は、まだ終わらぬ。
【アサルト・ザ・ネーム】終わり
◆歌◆
カブキ名鑑#015
【ピカイア】
無所属の野良ニンジャぴるす。姿や能力については描かれておらず、不明。シュウメイ儀式中のカブキニストを襲撃するという卑劣な作戦を行ったが、そのシツレイ行為は己の寿命を縮めるだけであった。
◆舞◆