裁判①詐欺罪ー後編ー

https://note.mu/saya275/n/n355a5e4fce8a の続きです。

裁判が始まると被告人の略歴が読み上げられた。被告人はAさん無職77歳。少し耳が遠いらしく質問の受け答えに詰まっていた。

事件のあらましはこうだ。Aさんは自営業だったが経営が傾き、ついに差し押さえられてしまう。会社の借金は2500万にのぼった。日々の生活に困ったAさんはヤミ金から10万円程借りた。ヤミ金の取り立ては厳しく、さらに金利が高いため借金を返済するのは難しかった。そんな時にヤミ金からネットバンクに口座を作り、それを自分達に譲るように持ちかけられる。結果Aさんはヤミ金の言う通りネットバンクに口座を開設しそれをヤミ金に渡してしまった。そして3万円の借金がチャラになり、さらにヤミ金が2万円をくれたという。

口座を他人に譲ることは犯罪であるため今回裁判に至ったのだという。私はフィクションの世界の存在だと思っていた闇金融業者が実際に存在していることに驚いた。さらにイメージ通りの取り立ての厳しさと金利の高さなのだなぁと実感が湧かなかった。質問が進むにつれ、Aさんに同情してしまっていた。勝手な想像だがAさんは事業を誠実に営んでいたものの、上手くいかなくなり犯罪に手を染めてしまったのではないかとかなり同情的な考えになっていた。それはAさんが優しそうなおじいさんにしか見えず、耳も遠く、足取りもおぼつかないそんな様子だったからだと思う。

気がついたら深く彼に同情していた私だったけれど、検事質問の「どのような事情はあれ犯罪ですよね?」という質問にハッとした。検察官は非常に冷静で冷酷にすら見えた。でもそれが現実なのである。勝手に同情していた私だけど犯罪は犯罪その事実は変わらない。どんな事情があろうと一度法を犯したら裁判になり裁かれる。そこには感情など関係なく、ただ事実しか存在しないのだなと感じた。

この裁判の結果がどうなるかはわからないけれど執行猶予がつくといいな、などと思う。甘いのかもしれない、しかし人の良心というものを信じてみたいなとそう思った。

詐欺といえば結婚詐欺やおれおれ詐欺が思い浮かび、被害額も大きい派手な事件を想像していた。しかし今回の事件は何処にでもいそうな人が起こしたものだった。そう考えると私達もいつ犯罪に巻き込まれてもおかしくないのだ。もしかしたらこの瞬間も身近なところで犯罪が起こっているのかもしれない。そんなことを考えながらAさんの背中をみて、人生って難しいななどと少し寂しく思いつつ、この人のこれからの人生が明るいものでありますようにと勝手に祈りながら裁判の傍聴を終えたのだった。

#裁判 #傍聴 #詐欺

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