裁判①詐欺罪ー前編ー
裁判に行った理由としてはただ興味があったからとしかいえないけれど、いざ傍聴するとなるとどの裁判を選ぶかというのは問題だった。行ってみてわかったことだが、裁判というのは1日にいくつも行われていて民事が多いのはもちろん、結構な数の刑事裁判も行われていた。刑事事件の中では薬物関係が多く、薬物にかかわったことのない私としては意外に感じた。殺人などのテレビで見るような凶悪犯罪は見つけられずに、ドラマのような事件、(そんな事件ない方が良いのは当たり前だけど!)を心のどこかで期待していた私としては肩透かしをくらったような、ホッとしたような気分だった。
その日に行われる裁判は専用のタブレットで検索ができ、私はそのハイテクさに少々面食らった。その周りにはたくさんの人が集まっており傍聴を趣味とする人の多さを感じさせ、慣れた手でタブレットを操りメモを取っていく彼らは私に場違いだよと言っているようで、少し怖気付いた。
さて先人の知恵を借り、プロが話すため民事より刑事の方がわかりやすいこと、初公判のものは事件の概要が説明されることなどを知った私たちは刑事事件の新件にしぼり傍聴することに決めた。そうして目当ての裁判を探し当て私達は傍聴へと向かったのだった。
まず傍聴したのは高等裁判であった、これは上告した理由を読み上げるだけで、検事の言っていることが専門的でよくわからないと思っているうちに、ものの8分で終わってしまった。事件の概要は掴めなかったけれど窃盗罪だった。目の前にいる被告人はドラマで見るように手錠とロープで繋がれていて警察官に囲まれていた。裁判を見ているときは小説でも読んでいるような気分になるのだろうかなんて思っていたが、実際に目にすると目の前で起こっている現実なのだと感じた。自分の正面にいるどこにでもいそうな長身で痩せ身の男が犯罪を犯したのだと、そう思うと急に怖くなった。私と彼は赤の他人であるそれでも私は彼の人生の大きな一部分の断片を垣間見たのだ。
前置きが長くなってしまったが本題に入ろうと思う。詐欺罪の裁判は地方裁判所の新件であった。開廷前に入廷するとそこには私の祖父ぐらいに見えるおじいさんと検察官が座っていた。裁判の部屋は狭く傍聴人席は20人ほどで、気がつくと満席になっていた。私はまさかこのおじいさんが被告人ではあるまい、証人か誰かだろうと思っていた、それだけそのおじいさんが善良そうで全く犯罪者には見えなかったのである。しかし裁判が始まる時間になっても現れたのは弁護人と裁判官のみ、その善良そうなおじいさんこそが今回の詐欺罪の裁判の被告人だったのだ。この裁判で私は色々なことを考え切なくなってしまった。
長くなったので後編に分けます。次は初の裁判編です。つづき→ https://note.mu/saya275/n/n1e1528d0b2a2