おおくぼ系 短篇集Ⅳ
アナログ作家の創作・読書ノート
NOTEに掲出した短編をまとめて〈短篇集Ⅳ〉を編みました
〈 解説 〉 志村 有弘 文芸評論家
おおくぼ系の(おおくぼけい)の「砂原利倶楽部ー砂漠の薔薇」は、本選集(現代作家代表作選集)の為に書き下ろした作品。作品の語り手で主人公は新聞社を退社し、作家として生きようと思っている深見南海。登場人物がそれぞれ個性的だ。偶然に知り合った砂原利倶楽部のママ。倶楽部に勤める萌え。あるいは本当の主人公は、中退したものの大学で仏文を専攻し、作家志望であったママであるのかも知れない。ママには外国人の恋人がいたが、男は韓国へ出立していった。ママの鋭い言動が印象的だ。作中の深見は作家として三國小説賞一次候補作となったのだから、将来、作家として飛躍する可能性を秘めている。グアムの風光も詳細に記される。サツマと表記したり、作品の舞台をときおり異国に置くのもおおくぼの特色。作中、「世の中は戯画に満ちている」という名言もある。だから小説が存在するのだ。歯切れがよく、どことなく明るさを持つ文体もこの人の特色といえる。おおくぼの「アラベスクー西南の彼方でー」が『現代作家代表作選集 第2集』に掲載されている。この作品には、サラリーマンの悲哀が描かれ、主人公はアラブの金融ブローカーになれないものか、と思っている。そしていかにもサツマ人らしく、男気も示される。私は「九州文學」誌上で、おおくぼの作品「百日紅の海」(平成二十一年四月)・連載「海紅豆の秋」平成二十二年一月、四月、七月)・「桜花吹雪の季節」(臨時増刊号。平成二十三年五月)・「再会の館」(平成二十四年一月)・「銀色のBULLET(銃弾)」(平成二十四年十月)などを読んできた。「百日紅の海」では薩摩人を登場人物に配して純愛・友情を示し、「海紅豆の秋」には多彩な登場人物の言動がテンポの早い文体で綴られ、作者の作品構成、ストーリー展開の巧みさに天賦の才を感じさせられた。「桜花吹雪の季節(オトコたち)」は登場人物の力強さに作者の体に流れる薩摩隼人の血を感じ、「再会の館」は主人公エリコの人物造形が見事であった「銀色のBULLET(銃弾)」は、芸能プロに生きる男の誠実な姿に感動させられた。『花椿の伝言』は「姫」と称される祁答院尚子の激しい気性と儚い生涯が読む者の心に哀しく残った。おおくぼ系には、他に小説『ブーゲンビリアの花』(新風社、二〇〇七年)もある。作品の題名にしばしば花の名を書き入れるのも、おおくぼの浪漫的心情の表彰であろう。
*〈現代作家代表作選集 第8巻〉から転載
〇NOTEに掲出した 短編 〈 砂原利倶楽部ー砂漠の薔薇 〉
〈 桜花吹雪のオトコたち 〉
〈 ナッキー姉の手紙 〉
〈 銀色のBULLET(銃弾)〉
の四編で、短篇集Ⅳを編みました。よって同上の四編は、数日後に掲載を削除します。ご了承ください。
なお、POD出版は11月初めを予定しています。