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【パンデミック、ニンジャヴァイラス】
【パンデミック、ニンジャヴァイラス】
TVの夕方ニュースが相も変わらずタマ・リバーのラッコを伝える頃、秘密裏にコウライヤのカブキ関係者の元へと緊急通達が送られていた。カブキザのカブキ施設がゾンビーにより制圧、封鎖されたのだ。
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リエンストリートに鎮座する黒、緑、ダンジュロブラウンの三色で塗られた高層建造物、カブキザ・タワー。ネオサイタマにおいてカブキを見られる唯一の施設であり、各階にて日夜カブキ公演が行われる。そしてその地下。一切の情報が秘匿された部外秘の研究施設ではカブキ研究が行われているのだが…。
「アバー…」「ケオアバー…」「gfアバー…」今やそこはゾンビ闊歩するジゴクめいた地と化していた。「アバー…」「zbアバー…」「ケオッアバー…」
ゾンビ達は生者を求め歩き、飢えに耐えかねたゾンビユカワがゾンビぴるすを襲う。
なんたるおぞましき惨状であろうか!一般人がこの場に居合わせたなら嘔吐失禁は免れず正気を失う危険すら伴う!幸いなのは、この空間がもはやモータルの存在できる環境では無いことか。
この階に生存者…生存生物は居ない。この地で何が起きたというのだろうか。…全ての始まりは数時間前に遡る。
◆
『イヨーッ!地下890階ドスエ』電子音性が告げ、エレベータの扉が開く。そこはカブキザ研究施設最下層に位置する研究室であり、ガラスの仕切りを挟んだ向こう側…部屋の中央には黒い直方体が置かれていた。
「ドーモ、マツモト・コウシロ…カブキニストです。それで…彼の物体の調査はどこまで進んだ。結果を教えてくれたまえ」カブキニストの問いに、チーフ研究員が答えた。
「ハイ、報告いたします。まず表面に掘られたこの文字ですが…これは旧時代のカブキ文字です。文字が指す意味については現在調査中…。また音波による調査を行いましたが、どうやらこの物体の中は空洞…要するにこれは箱のような物であると判明しました」
(旧カブキ文字が使われている…平安後期から江戸初期の遺物。そして箱状)カブキニストは思考する。「箱だとすると、その中身は」「ハイ、それを調べる為、今から開けてみる所です」
白衣ぴるす達が箱の周辺に集まる。「…ぴるす君に任せて大丈夫かね」「ええまあ、これが成分調査や破壊検査ならば流石に起用しませんが…単純作業ですし大丈夫でしょう。それにリーダーはニンジャぴるすです」
「セーノ…ケオーッ!」ぴるす達がタイミングを合わせて立方体の蓋へと力を込めるとその上半部が徐々に持ち上がり、やがてそれは完全に外れた。
…その時!
『whiiiizz…』「ケオーッ!?」開いた立方体の隙間から空気が噴き出し、リーダーのニンジャぴるすに直撃した!「何事かね」「中に入っていた空気が圧縮されていたのかも…だ、大丈夫だと思います」
だが!「ケオアバーッ!?」リーダーぴるすは悲鳴を上げ倒れる!「アイエッ!?」「これはどういうことだ!」「アイエエエ!分かりません!」何らかの毒物か!?カブキニストが咄嗟に隔離障壁ボタンに手を伸ばす!
…それよりも速く、倒れていたリーダーぴるすが起き上がり…。「whizz…ドーモ、…パンデミックです」その体中から怪しげな紫色気体を噴出した。
「ケオアバーッ!」「アバーッ!」「gfアバーッ!」気体を吸引した研究員たちが咳き込みながら蹲り、苦しみに悶える!「ゴホ…これは…」カブキニストの背筋がぞっとする。この気体はニンジャであっても長期吸引は有害!
「ドーモ、パンデミック=サン。カブキニストです」カブキニストは手を合わせオジギした。オジギ姿勢から戻ったその瞬間!「イヨーッ!」カブキニストは研究室を飛び出す!
