シャード・オブ・カブキエイジ:ぴるす


 ある日老夫婦が海へ釣りへと行くと、そこには壊れかけた葦船が流れ着いていた。奇妙に思った夫婦が船内に立ち入ると、船内には無残な腐乱死体が転がっている。シマナガシされた罪人か、不運な釣人か、逃亡者か。老夫婦がせめて弔いをと近づくと、その腐乱死体は蠢き呻き、瘴気を振り撒いた。老夫婦は恐れ慄きながら海へと飛び込み、葦船は揺れながら崩れ始め、やがて腐乱死体と共に沈んだ。

 それ以来その海からは腐乱した水死体…人の成り損ないのごとき怪物が現れるようになり、タタリであると怯えた老夫婦はテンプルを建て腐乱死体を祀った。その際、葦船に書かれていたショドーから腐乱死体には『ぴるす』という名が付けられたのだ。


  - 岡山県の廃テンプルにて回収された文書より


ぴるす

 ぴるすとは現在コウライ・カブキ社のバイオ部門により研究、生産されるバイオ生命体である。彼らは人間と似通った姿をしているが、その肌は常に赤らんでおり、顔において特に顕著である。各個体の間で姿や能力に差異がほぼ無く、その点ではヨロシサンのクローンヤクザと似通っているがぴるすには多少の個性が見られる。一般モータルよりも劣る知力・体力とすぐに死ぬ繊細さからクローンヤクザほどの利便性は無いが、その繊細さを利用してマイン・カナリーや薬剤研究、ストレステストなどに利用される他、廉価であることから単純作業の労働力、あるいは一部の変態闇カネモチの嗜好品としても使われる。

 管理運用下において大半のぴるすがストレスや過労、事故などの外的要因により早死にするが、本来の寿命は人と同じ程度には長い。また、ある程度ならば適合しない環境下であっても居座れるくらいに図太い生命力を持ち、非重金属酸性雨地域では逃亡ぴるすの野生化も問題となっている。

その由来

 バイオ生物である以上元となった生物が存在するはずだが、コウライ社は「人間と様々な生物の遺伝子を組み合わせている。その詳細は企業秘密」と一貫して答えるのみであり、その詳細は社内でもほんの一握りの最上級役員達が知るのみであるという。秘密を探るべく、産業スパイや非合法記者など数多の者がハッキングや施設侵入を試みたが、コウライ社のセキュリティを相手に生きて帰ってきた者は誰一人いない。

ニンジャぴるす

 ぴるすにもニンジャソウルがディセンションすることが今までの調査から判明している。ぴるすに憑依するニンジャソウルは一般ニンジャに憑依するものとなんら変わらず、これは逆説的にぴるすが人間に類するものであることを証明している。通常では常人以下の身体能力であるぴるすだが、ニンジャぴるすとなった個体では通常のディセンションニンジャと比較しても能力に遜色はなく、また個性が顕著になることも分かっている。

 正式にニンジャぴるすの存在が認知されたのは近年ではあるが、記録の中にはしばしばニンジャぴるすと思しき存在が登場する。特に古いものでは、電子戦争の時代にその動乱に乗じて逃亡し、駆除部隊に被害を与えた個体がニンジャぴるすであったと考えられている。

 ニンジャぴるすがジツを使う時、人間に対して使用した場合と比較して、ぴるすに対して使用した場合ではその作用が強くなることが判明している。また、ニンジャぴるすの命令にぴるす達は逆えないことも分かっている。
これらの特徴はぴるすがほぼクローン存在であり、ニューロンすらほぼ同一であることが原因と考えられる。ぴるすは自分と同質であり上位存在であるニンジャぴるすを阻むことができないのだ。


コウライ社とニンジャぴるす

 コウライ社はニンジャぴるすの研究を進めており、自然発生体の確保及び人工ディセンション実験を積極的に行っている。捕獲・生産されたニンジャぴるすには速やかにマスターランク以上のカブキアクターの元へ連行されてニューロンにカブキコードを刻み込まれる。この際、能力などにより選別が行われ、研究室送りを免れた一部のニンジャぴるすは高位カブキアクターの元でカラテトレーニング、インストラクションを授かり従順なるカブキの徒として育て上げられる。彼ら選び抜かれたニンジャぴるす達はコウライ社の戦闘部隊として用いられるのだ。彼らには実力や実績に合わせてランクが振り当てられており、最上位にはカブキアクターの直属の部下としての仕事が与えられ、その待遇は非常に良い。

コウライ社に所属するニンジャぴるすたち

◆ポーチュラカ:ニンジャぴるす研究最初期の時代からコウライヤに所属しているニンジャぴるす。そのため遺伝子操作やバイオ手術による特殊なジツや身体能力は持っていないが、灼熱の砂漠や極北の寒冷地などの悪環境下での活動を可能とする非凡なニンジャ耐久力、トレーニングや数多の戦闘経験によって培われた強力なカラテは他のぴるすの追随を許さない。その実力と実績からニンジャぴるす最高位に位置し、カブキニストの直属の部下としてサポートを行う。

◆プロヴァンス
:カゼ・ニンジャ・クランのソウルを持つニンジャぴるす。カゼを四肢に纏った素早いカラテにより相手の反撃を許さず、カゼ衝撃波を集中的に放射する「ミストラル・バースト・ジツ」はその速度・威力ともにヒサツ・ワザと呼んで過言でない。放棄ぴるす施設で自然発生したニンジャぴるすであり、傭兵として働いていたが、コウライ社によって捕獲された。彼のように放棄施設でのディセンション例も多く、前時代の杜撰な処分によりぴるすを残したまま閉鎖された施設が問題視されている。

ペインクリニック:医療部門に所属しているニンジャぴるす。遺伝子操作によって生み出されたバイオニンジャぴるすであり、異常なまでの再生力・疲労回復力を持っている。彼の血液より精製される特殊バンテリンは患部にスーッと効き鎮痛・治癒力向上・疲労回復効果を持つ。バンテリン精製母体として研究、開発されたニンジャぴるすは彼以前にも複数存在していたが、全ての実験は失敗に終わっている。



 カブキニストは超巨大培養水槽を眺める。ガラスの檻の中、培養液の海を多腕多足の存在は揺蕩う。波に揺られる度"それ"は滲み、崩れ、再生する。崩れた肉片は底へと降り注ぎ、水流に流され、回収容器へと溜まってゆく。
『取り替えラインな』電子マイコ音声が告げ、警告ランプが赤く点滅する。カブキニストは物思いを止め、回収容器を新しい物と入れ替えた。

 満量の容器を仕舞うと、カブキニストは「水蛭子」とショドーされた水槽を後にした。


  - 謎めいた地下巨大空洞施設、ぴるすマザープラントにて

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