シャード・オブ・カブキエイジ(2):コウライ・カブキ
「イヨーッ!」仕掛けたのはカブキニスト!ナギナタを大きく横に払う!「イヨーッ!」サルファリックはチョップで迎え撃つ!二人のカラテは鍔迫り合い、そして…おお!ナギナタの刃が溶け落ちた!「ヌウッ!」何らかの強酸性毒液!
サルファリックは追撃すべく一気に間合いを詰め…踵を返しバックフリップで離れた。その目前をダイ・ノコが通過する。いつの間にか、空中にはナギナタ、ダイ・ノコ、レーキ、ハンマー、サスマタ、トツ・ボー、ソデガラミ、マサカリが浮遊する。
「これは…!」カブキネシス!
- 【アサルト・ザ・ネーム】より
カブキ / Kabuki
カブキとは、白塗りのアクター達が大仰なムービングで行う演劇であり、日本に古くから伝承される芸能である。しかし実態はそれだけに留まるものではない。ニンジャの支配する平安時代、カブキはモータルがニンジャを滅ぼすための技であった。
西の地ではニンジャの力を封じ、隷属させるカブキ、ハンカバ・カブキが生み出された。そして東の地ではニンジャと戦い討ち滅ぼすためのカブキ、コウライ・カブキが生み出されたのだ。
マツモト・コウシロ
江戸から遥か東の地にて初代マツモト・コウシロは産まれた。そこは貧困にあえぐ農村であった。彼が10歳となったその夜、両親は家の財産の大半と5つばかりのオムスビを持たせ彼を村の外へと送り出した。それから数年間の流浪の後、江戸にて彼はカブキと出会う。感銘を受けた彼はカブキアクターに弟子入りし、カブキを学び、そして自身もカブキアクターとなったのだ。
コウシロ本人が書いたとされる日記は彼がカブキアクターとなった時点で終わっている。その後の彼について分かることは2つ。一層カブキに没頭しコウライ・カブキを生み出したこと。そして江戸戦争において多くのニンジャを葬ったということである。
コウライ・カブキ / Kourai Kabuki
コウライ・カブキは前述の通りモータルがニンジャと戦い殺すための技である。そのムーブメントには数多のカブキ流派の型が取り入れられており、また弟子が師のカブキを変質させることを良しとしている。それゆえにコウライ・カブキは非常に多種多様な技と型を有し、いかなるニンジャを相手にしようとも常に意表を突いて戦うことが可能である。この変質と多様性こそがコウライ・カブキの真髄なのだ。
無数の型を持つコウライ・カブキであるが、全ての型において共通する事もある。それはカブキを行使する際に現世と別レイヤーに存在するとされる『おおいなるもの』、『おおいなるカブキ』と己を接続する事である。コウライ・カブキアクターは『おおいなるカブキ』より現世に流れ込む力、通称カブキ・エテルを身体へと取り込む、あるいはカブキ・エテルそのものを操作することで自身の身体能力の向上や超自然の力の発揮に用いているのだ。
<コウライ・カブキの型>
◆カブキエンハンスメント:自身の体の各部位や武器に高濃度カブキを宿すことで身体能力や破壊力を高める基本の型。最上級カブキアクターが纏うカブキは目視できるほどの高濃度へ圧縮され紅白の色に輝くという。
◆ミエ:カブキを体内で凝縮し、鋭い眼力と共に放出して爆発的破壊をもたらす型。主に中・遠距離での戦闘に用いられる。変則例としてカブキを放出せず左拳に蓄え物理衝撃を無効化、解き放たれた爆発的カブキを乗せた右腕でチョップを放つ「ストーンスロー・ミエ」などの亜種も複数存在するが、その多くは既に失伝している。
◆トビ・ロッポー:コウライヤのカブキアクターが得意とする、強く地面を踏み込みカブキを込めて己の全身を敵に叩き付ける神速の型。その破壊力は凄まじく、下手なニンジャであれば跡形も無く消し飛ぶであろう。一方でこの型は体力やカブキの消費も激しく、連続での使用は命の危険すら伴う。
◆カブキネシス:カブキニスト、ホワイトパロットが用いるコウライ・カブキの型であり、彼が生み出した独自の型である。現世を流れるカブキに深く干渉することで物体を思うがままに動かす超自然的力場を発生させるカブキであり、これにより彼はセブン・ウェポンズやベッカク・デンショウを操作して一人でありながらも手数の有利を得る。この型は彼自身の鋭いエテル認識能力に依存するカブキであり他者に再現は不可能とされる。
その他、サルファリックの毒油を引き出すアブラ・ジゴクやノーヴィスのジョルリ・ジツに似たカブキなど独自の型、そしてオヨギ・ロッポーのように既に失伝した型も無数に存在する。無数に分化し新たに生まれ、そして儚く消えてゆくコウライ・カブキの全てを知り全てに対応することはコウライ・カブキアクター自身であっても不可能なのだ。
「有り得ぬ…!こんなことが有ってはならぬ…!この私がモータル如きに追い詰められるなど…有ってはならぬのだ!イヤーッ!」鋭いシャウトと共にヒザマ・ニンジャは両腕を突き出す!…だが。
「なっ…何ぞや!?」ヒザマ・ニンジャは驚愕し己の腕を見る。カトンが出ぬ。…カブキが、ホン・ミズがカトン・ジツを妨げているのだ。「イヨーッ!」「グワーッ!」修験者めいた杖が鋭く鳩尾に突き刺さり、ヒザマ・ニンジャは悶絶して膝を付いた。カブキ装束の男は杖を振り上げ、カイシャクを構える。
「ま、待て!こんな不条理は許されぬ!私が貴殿に何をした!」男の視線が氷めいて冷たく、カミソリめいて鋭く光った。「圧政を敷き人を殺した。それで十分だ」吐き捨てる。「圧政だと!何をバカな!私は非ニンジャの衆愚を管理してやったまで!これはノブレス・オブリージュ!強き者の義務!何も…」
「ハイクはそれでよいな、ジゴクまで抱えてゆけ」振り下ろされた杖がヒザマ・ニンジャの頭蓋を砕く。脳髄が零れ落ちる。ヒザマ・ニンジャは痙攣し、仰向けに倒れ込んだ。「サヨナラ!」
……マツモト・コウシロは杖に体重を掛け、無理矢理に己の足を動かす。「…足りぬ」力あるニンジャをたった一人殺すだけで力を使い果たしては到底足りぬ。もし増援があれば、死んでいたのは己の方だ。
「…足りぬ」憤怒を、憎悪を窯にくべる。ニンジャならぬ身でニンジャを殺すためにはこの妄執が不可欠であると知っている。「…足りぬ」己に言い聞かせるように繰り返しながら、コウシロは足を進める。
クマドリめいて、血の轍が伸びてゆく。