「whiiiiizz…」パンデミックは緩やかに研究室外へと歩き始める。「アバー…」「ケオアバー…」「gfアバー…」パンデミックの後を追い、研究員たちが起き上がる。…その顔に生気と理性はもはや残ってはいない。
◆
地下1階、カブキザ施設メイン管理ルーム。地下の惨状が映し出される大型モニタを見つめる研究員たち、そしてカブキニスト。
カブキニストの脱出後、施設の9割が隔離障壁により密閉封鎖され一旦は有毒気体の拡散は防がれた。…だが。「600階の扉破壊されました!」パンデミックは上階へ侵攻を続ける。ここまで至るのも時間の問題。
持ち帰った汚染大気から有毒気体は正体不明のウイルスであること、被曝者の脳に感染し自我を破壊しゾンビとする事、そして現段階でワクチンの製作は不可能である事が分かった。…絶望的な事実。
「バンテリンで浄化しては?」ソメゴロが提案する。だが、ここまで広範囲に蔓延しては完全なる浄化は不可能。下手をすればバンテリン投入口から外部へと流出する危険すらある。
施設を封鎖し閉じ込めようにも奴はカラテで突破する。このままではいずれ地上まで到達するだろう。しかし、元凶である奴を倒しに向かおうにも蔓延するウイルスが危険すぎる。そして我々が手をこまねいている内に逃げ遅れた研究員たちが感染、ゾンビ戦力が増えてゆく。…なんたる災害めいたニンジャ存在であろうか。
…しかし、まだ手はある。
「ケオーッ!」水色のぴるすが天井からエントリーした。「…ドーモ、ペニシリウムです」「ドーモ、カブキニストです」「サルファリックです」
彼はタマチャン・ジャングルの悪環境の中でも繁茂する恐ろしき耐性を持ったバイオアオカビの遺伝子を移植されたバイオニンジャぴるすであり、極めて高い汚染・毒・病原耐性、ニンジャ耐久力を誇る。
…彼ならば突入できるはずだ。
◆
「イヤーッ!」パンデミックのキックにより遮断扉が破壊される。地下546階。パンデミックは破壊された扉の先にアグラする青い肌のニンジャぴるすを捉えた。
「ドーモ、ペニシリウムです」「ドーモ、ペニシリウム=サン。パンデミックです」ぺニシリウムとパンデミックがアイサツを交わす。…ここが決戦の地となる。
両ニンジャはカラテを構えたまま、ゆっくりと円を描くように動く。下手に動けば己が死ぬ。それほどまでに彼らは強力なニンジャなのだ。
ペニシリウムの肌から青い汗が溢れ、雫となって滴り落ちたその瞬間!「ケオーッ!」ペニシリウムが踏み込み、右のチョップをパンデミックへと振り下ろした!「whiiizz…」パンデミックは緩やかに体を反らしチョップを躱す!
「イヤーッ!」パンデミックは体の捩れを利用し回し蹴りを放つ!「ケオーッ!」ペニシリウムはブリッジ姿勢で蹴り足を回避!「ケオーッ!」そしてメイアルーア・ジ・コンパッソへ繋ぐ!なんたるぴるすにあるまじき練られたカラテか!
読者の皆様が優れた感覚を持つニンジャであれば見えたであろう!カブキニストからペニシリウムへと伸びる非物理存在の糸が!この糸を通じてペニシリウムへとカブキニストが己のカブキを注ぎ、その身体能力とカラテを強化しているのだ!
だが…パンデミックのカラテも後れを取らぬ!「イヤーッ!」パンデミックが回し蹴りの脚よりもさらに深く沈み込み…ペニシリウムの顎をしたたかに蹴り上げる!「ケオーッ!?」ペニシリウムの身体が宙へと浮く!
「ケオーッ!」ペニシリウムは空中で姿勢を立て直し、天井を蹴る!脚力と重力加速を加えたトビゲリ!パンデミックはクロス腕でガードするが…防ぎきれぬ!「ヌウ…」パンデミックのガードがこじ開けられた!
「ケオーッ!」着地の衝撃を逃がさずバネめいて跳ぶ!跳び膝蹴り!「グワーッ…!」顎に受けたパンデミックは堪らず床を転がる!勝機!ペニシリウムは両足に力を込めてパンデミックへと跳躍しようとした。…だが。
「ケオーッ…!?」跳べぬ!体勢を崩し倒れたペニシリウムは己の足を瞬時に確認した。「アバーッ…」足を掴む生気の無い腕。…いつの間にか、彼らが戦っている間に地下546階エリアにまでゾンビが到来していたのだ。
「シマッタ…!」敵はパンデミックのみでなかった。分かっていたはず。
だが…パンデミックのカラテが別の敵へ意識を、考えを向けさせなかった。「イヤーッ…!」パンデミックはスプリントでペニシリウムへと迫る。そして…周囲のゾンビごとペニシリウムへと断頭回し蹴りを浴びせた。「ケオアバーッ!」ペニシリウムの首が切断されて飛ぶ。
ペニシリウムの強靭なニンジャ耐久力は首なし死体をも数秒間生き長らえさせた。だが、何をできるでもなく。「サヨナラ!」そしてペニシリウムは爆発四散した。嗚呼!もはやパンデミックを止められるものは居ない!あと数時間の後、このカブキザ施設から解き放たれたパンデミックにより地上はズンビーの楽園となってしまう!ナムアミダブツ!
…だが、その時。「whizz…!これは!アバーッ!」パンデミックが呻く!ペニシリウムの爆発四散に巻き込まれ、パンデミックの身体が焼かれてゆく!
ニンジャの爆発は物理破壊を引き起こさないはずでは?そう、この爆発はニンジャソウル暴走によるものではない!ペニシリウムが爆発四散する寸前、カブキニストは彼の身体へと過剰なまでのカブキエナジーを送り込んだ。…それが爆発したのだ!
「アバババババーッ…!」過剰カブキ爆発エネルギーが地下546階の空間を、ズンビー軍団を、そしてパンデミックをも焼き尽くす!「サヨナラ!」パンデミックは爆発四散した!
◆
カブキ姿勢を解き、モニター前でカブキニストは息をつく。これでパンデミックが殺せなければ本当にオーテ・ツミであった。…だが無事に倒せた。時間が経てばキャリアーを失ったウイルスも絶え、地下の浄化も進むであろう。
…ふと、カブキニストは顕微鏡でパンデミックウイルスの培養シャーレをのぞき込んだ。…レンズの先では増殖したパンデミックウイルスが蠢く。ウイルスはいつの間にか巨大なコロニーを作り上げていた。「これは」
そして、ウイルスのコロニーは超常的な視界でこちらを眺め…『ドーモ、ウツリ・ニンジャです』超常的な声が直接ニューロンへと響く。ウイルスコロニーが爆発的増殖を…「父さん!イヨーッ!」サルファリックが腕を振ると特殊な滅菌性の薬液が降り注いだ。彼のドク・ジツの一種だ。
『whiiizz…サヨナラ!』サルファリックの毒を受けたウイルスコロニーは死滅し、爆発四散した。「これは…」爆発四散…即ちこのウイルスコロニーはニンジャなのだ。
ニンジャの本体がニンジャぴるすだと考えていた。カンオケに封印されていたニンジャソウルが解放され、彼に憑依したのだと。しかし…封印されていたのがニンジャソウルでなくニンジャだったのならば。
あのウイルスこそが太古に封印されし邪悪なリアルニンジャだとしたならば。
…ゾンビ達がニンジャの放ったウイルスでなく、ウイルスのニンジャに感染しているのならば。
先頭軍団をカブキ爆発に焼き払われたが、地下には未だ無数のゾンビが闊歩する。彼らは地下545階への隔離障壁を叩く。彼らはパンデミックよりも力が劣るのだろう、扉は壊れない…今は。しかし…これから先も本当に…?
…こうして、カブキザ地下施設は永久凍結の上、永続的な監視対象となった。『アバー…』『whiiiiizzzz…』『ケオアバー…』華やかなカブキの真下、地下深くでは今も闇が蠢く。
【パンデミック、ニンジャヴァイラス】終わり
カブキ名鑑
◆歌◆
カブキ名鑑#016
【パンデミック】
ゾンビ化ウイルスを撒き散らし、空間を汚染する邪悪なニンジャ。カブキ石棺の封印から解き放たれたニンジャソウルがニンジャぴるすに憑依し、想定外の二重ディセンションをしたものだと思われていたが…。
◆舞◆
◆歌◆
カブキ名鑑#017
【ペニシリウム】
コウライヤ所属のニンジャぴるす。胚の段階でバイオアオカビの遺伝子とニンジャソウルを加えられたバイオニンジャぴるすであり、極めて高い汚染・毒・病原耐性、ニンジャ耐久力により危険環境下でも活動が可能である。
◆舞◆
◆歌◆
カブキ名鑑#018
【ウツリ・ニンジャ】
非ぴるす。かつてはホロビ・ニンジャクランに所属していたアーチ級のニンジャであり、平安の世に生きた邪悪な天災級リアルニンジャ。歴史に残るほどの猛威を振るった破滅的疫病の影に存在していたと噂される。
◆舞◆
K-FILES
!!! WARNING !!!
K-FILESは原作者コメンタリーや設定資料等を含んでいます。
!!! WARNING !!
カブキザの地下研究施設に安置された謎の黒い直方体。その蓋が開かれたことで解き放たれたのは邪悪なるゾンビ化ウイルスであった。汚染された施設を前にカブキニストは策を練る。
主な登場ニンジャ
パンデミック / Pandemic:コウライヤのニンジャぴるすに邪悪なるリアルニンジャが乗り移った存在。その正体はウツリ・ニンジャと呼ばれる邪悪なウイルスニンジャである。彼はホロビ・ニンジャクランに所属してたニンジャであり、己の身体から発するニンジャウイルスにより周囲の生命体を汚染してゾンビ化させる。その真の姿は微小なニンジャウイルスであり、彼が散布するニンジャウイルスは彼のミニオンかつ自身の複製そのものである。彼を宿した生命体は自我を乗っ取られ、修行の果てに新たなウツリ・ニンジャとなるのだ。
ペニシリウム / Penicillium:コウライヤのニンジャぴるす。憑依ニンジャソウルは不明。彼はぴるす製造の際に胚にニンジャソウルとバイオアオカビ遺伝子を組み込まれた生粋のバイオニンジャぴるすであり、強靭なニンジャ耐久力を持つ他に体内で生成されるバイオペニシリンによって細菌やウイルスへの耐性をも持つ。本来は高品質バンテリン精製のために作られたが、彼の持つバイオペニシリンはニンジャであっても使用が危ぶまれるほどに強力なために製品化へは繋がらなかった。彼の様な胚段階からのバイオニンジャぴるす製造実験は多く行われているが、ぴるす側の耐久性の問題からか成功率は高くない。
メモ
今回のエピソードはカブキスレイヤーという作品の方向性を探る作品であるという部分を持ち、登場する敵ニンジャはぴるすであってぴるすではない…言わばぴるすの身体を借りた亡霊のようなものだ。それ故にカラテシャウトもぴるすシャウトではないし、あまり愚かでもない。オリジナルリアルニンジャを出してもいいのか?それが神話級や災厄の様な存在であってもいいのか?最強オリキャラのようにならないか?といった危惧はそもそもカブキニスト自体そういった部分があるじゃんという閃きにより掻き消された。
今回のエピソードを作る理由となったのは「そろそろゾンビを出したい」という気持ちと「VirusとPirusって似てない?」というちょっとした思い付きであり、その骨格に適当な舞台と背景、そしてカラテやニンジャを肉付けして生まれた。ゾンビを書くにあたって本編のゾンビストーリーやゾンビ映画を参考としていて、健闘するも完全に倒しきることはできない…場合によっては続編があるかもしれない終わり方をするって所も彼らに準じている。実際ウイルスや細菌形式でばら撒かれる空気感染のゾンビ化病原なんてものが存在したらワクチンでも作れない限り現実でも完全撲滅は不可能だろうと思う。僕はゾンビ映画のそういった無力感溢れる…あるいは続編を目に見えて狙っている…そんな終わり方が結構好きなんだ。